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もののめ

はやぶさの 阿蘇高森は春くれて ちる花水木が白白 青雲に巫女がまひとね にぎる弟の爪小さきに 袖つかむが姉ご 牛神くはすは根子鬼ぞ、垂乳根山を振り向きなそ 山は緑に 花よ花よよ 霞わするる 春恋ひし

    • 松蝉

      もののふよ 八十にわかるれ朝霞の千歳遠浅 桜さく西行が花見とまごふや 苫東の丘は晴れ晴れを 日ぐれてなほまつ風 安平の水の清らかく 星うつひれびれ竿になびく尾はいくつ 数えて眠れ うき舟きえて なくなみなしも あともなし

      • わかみどり

        あしびきの鴫内山、し美し那須の塩原おろせば 熊川ささらぎ麗しく、みどり燃えたつ百村あり 木綿咲くはたの、忘れ地蔵が参り仔狐 かくれた母のおもかげ 石に柔らかき綿の頬 ゆるかげのなし たつ朝霧の まぼろけぬ

        • 京わすれ

          かの人詠ふ みやこ町なみや、なつかしき山あれ くびあらふ かも川とみし犀の川原の閑かさにくれ くるはせ給へ かへらせ給へ 匂ひおぼふる道ながら わが家わすれじ 郷に梅は散りぬるらんこそ ちどりのわかれ 酒によひまし つぎのよに

          若草山

          かづさふく 茂原三ケ谷の風は澄澄たる ふるくさ燃したれば、うきたつ貝城の緑こうごう じじばばが丘に垂るるよ、夕べに陳ずる首塚となれ 春がまねきし羽黒の茅姫、地蔵背おふ蓑となれ みるめ流るる 潮目あさひき から枕

          虫だしの

          かみとよむ 大鼓うつなる宇都宮 鞍掛ゆ見し故郷の、新里街道に憶へる母子草 契を忘れぬるか、と、雨乞いの涙ふるべし 春なき春を喰ふ鬼虫の頭に、いかづち落とし賜ふ  星にげかくれ ひと波しらね 来ぬ風も

          虫だしの

          りんご咲く

          青き森と冷泉うつくし、北上六ケ所の 雪の墨しごと 京わするる丘と知らしめど くぐひ白し輝かし あとを濁さじ掟にて 春にさり ゆきどかす熾火たつや 命つづりて やかた屋根そら 雲をしけとや 明けくらせ

          りんご咲く

          すぐろ

          かがやかし加賀沢川の森、鳥の初音うつくし 石わたる雲あれ風の、雷神ごろ打出し 一陣 牛首洗ひて待ち申せば、末はいかにとふらん さきざき転がり落ちてなりぬ 宝達の山山 やどりまちぬよ かさなしななし 月なし夜

          まんさく

          はや健かなる宮川の、清水石まき しぶき上がりて虹ね、風ふく伊勢へ参らば 鬼 度会田間をわたらひて 泣くよ 泣くよ 喰ひ忘れしし肉団子、禿山の月なりぬる、と うすけぶる香の となりのぬくみ 花つれて

          まんさく

          竹秋

          夢前新庄の竹林は、薫風春色に明けすみて 空に汚れた雲ひとつなし ただ姫にまごう鳥の声 山に帰依する錫杖 明剣するどく風と訊ぬれば ささ 五郎がしわざ、とみな云ひ靡き かすみとけゆく 月のあけまで つれゆきね

          葛飾北斎

          ゆふつつみ さだまりぬる旅心見ゆ、白河の関 大萩ヶ山みどり野辺、夢に馳せたる草枕のことも 浮世の絵とならず、かきつけ杏花村の花ちりて 枝かかるは枯れ雲のみ、あとにおきたる墨黒し うき舟のたれ ゆる波のしず しずしずと

          葛飾北斎

          徳川家康

          ひかり稔る 赤穂楠の森の緑し麗しく 酒もる飛龍の神杯、晩秋ハレヒをあらたむも かへす瀬の波は銀とたちうちて 浪士四十七ごと 今ぞ無念の首の勝鬨 討ち果たされし候 あまだれみだれ うつなみかれり うらめの火

          徳川家康

          川端康成

          風わたり波うつ 亘理吉田の浜の砂の城 消えて忘るる人の影はただ燃ゆる石となりて かげらう さまやう 海神に釣らるる太陽が季節 美しい日本と云ふ人らの、私、ならべみて かぜつ剛なれ かさ飛ばす人 にげかぐる

          川端康成

          初蝶

          しらつゆの珠あふるるや、山都高森が緑守人 中坂にみゆる、はるけし阿蘇のけぶり仁王だつ 青雲こえ憶ふは、清瀬小川に結んだ末の架け橋のこと 油菜すべるよ 水車く石臼が紅ひかり垂るる 浪はしずしず 千鳥さわかし 明けの海

          十返りの花

          そにどりの 青ぶな愛でる軽米折爪が森 鉤つめのこしし月の輪、神々憑り代よ あてなる御祭が枝なおりそ ゆく末の守りなりと 鈴きよらかく風がうつ 民田山の春は深暮れね ふと朝ぼらけ 霞たつぎり たびまくら

          十返りの花

          のっこみ

          うちなびく 草津あしはら 清水し麗はしけるを みやこ洗ふ宇治の川瀬の淀なりて 花いかだ 鮎の子 鮒の子 松ふく大み浜の子、なみ立てず しずむ月あらば、陽もおちやう 鬼の帰帆島やばせ  夢うつゆるる 潮や風やと 舟がゆる

          のっこみ