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週末読書メモ39. 『The Art of Marketingマーケティングの技法 パーセプションフロー・モデル全解説』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

一流のマーケター・戦略家の方による、まるで現代の兵法書のような一冊。


現代のマーケティング界隈で、ひときわ存在感を放つP&G出身の方々。

本作は、その中のお一人である音部大輔さんによる最新作となります。


まず本書では、現代のマーケティング・ビジネス界の取り巻く状況が説明され、冒頭から引き込まれます。

消費者行動のデジタル化はマーケティングのデジタル化を促します。新サービスやツールが次々に生み出され、テクノロジー産業やサービスを示したカオスマップは複雑化する一方です。ところが、一つひとつの施策の効率や効果が高まったとしても、マーケティング活動全体の成功に結びつかないことがしばしば起こっています。部分最適の延長線上に、必ずしも全体最適があるわけでないのです。

マーケティングを指揮することは、複数の楽器で構成されたオーケストラを指揮したり、多様な兵科で構成された部隊を率いたり、さまざまな領域の専門家が関与する大きな建造物を建築したりするのに似ていると思います。いずれも、楽譜や作戦ずや設計図が必要です。大勢を巻き込んで複雑な活動を連携されるためには、構想を目に見える形で示す必要があります。

複雑化した現代において、マーケティング活動の難易度が上がっていることが背景にあり、本書では、マーケティング活動全体を統御する必要性・その手法が詳らかとされていきます。

その設計図こそが、サブタイトルにもある「パーセプションフロー・モデル」となります。

パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識(パーセプション)変化を中心としたマーケティング活動の全体設定図です。

パーセプションフロー・モデルは、製品や流通経路、販売の視点から「どのように売るか」という旧来型のアプローチではなく、消費者の視点から「どのように欲しくなり、満足するか」を考え、可視化します。

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圧巻。古今東西の戦略理論、および、25年以上にも渡る第一線での実戦から得られた知識・経験が土台にある、普遍的であるとともに、極めて実務的なフレームワークとなっています。

学者の方々が作られた理論に対して、項目名がシンプルでありつつも、項目数が多いという特徴は、パーセプションフロー・モデルが、簡易さではなく、結果を出すことを重視していることを示しているように感じます。

長い年月、このモデルを活かし・磨き上げられて来られたこと、その境地の高さに鳥肌が立ちました。

読感としては、RPG序盤で最終武器を手にしたような感覚です(笑)

正直、今の自分の力量では活かしきることが容易ではなく。けれども、これを使いこなせるようになった未来、非常に大きな戦力を駆使できることを確信するような内容でもありました。


個人的に最も刺さったのは、下の箇所です。

ユーザー理解を進めると、いろいろなユーザーがいて、パーセプションの経路も複数あることが分かります。パーセプションフロー・モデルは「未来の設計図」なので、もっとも効果的・効率的なルート、つまり【現状】から【再購入】への最短距離を1本だけ描きます。「現在の状況」を網羅する必要はありません。

これは…まさしく、孫子のいう「我は専もっぱらにして一となり、敵は分かれて十とならば、これ十をもってその一を攻むるなり。すなわち、我は衆おおくして、敵は寡すくなし」と同じ。

戦いの原理原則は普遍。歴史を学んできた人・知っている人が辿り着く場所があることを、改めて感じるような一節でした。


また、本書の魅力は、上記パーセプションフロー・モデルの概要と使い方、実践例が示されていることと同時に、組織構築・強化に関わる部分が強調されていることです。

パーセプションフロー・モデルの導入は、経験や知識を共有するプラットフォーム(基盤)を構築することでもあります。いわば、マーケティングのOS(オペレーションシステム)ですから、AブランドにもBブランドにも共通基盤として使うことで、経験値の共有だけでなく、移動時の引き継ぎなども円滑にできます。
組織でも個人でも、成長の多くは知識の獲得を通して成されます。成長を「昨日できなかったことが明日できること」と定義したとき、昨日できなかったのに明日できる理由のひとつは「今日、やり方が分かるから」です。つまり新しい「知識」を手に入れるということです。
(中略)こうした知識の伝播では、知識を収集し、蓄積し、流通する、という3つの活動を重視すると有効です。そして、いずれの活動でも必要となるのが共通言語です。知識は共通言語で伝播するからです。

結果から学ぶためには、どのようなことに気をつけるべきでしょう。いくつも成功や失敗を経験し、観察して気がついたことは、「繰り返し」を意識することの必要性です。「繰り返しが予想される活動に臨むとき、次の挑戦を念頭に置く」ことで経験から得られるラーニングに大きな差が出ます。「成功や失敗から学ぶ」とはすなわち、「2回目によりよい成果を出すために、1回目の結果から、さらに改善し、修正すべき箇所を見出そうとする」ことです。
(中略)活動の振り返りでは「より上手くやるために、どこを改善し、修正すべきか」を学ばなくてはなりません。「もし、もう一度やり直せるなら、どのように変えますか?」という問いへの答えです。理解すべきことは2点、すなわち、「仕組み」と「働きかけ方」です。

結局、いかなるマーケティング・戦略を遂行するかは、資源に応じるため、人・組織の総力が重要であることは間違いありません。

”素人は「戦略」を語り、プロは「兵站」を語る"、”三流は戦術を語る。二流は戦略を語る。一流は兵站を語る。”という格言があります。

現代ビジネス一流のマーケター・戦略家と呼ばれる音部さんが、組織(資源)も強調することは、現代においても、兵站が重要であることを物語っています。


余談ですが、たまたま、筆者の音部さん、同じくP&G出身の野上麻里さん(著書『ピークパフォーマンス』)さんとお会いする機会に恵まれました。

お二人に共通していたのが、その知見の高さだけでなく、一介の若者に対しても、明るく気さくに接してくださるそのお人柄。

お二人が素晴らしい方であるのは勿論な上で、スキルと人間性が高いレベルで共存している人々を引き寄せ、更に磨き上げるP&Gという器に感服せざるを得ません。

自分が、これからの人生でP&Gで働くことは叶わなくとも、そんな方々が共に働きたいと思える人間を、組織を目指して行きたいなあ。


少し話が逸れましたが、音部さんの過去作、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』、『マーケティングプロフェッショナルの視点』を何度も参考にしていたため、期待して本書を手に取ったのですが、その期待を大きく上回る内容でした。

マーケティング戦略の策定・実行の観点からも、組織の構築・強化の観点からも、多くの方にとって必見です。

強い者はもちろん、弱い者こそ、戦略と兵站と向き合うことが、今いる世界を動かす突破口となるはず…いや、もうそれしかない。


【本の抜粋】
消費者行動のデジタル化はマーケティングのデジタル化を促します。新サービスやツールが次々に生み出され、テクノロジー産業やサービスを示したカオスマップは複雑化する一方です。ところが、一つひとつの施策の効率や効果が高まったとしても、マーケティング活動全体の成功に結びつかないことがしばしば起こっています。部分最適の延長線上に、必ずしも全体最適があるわけでないのです。

パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識(パーセプション)変化を中心としたマーケティング活動の全体設定図です。
(中略)パーセプションフロー・モデルは、製品や流通経路、販売の視点から「どのように売るか」という旧来型のアプローチではなく、消費者の視点から「どのように欲しくなり、満足するか」を考え、可視化します。

マーケティングを指揮することは、複数の楽器で構成されたオーケストラを指揮したり、多様な兵科で構成された部隊を率いたり、さまざまな領域の専門家が関与する大きな建造物を建築したりするのに似ていると思います。いずれも、楽譜や作戦ずや設計図が必要です。大勢を巻き込んで複雑な活動を連携されるためには、構想を目に見える形で示す必要があります。

当時の洗濯洗剤市場は、3つか4つのブランドで市場の大半を占めていました。お互いがお互いを強く意識し、また手の内もかなり見えていました。私たちの「除菌」のアプローチに対して、競合からのマーケティング上の対抗策はきわめて限定的でした。例えば、アリエールの導入直前に、増量パックや大きめの値引きなどを行なって家庭内の在庫を増やしてしまえば、アリエールの消費者の反応を鈍化できたはずです。
(中略)除菌の導入と同意に「いい洗剤」の定義を変えていったように、「新しい機能やベネフィットの導入と同時に、市場を再創造してニーズを創出されると、競合は事前に脅威を感じることなく、先制防御的なマーケティング活動を用意しにくい」ということに気がつきました。

パーセプションフロー・モデルの導入は、経験や知識を共有するプラットフォーム(基盤)を構築することでもあります。いわば、マーケティングのOS(オペレーションシステム)ですから、AブランドにもBブランドにも共通基盤として使うことで、経験値の共有だけでなく、移動時の引き継ぎなども円滑にできます。
組織でも個人でも、成長の多くは知識の獲得を通して成されます。成長を「昨日できなかったことが明日できること」と定義したとき、昨日できなかったのに明日できる理由のひとつは「今日、やり方が分かるから」です。つまり新しい「知識」を手に入れるということです。
(中略)こうした知識の伝播では、知識を収集し、蓄積し、流通する、という3つの活動を重視すると有効です。そして、いずれの活動でも必要となるのが共通言語です。知識は共通言語で伝播するからです。

ユーザー理解を進めると、いろいろなユーザーがいて、パーセプションの経路も複数あることが分かります。パーセプションフロー・モデルは「未来の設計図」なので、もっとも効果的・効率的なルート、つまり【現状】から【再購入】への最短距離を1本だけ描きます。「現在の状況」を網羅する必要はありません。

結果から学ぶためには、どのようなことに気をつけるべきでしょう。いくつも成功や失敗を経験し、観察して気がついたことは、「繰り返し」を意識することの必要性です。「繰り返しが予想される活動に臨むとき、次の挑戦を念頭に置く」ことで経験から得られるラーニングに大きな差が出ます。「成功や失敗から学ぶ」とはすなわち、「2回目によりよい成果を出すために、1回目の結果から、さらに改善し、修正すべき箇所を見出そうとする」ことです。
(中略)活動の振り返りでは「より上手くやるために、どこを改善し、修正すべきか」を学ばなくてはなりません。「もし、もう一度やり直せるなら、どのように変えますか?」という問いへの答えです。理解すべきことは2点、すなわち、「仕組み」と「働きかけ方」です。
(中略)ボールをバット打つことを想像してみましょう。「仕組み」を理解することは、飛んできたボールにバットがどう当たるとよく飛ぶか、といういった作用や原理を知ることです。
(中略)対して、「働きかけ方」を理解することは、どうすればバットをうまく触れるか、といった体の使い方を知ることです。

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