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シルクロードの憧れー平山郁夫美術館を訪ねてー

 シルクロードに憧れを持ったのはいつからだろうか。たぶん、小学校低学年の頃、平山郁夫の「シルクロードを行くキャラバン」を見てからだとうっすら記憶している。砂漠に負けぬ雄々しいラクダと美しい白の服を着た人々。荒涼とした廃墟。緑に包まれた土地に住む僕には想像できない世界。夢中で本の挿絵を見つめていた。

G7の芳名録


 先日、G7の各国首脳らが広島の原爆資料館で芳名録にメッセージを記した。その様子はテレビ画面を通して全世界に配信されていた。僕も、見た。目を奪われたのは首脳らが資料館で記帳する姿ではなく、一つの作品だった。居並ぶ首脳らの後ろに大きな存在を放っているラクダたち。「平山郁夫だ」。つい声がでた。幼い頃に夢見たシルクロードが鮮やかに蘇った。その時、どうしても平山郁夫の作品が見たくなった。なぜか分からない。特に詳しいわけでもない。強いて言えば、あのラクダが見たいと思ってしまったのだ。

尾道市瀬戸田町


 どこに行けば絵を見ることができるのか。平山郁夫が広島出身で被爆者あることは知っていたが、美術館や記念館の所在は知らなかった。調べると、広島県尾道市瀬戸田町に平山郁夫美術館があることを知った。尾道には何度か行ったことがあるのに存在を知らなかったことは痛恨だ。

平山郁夫美術館


 昭和5(1930)年6月15日、平山郁夫はこの町で生まれた。海と絵が好きな少年だった。人生の大きな転機は二度あった。一度目は中学生の時の広島原爆投下による被爆。二度目は彼の人生を通じたテーマである「仏教伝来」を見つけたことだった。

平山郁夫美術館入口


 美術館に入りまず目に留まったのは、絵日記。平山が小学生の夏休みに描いたものが多い。どれも子供としては十分に上手いし、登場人物や島の自然が勢いよく描かれていて心地いい。中学生になると、絵心のない僕でも分かるほど、上手い。「山本元帥」などは肖像画としてうまく特徴も捉えられているし、「曾我兄弟復讐之図」は迫力もシーンの描き方も素晴らしい。
 また、10分ほどで彼の人生を振り返ることがでる映像コーナーや敦煌莫高窟がスーパークローン文化財として再現されていることには驚いた。敦煌莫高窟は、正面には仏が鎮座し、四方の壁には無数の仏が描かれており、壁の剥げ具合など精巧に再現されている。これを生で見た時の平山はどのような感想を持ったのだろうか。

「パミール高原」


 第三展示室には、待ちに待ったシルクロードをテーマにした作品が多く展示されていた。

パミール高原を行く


 これを見るためにここに来たのだ、と心が躍った。子供の時に憧れたシルクロード。日本に「文化」を運んできた道。その源流に平山は強く憧れていた。それが作品から強烈に伝わってくる。
 彼の描く夜空には満月が多く出てくることに気がつく。シルクロードに満月の夜空はよく似合う。どこまでも広がるロマンと悠久の歴史を感じさせる。平山の夢見たシルクロードの国は、もうない。しかし、満月はいまも変わらず毎夜、砂漠を照らしている。
 平山はそのシルクロードを80回以上制作旅行で訪れた。その情熱はどこからきたのだろうか。被曝体験がその根底あることは間違いない。彼はその不安と恐怖と長い間戦い続けた。きっと、自分は「短い命」だと思っていたのだろう。だからこそ、日本の源流を追い求める旅を通じ、寸暇を惜しんでデッサンしタブローを制作した。それらの作品は芸術の価値だけでなく、文化人類学的な価値も担っている。
 平山の絵を見ていると、不思議と一緒にシルクロードを旅しているように感じられる。それはきっと彼の高いデッサン力や構成とは別に、親しみやすい彼自身の澄み切った精神が感じられるからではないか。
 僕もあのキャラバン隊の一員として砂漠を歩けたら、失われた栄華のカケラでも見つけられたなら。そんな楽しい妄想に囚われてしまった。

美術館内の喫茶店オアシス
モンゴル高原

ー旅のお供ー


お昼は瀬戸内海名物のたこめし。歯応え抜群。味付けも濃過ぎずいくらでも食べられる。付け合わせのたこわさがいいアクセント。

たこめし

デザートは瀬戸田レモンシャーベット。海を眺めながら真夏に食べるシャーベットに勝るものなし酸っぱさもほど良し。

瀬戸田レモンシャーベット

晩御飯は尾道市内に戻り、尾道ラーメン。背脂醤油は見た目ほどのくどさもなく食べやすい。細麺はあっという間になくなった。チャーシューが特に美味く、チャーシュー大盛りにしなかったことを後悔。

尾道ラーメン

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