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桜餅モルガナイト

「さ、桜餅は好きですか?」

桜が舞い散るバス停。俺は突然の質問に笑ってしまった。
「桜餅?えっと、嫌いじゃないかな(笑)」
 
優しくあたたかい風に桜が舞い散る・・・
 
俺はある時から不思議なことが起こるようになった
それは優しい桜色の季節になると妖精が見えるんだ
本当にいるのかもしれないし
俺の想像かもしれない
 
桜の木の回りをキラキラと飛び回る
桜色のとても小さくて透明度の高い何かが
あっちこっちと舞い踊っている
 
あれは小学2年生の終わり頃
公園でみんなと遊んでいた時に桜の木の周りでかけまわっていた
ふと上を見ると桜のつぼみが可愛くて木に登ってみたくなり
桜の木をよじ登ろうとしたが足を滑らせてしまった
自分の身長より少し高いところから
ドスンと、しりもちをついた
 
「いったー」と反射的に瞑っていた目を開けると
桜の花びらが舞っているのが見えた
よく見ると、妖精のような何かが
桜が咲くのを応援しているかのように舞い踊っているようだった
 
それから毎年桜の花が咲くと
それらが見えるようになった
 
それは人型なのか
動物なのか妖精なのか妖怪なのかわからない
俺に害があるわけでもなく
ただ舞っている
ただそれだけ
俺はそれをただ見つめるだけ
 
目が合うこともなければ
話しかけられるわけでもなく
ただそこにいるだけだ
 
 
高校2年生の春
今年もそれが桜の花びらとともに舞っている
美しい桜色に見惚れている
 
そんな俺に彼女は話しかけてきた
それらが話しかけてきたのかと思うくらい
彼女は優しくきれいな声だった
 
 
「桜餅一緒に食べませんか?」
買ったばかりだという桜餅の紙袋を見せてくれた
 
彼女は確か隣のクラスの女の子。
目より長い前髪に丸くて大きなメガネ
そばかすのある物静かな女の子。
 
話したことはないけど、彼女の純粋な気持ちがうれしくて
自販機でお茶を買ってベンチに座る
 
「えっと、名前は・・・」
「私、桃瀬です。2組の桃瀬です」
慣れた手つきで桜餅を渡してくれた
 
「いただきます」
桜の甘くて華やかな香りと
桜の葉の塩漬けの香りが
心まで満たしてくれる
 
急な突風が吹いた
反射的に瞑った目を開けると
それらが風になって彼女の前髪をふわっと揺らしていた
彼女と目が合う
モルガナイトのような美しい桜色のような瞳に目を離せなくなった
でもすぐそらされる
赤らんだ頬と一瞬合った目に
 
時間が止まった
 
その瞬間それらが俺の視界からぱっと消えた
 
あれから8年、妖精をみることはなくなった
ただあの瞬間から桃瀬が僕の妖精になったんだ


お知らせ


このお話は彼女バージョンです
彼氏バージョンと併せてお楽しみいただけます
ぜひ一度読んでみてください
より深く二人の関係がわかってエモい気持ちになります♡

 
 
 
 
 
 
 
 


儚く美しい詩や物語が好きです★また明日も頑張ろって思えるようなものご用意しています♡ぜひご覧ください。いっしょに素敵な世界線へまいりましょう。