夫に「お雑煮つくって」と言えるくらい図太くなりました
「上手な手の抜き方を身につけた方がいいですね」
そう中学時代に三者面談で言われたらしい。
全然覚えてないけど、母にとってはかなりインパクトがあったようだ。「子ども三人育てたけどそんなこと言われたのは貴方だけ」と度々話してくれた。
その意味を痛感したのは子どもを産んでから。実に15年以上経ってやっとですよ、先生。
元々わりとエネルギーがあってやりたいことも多く、それらを全部やってこれた人生だった。
ただそれも、器用だったのではなくて、へろへろになりながらも気合いでガッと片付けてきた感じ。産後は流石に、気合いだけでは無理だった。
すべてを完璧にやろうとすると、死ぬな。
そう直感したので、「上手いこと手を抜く」方法を真剣に身につけることにしたのがここ数年のわたしなのだ。
先生、先生。真面目さを善とし、減点主義で、人格教育も行う学校現場において、あんなことを言ってくれるなんて、先生はまさに「プロ」だったのですね。
そして先生、年末年始、「妻」とか「母」とかいう肩書きがある人は、伝統や慣習などの見えない力により馬車馬のごとくやる事があってクソ忙しいものですが、私はとうとう夫に「お雑煮つくってくれる?」と言えるまで、図太く、ゆるく生きられるようになりました。
褒めてくれるかしら?
🎍 🎍 🎍
30日、大掃除をしながら「お雑煮やべぇ……」とずっと頭の片隅でもやもやしていた。
28日に仕事を納め、29日は夫が自転車ロングライドに行ってしまいワンオペ家事育児。30日は大掃除と買い出し、を予定していたがいかんせんやる気が出ない。
お節はもう好きで確実に消費できる栗きんとんと黒豆と松前漬けだけ買って、後はテリーヌで誤魔化すというのに。
以前は重箱のお節を買っていたけれど、値段の割にすぐ食べきってしまうし、息子の分も考えるとなかなか値段が痛くて止めた。
ついでに年賀状もやめた。コロナで帰省もやめた。
あらゆるお正月の「やること」を削ったので、せめてお雑煮くらいは……という気持ちとは裏腹に、足も心も重い。しかしずっとうっすら考えていた。
我が家には、私より料理が上手で頼りになる大人がいるではないか。
「夫さん、あの……お雑煮つくってくれないかな……?」
30日になって言うんかい。
と自分でつっこみながら恐る恐る切り出すと
「いいよ」
と案外あっさり引き受けてくれた。
「材料は?」
「任せる」
「何買ってある?」
「何も」
「え……?」
「な に も」
餅すら買ってなかった。冷蔵庫にあるにんじんは、別の予定で生協で買ったもの。やる気の出なさが生半可ではなかったのだ。
「これ、ちょっとでも昔の考えのある旦那さんだったら耐えられてないよ?」と笑いながら、夫は早速買い出しに行ってくれた。
惚れた。惚れなおした。
宇宙一の夫だぜ、夫。
🎍 🎍 🎍
1月1日。
目を覚ますと、台所からトントントントン、と包丁を振るう音がする。
ぼこぼことお湯が沸く音。冷蔵庫を開けて、閉めて、何かをキッキンに置く音。夫が動く気配。
おしょうゆかな。
誰かが料理をしている音を、もふもふの布団の中で聴きながらまどろむのはしあわせだ。
伸ばした腕のうえでは、息子がくぅくぅ寝息を立てている。昨日は結局、日付が変わる頃まで起きていた。まだしばらく目覚めないだろう。
実は毎朝、私の腕枕で眠る息子からうまく離れるのに難儀している。「ううん💢」と半ギレで腕枕を要求されたり、ひしっとしがみつかれたり。
嬉しさと時間との戦いでいつも引き裂かれる思い。
でも今日はその苦しみもない。
「おはよう。かおるさんは、お餅ひとつ?」
ゆっくりと襖を開けて夫が顔を出す。
まだむにゃむにゃしている息子を置いて、「うん、ひとつ」と答えながらパーカーを羽織った。
餅を焼いて、器によそう夫の隣で、普段戸棚の奥にあるお皿を引っ張り出して洗い、栗きんとんと黒豆と松前漬けを入れ、テリーヌを切る。
お正月用の、華やかな袋に入った割り箸を並べる。
とてもしあわせな新年の幕開けだった。
🎍 🎍 🎍
「しあわせ」の形は人それぞれ違う。
家族のために料理をするのがしあわせな人もいれば、外で働くのがしあわせな人もいる。お正月に豪華な重箱に入ったお節が嬉しい人もいれば、実は松屋の山盛り牛丼が食べたい人もいるだろう。
私の「しあわせ」はあまり旧来の女性像にはあわないようだ。それを、「できる方がやればいいんじゃないかな」と受け入れてくれる夫にはとても感謝している。
私も他の人の「しあわせ」を尊重できる人でありたい。例え自分と違っていても。
今年も一年、この人を大切にし、もし夫が苦しい時は代わりに私ががんばろう、そう心に誓った。
※ここからは、投げ銭くださった方へおまけで夫の作ってくれたお雑煮にについです。トップ画像のとは違うよ。ちなみに夫は静岡出身です。
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