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ルポの書き方を知る

〈はじめに〉
※これから語られる言葉は少し長いかもしれませんが、なんども読み返してください。
※できれば声に出して読んでください。文章のリズム、語感がしぜんと身につきます。

 ライティング&コミュニケーションの基礎力を高める。土台をつくる。そのためには、どんなことを考えながら文章を書く必要があるのか。一つひとつ着実に、理屈をわかったうえで努力を重ねることが大事だ、ということをこれまでに語ってきました。まだまだわかっておきたいこと、わかっておいてほしいことはたくさんありますので、これまでと変わらずていねいに、一つひとつ積み重ねていきましょう。

 今回はライティングのスキルにくわえて、コミュニケーションにも重心をかけながら、より実践的で、より社会的な(自分以外の人やモノとのかかわりが求められる)文章を書くためのトレーニングをします。最初に、ルポと呼ばれる文章について学びます。それから、インタビューの際に必要なスキルを身につけ、最後に、より読者に伝わる文章を書くための文章技法である「レトリック」について考えてみることにします。

 さまざまなスキルを学ぶことも大事ですが、ベースにあるのは、文を書く人そのものの地力です。多少荒削りでも、スケールの大きな、オリジナリティのある、すてきな文章を書ける人になりたいものです。文は人なり。どうか忘れないようにしてください。


◎ルポを書くためのキーワード

 今回は「ルポ」というジャンルの文章について考えてみます。ルポと聞いてどんな文章をイメージしますか。電車の中吊り広告にあるような、週刊誌の特ダネ記事のようなもの。あるいは、テレビや新聞でよくある、社会を騒がせた事件や政治スキャンダルの真相を暴く企画や番組を思い浮かべるかもしれません。もちろん、そういう記事が、ルポの一部であることはまちがいありません。でも、それだけがルポではありません。

 ルポはフランス語のルポルタージュ(reportage)からきている言葉で、単語をさらに分解してみると、re=繰り返す・ふたたび、portage=運ぶ・伝える、という言葉になります。なんとなくわかりますか。ここから先は、刑事ドラマの推理場面とおなじようなものですが、頭の中に場面を想像してみましょう。

 書き手が、どこかで見たり、聞いたり、出会ったり、話したりしたものごとを、読み手にも追体験できるように、ふたたび伝えることを目的とした文章。それがルポルタージュの出発点です。現在では、ルポの定義は、たとえば、次のようなものと考えられています。

 ・取材記者、ジャーナリスト等が、自ら現地に赴いて取材した内容を放送・新聞・雑誌などの各種メディアでニュースとして報告すること。現地報告。
 ・事件や社会問題などを題材に、綿密な取材を通して事実を客観的に叙述する文学の一ジャンル。報告文学や記録文学とも呼ばれる。
 (ウィキペディアから抜粋)

 この際、取材記者とかジャーナリストという立場や肩書きのことはどうでもいいのです。大事なことは、「自ら現地に赴いて」「取材した内容を」「報告する」。ルポの骨格はこの三つのキーワードにしぼられます。エッセイやコラムと決定的にちがう点も、このキーワードの中にあります。

 たとえば、エッセイは、極端なことを言えば、空想の世界(書き手の頭の中にある世界)のことを書いてもかまわないでしょう。コラムであれば、かならずしも現地に自ら赴かなくても、新しい視点の提示はできるでしょう。でも、ルポはそうはいきません。

 ルポは「地に足がついた文章」ともいえます。自分の目で見て、耳で聞いて、足で歩いて、手で触れて、味わって、嗅いで、そうやって実際に体感した、「たしかに存在するもの」に寄って立つ。ルポの力強さは、足元の強固な基盤、地盤が支えています。足元がおぼつかないようなルポは読み手からの信頼を得られないのです。

 一つひとつの「たしかなもの」をコツコツと積み上げて、文章をつくる。それも、「報告する」ための文章ですから、理路整然としていなければいけません。ふわっとした印象に頼ったり、なんとなくの感覚で伝えようとしてはいけません。あくまでも、自分が手にしている事実から目を離さず、大げさにせず、ひたひたと迫る。ルポの醍醐味を表す言葉を捜すとすれば、きっとこの言葉です。「事実は小説より奇なり」。

 なんだか硬派極まりない文章だけがルポだと言わんばかりになってしまいましたが、硬派(社会問題とか、政治外交国際問題だとか、人権問題だとか?)とルポは親和性はあるものの、直接関係があるわけではありません。ルポのやり方、手法が硬派なネタに合っているというだけのこと。軟派(?)なネタであっても、ルポは立派に勤まります。たとえば、体験型ルポ(行ってみた、やってみた)、アンケート型ルポ(尋ねてみた、数えてみた)、分析型ルポ(数字をまとめてみた、統計をとってみた)などは、雑誌の特集企画ページによく載っているルポのかたちです。


◎ルポを書くうえでの手順と作法

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