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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第17回】

ギリシア独立200周年である2021年ももうすぐ終わりですね。今年もまたコロナのせいでギリシア旅行は叶いませんでしたが、来年には海外旅行が復活してくれることを願うばかりです。ペリクレスが下記で弁じている通り、現代日本人にも重労働から休息できる場所が必要なのです…!

ペリクレス葬礼演説解説の第1回目はこちら
ペリクレス葬礼演説解説の第16回目はこちら

原文(Thuc. 2.38)と翻訳:17文目

καὶ μὴν καὶ τῶν πόνων πλείστας ἀναπαύλας τῇ γνώμῃ ἐπορισάμεθα, ἀγῶσι μέν γε καὶ θυσίαις διετησίοις νομίζοντες, ἰδίαις δὲ κατασκευαῖς εὐπρεπέσιν, ὧν καθ᾽ ἡμέραν ἡ τέρψις τὸ λυπηρὸν ἐκπλήσσει. 

Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.

筆者翻訳
そして更には、我らは重労働からさえ休息できる極めて多くの場所を心に与えた。というのも、我らは少なくとも競技祭や一年中開催される犠牲式、見栄えの良い個人個人の建物を皆で利用しているからで、それらの喜びは悲しみを日々追い出してしまうのだ。

※個人個人の建物:市民たちの家屋のこと。公共においても私的空間においても喜びを得られるということを表現している。(Benjamin Jowett, 1881)

解説:語彙

・καὶ μὴν:新たな事実や主張を追加する際に合わせて用いられる。「そして更には」
・καὶ:強調の副詞
・τῶν:冠詞・男性・複数・属格、πόνωνと繋がる。
・πόνων:基本形はπόνος、名詞・男性・複数・属格、「重労働」
・ πλείστας:基本形はπολύς、形容詞・女性・単数・属格・比較の最上級、ἀναπαύλαςを修飾し「極めて多くの」
・ἀναπαύλας:基本形はἀνάπαυλα、名詞・女性・単数・属格、属格(τῶν πόνων)を取り「~から休息できる場所」
・τῇ:冠詞・女性・単数・与格、γνώμῃと繋がる。
・γνώμῃ:基本形はγνώμη、名詞・女性・単数・与格、「心に」
・ἐπορισάμεθα:基本形はπορίζω、動詞・アオリスト形・中動態・1人称複数・直説法、「~を生み出す」
・ἀγῶσι:基本形はἀγών、名詞・男性・複数・与格、「競技会」
・μέν:小辞、 後節のδὲと合わせて、節同士の繋がりを持たせる。ここでは対比の意味合いは無い。
・γε:強調の小辞、「少なくとも」
・καὶ:接続詞、ἀγῶσιとθυσίαιςを接続する。
・θυσίαις:基本形はθυσία、名詞・女性・複数・与格、「犠牲式」
・διετησίοις:基本形はδιετήσιος、形容詞・女性・複数・与格、θυσίαιςを修飾し「一年中開催される」
・ νομίζοντες:基本形はνομίζω、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・主格、与格(ἀγῶσι, θυσίαις, κατασκευαῖς)を取り「~を皆で利用する」
・ἰδίαις:基本形はἴδιος、形容詞・女性・複数・与格、κατασκευαῖςを修飾し「個人個人の」
・δὲ:小辞、前節のμένと合わせて、節同士の繋がりを持たせる。ここでは対比の意味合いは無い。
・κατασκευαῖς:基本形はκατασκευή、名詞・女性・複数・与格、「建物」
・εὐπρεπέσιν:基本形はεὐπρεπής、形容詞・女性・複数・与格、κατασκευαῖςを修飾し「見栄えの良い」
・ὧν:関係代名詞・中性・複数・属格、ἀγῶσι・θυσίαις・κατασκευαῖςを先行詞として取り、従属節内のτέρψιςへと繋がる。分かりやすく指示代名詞的に訳した。「それらの~」
・καθ᾽:前置詞、ἡμέρανと共に使用し「日々」
・ἡμέραν:基本形はἡμέρα、名詞・女性・単数・対格、καθ᾽ ἡμέρανで「日々」
・ἡ:冠詞・女性・単数・主格、τέρψιςに繋がる。
・τέρψις:基本形は同じ、名詞・女性・単数・主格、「喜び」
・τὸ:冠詞・中性・単数・対格、λυπηρὸνに繋がり名詞化している。
・λυπηρὸν:基本形はλυπηρός、形容詞・中性・単数・対格、「悲しみ」
・ἐκπλήσσει:基本形はἐκπλήσσω、動詞・現在形・能動態・3人称単数・直説法、「~を追い出す」

解説:構造

主文と従属文とに大きく2分することができます。

主文:
καὶ μὴν καὶ τῶν πόνων πλείστας ἀναπαύλας τῇ γνώμῃ ἐπορισάμεθα,

従属文:
ἀγῶσι μέν γε καὶ θυσίαις διετησίοις νομίζοντες, ἰδίαις δὲ κατασκευαῖς εὐπρεπέσιν, ὧν καθ᾽ ἡμέραν ἡ τέρψις τὸ λυπηρὸν ἐκπλήσσει.

従属文は分詞のνομίζοντεςが軸となっており、主文の主語(我々)を修飾する形で、主文と繋がっています。ここでは理由の分詞と取り、「というのも…から」という風に分かりやすく文章を独立させてみました。

νομίζοντεςは「考える」の方が親しみ深い意味ですが、ここでは「皆で利用する」"make common use of, use (LSJ)"の意味になります。与格を取るので、μέν...δὲやκαὶで連結されている ἀγῶσι・θυσίαις・κατασκευαῖςの3つが目的語になると思われます。

ὧνは関係代名詞なので、ἀγῶσι・θυσίαις・κατασκευαῖςを先行詞とする節を形成します。(κατασκευαῖςだけを先行詞と取る訳もありますが、少し不自然なので、私は上記3単語全てを先行詞として取りました)直訳すれば、「それらの喜びは悲しみを毎日追い出してしまう競技祭や犠牲式、建物」という感じでしょうか。「筆者翻訳」では、分かりやすく、指示代名詞的に訳してみました。

逐語訳

そして更には(καὶ μὴν)、我らは重労働から(τῶν πόνων)さえ(καὶ)休息できる(ἀναπαύλας)極めて多くの(πλείστας)場所を心に(τῇ γνώμῃ)与えた(ἐπορισάμεθα)。というのも、我らは少なくとも(γε)競技祭(ἀγῶσι)や(καὶ)一年中開催される(διετησίοις)犠牲式(θυσίαις)、(μέν...δὲ)見栄えの良い(εὐπρεπέσιν)個人個人の(ἰδίαις)建物を(κατασκευαῖς)皆で利用しているからで(νομίζοντες)、それらの(ὧν)喜びは(ἡ τέρψις)悲しみを(τὸ λυπηρὸν)日々(καθ᾽ ἡμέραν)追い出してしまうのだ(ἐκπλήσσει)。


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