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裁量労働制など労働時間制度の見直し(規制改革推進に関する答申)

内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の第13回会議が先週の金曜日(2022年5月27日)にオンライン開催されたが、議題は「規制改革推進に関する答申(案)について」。そして、規制改革推進会議開催後、「規制改革推進に関する答申」が内閣府サイトで公表された。

規制改革推進に関する答申(全文)(PDFファイル)

労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し

規制改革推進会議開催後、内閣府サイトで公表された「規制改革推進に関する答申」には「3.人への投資」「(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し」の中に「ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し」という項目がある。

3.人への投資
人への投資ワーキング・グループでは、期初の方針に基づき、「個々の児童・生徒等に最適な学びを提供する環境整備」、「多様で柔軟な働き方・自律的なキャリア形成に向けた環境整備」、「安心な子育ての実現に向けた環境整備」という視点の下、効果の高い規制改革について議論を行った。
社会の人への投資を促進し、経済成長を支えるためには、学修者主体教育への転換を目指し、デジタルを前提とした、初等・中等・高等教育の各段階における社会に開かれた個に応じた学びの実現やイノベーションを促進する環境作りが求められる。また、労働時間制度や雇用仲介制度、職業訓練・能力開発に関する制度について、労使双方にとって有益な、新しい時代にふさわしいものに見直す必要がある。さらに、養育費の確保や保育等の充実に向けた取組を進めることにより、安心して子育てをできる環境を実現することも必要である。(「規制改革推進に関する答申」34頁)
(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し
ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し
【a:令和4年度中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置、b:令和4年度検討開始】

<基本的考え方>
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスの実現を図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備が進められているところであるが、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的、創造的に働くことを可能とする制度であるものの、対象業務の範囲や労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題が指摘されている。
現在、厚生労働省では裁量労働制実態調査の結果を踏まえて制度の見直しに関する検討が行われているが、その際、上記の労働環境整備の趣旨を踏まえれば、裁量労働制だけでなく、それ以外の労働時間制度も含めて、その在り方について広く検討することが求められる。
また、労働基準法(昭和22年法律第49号)では、事業場単位で労使協定等を
締結することとされ、届出等も原則「事業場単位」で行われているが、本社主導で人事制度を検討・運用する企業もある中、「本社一括届出」が可能とされている手続は就業規則や 36 協定等に限定されている。また、各種届出は電子申請が可能とされているものの利用率が低く、より企業の利便性を高める必要がある。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

<実施事項>
a 厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、「これからの労働時間制度に関する検討会」における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる。

b 厚生労働省は、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)上の労使協定等に関わる届出等の手続について、労使慣行の変化や社会保険手続を含めた政府全体の電子申請の状況も注視しつつ、「本社一括届出」の対象手続の拡大等、より企業の利便性を高める方策を検討し、必要な措置を講ずる。(「規制改革推進に関する答申」41頁~42頁)

当面の規制改革の実施事項(規制改革推進会議)

昨年(2021年)12月22日に公表された「当面の規制改革の実施事項」(規制改革推進会議)という文章があるが、そこにも裁量労働制に関する記載がある。

エ 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し
【a:令和4年度中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置、b:令和4年度検討開始】

a 厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、「これからの労働時間制度に関する検討会」における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる。

b 厚生労働省は、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)上の労使協定等に関わる届出等の手続について、労使慣行の変化や社会保険手続を含めた政府全体の電子申請の状況も注視しつつ、より企業の利便性を高める方策を検討し、必要な措置を講ずる。(「当面の規制改革の実施事項」30頁)

当面の規制改革の実施事項では「裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる」と

規制改革推進に関する答申では「裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる」と。

つまり、昨年(2021年)12月22日の文書も先週の金曜日(2022年5月27日)に公表されたばかりの答申でも一字一句、変えることなく、まったく同じ内容が記載されているというだけのこと。

当面の規制改革の実施事項(規制改革推進会議)(PDFファイル)

裁量労働制対象者(適用)拡大はあるのか?

しんぶん赤旗は「政府の規制改革推進会議(首相の諮問機関)は27日、長時間労働の温床となっている裁量労働制の対象業務の見直しについて、2022年度中に結論を出し、速やかに法改正するよう求める答申をまとめました」(しんぶん赤旗『裁量労働拡大求め答申 規制改革会議“年度内に結論を”』2022年5月28日配信)」と報じた。

しんぶん赤旗『裁量労働拡大求め答申 規制改革会議“年度内に結論を”』

規制改革推進に関する答申には「裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる」とあり、「拡大」とはないが否定もされていない。むしろ、そういったところが情報操作(?)に見えてしまう。

*規制改革推進に関する答申・概要には「柔軟な働き方の実現」「・働き手それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備促進(テレワーク・副業・兼業の活用、能力開発支援やリカレント教育の促進等)のため、検討を加速。【令和4年度検討・結論 等】)」と記載されているのみで、裁量労働制など労働時間制度見直しについては記載されていない。

規制改革推進に関する答申・概要(PDFファイル)

追記:これからの労働時間制度に関する検討会 報告書

厚生労働省は(2022年)7月15日、第16回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催し、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書案を議論し、その日に厚生労働省は「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書(本文、概要、参考資料)を公表。

公表された「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書の概要には、裁量労働制の対象業務について「現行制度の下での対象業務の明確化等による対応」「対象業務の範囲は経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討」と記載され、本文には「対象業務の範囲については、前述したような経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当」と書かれている。

また、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書の概要には「勤務間インターバル制度について、当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進。また、いわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていく」と記載され、本文には勤務間インターバル制度については「当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要である」とあり、そして「海外で導入されているいわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていくことが考えられる」と書かれている。

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