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Florilège 川手寛康シェフ 2020/10 Interview (1)

まず架空ショップ、次に実店舗

編集部――川手シェフ、デンクシフロリさんのオープンおめでとうございます。スタッフさんの異動もありましたが、フロリレージュさんに変化はありましたか?

川手シェフ――そうですね。お客さんから見たらそんなに変わってないかもしれないですけど、僕自身、新しいスタッフが入って任せる部分が少し変わったりして、気持ちと時間の使い方が変わりました。料理とかデンクシフロリに気持ちを向ける時間を前よりも作って。ああ、でも、疲れた~……。

編集部――かなりお疲れの様子ですね。

川手シェフ――今までやり慣れていなかったことを始めたので。今、デンクシの経理を僕がやっているんです。

編集部――シェフ、フロリレージュさんの経理はされていないんですか?

川手シェフ――僕の母親と、税理士さんがやっています。フロリレージュの会社は父親の会社を引き継いだもので、僕は社長ですけど一から会社をおこしてはいないんですよ。このお店以外の経理も含まれているので、父の代から継続して母にやってもらってるんです。台湾の会社も、僕は経理には関わっていません。
でも、デンクシフロリは東京で、しかも1軒だけの経理なので、今度は一から自分でやってみたいと思って。そしたらこういうの、意外と自分に合ってるんだなって。

編集部――そうなんですか?

川手シェフ――伝票類をファイル分けしたり、日付を整理したり。経理ソフトも使いますし、お店用に表計算ソフトで毎日の売り上げの計算式も作って、予約サイト経由の入金日も調べて交渉したり。全部やってみたら、それがだんだん癖になってきちゃって(笑)。

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編集部――お忙しくなって、むしろ経理まで手が回らないんじゃないかと思いますが、すごいですね。

川手シェフ――これがまたね、数字を見てるだけでおもしろいんですよ。

編集部――(笑)何に目覚めているんですか。

川手シェフ――経理がわかると、戦略的にお金もコントロールできるようになるじゃないですか。今月はこれだけ余裕があるから、このタイミングでここに使おう、とか。というのも、今後戦略を練る時には武器になってくるかなと思って。

編集部――お金の使い方にもシェフらしさが出そうですね。

川手シェフ――まあ、一回決算してみてからですね。3年間は消費税がかからないし、借入金が大きいから税金もそんなに払わないにせよ、さすがに今はどのくらいになるかわからないですから。それもふまえて戦略を自分なりに立てられるようになるし、1軒やれば、2軒目も3軒目もできるじゃないですか?

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編集部――2軒目、3軒目を具体的に考えていらっしゃるんですか?

川手シェフ――デンクシは、東京では考えてないですよ。でも、それとは別にもう1個会社を作ってるんです。その経理を担当する人には、全部見せてって言ってます。変な話……今まで、原価なんて計算したこともほとんどなかった(苦笑)。

編集部――(笑)それもすごいですね。

川手シェフ――本当に、僕のどんぶり勘定ぶり、尋常じゃなかったんです。税理士さんに「移転前は本当に大変だったんだよ」って言われました。黒字にはなるけど、全然伸びないって。ここに引っ越すのも一億円くらいかかるのが、税理士としては賛成できなかったって。

編集部――その、数字を伸ばしていくのって、どうしたらいいんでしょうね。ひとつのお店の中でやりくりすると考えたとき、一定以上はなかなか難しいのではないですか?

川手シェフ――実質無理ですよ。1軒で飛躍的に売り上げを伸ばしていくのって。物販を始めるとか……それだって、ひとつの箱の中で物販ラインを作ったとしても、満席のお店だったら、深夜とか、それまで使っていなかった時間を使わなかったら無理。それくらい思い切り転換したとしても、若干は伸びると思うけど、基本、無理だと思います。

編集部――人を新しく雇うなりして、ひとつの箱の中での稼働時間を増やしていく、ということですね。

川手シェフ――それしかないですよね。だから、会社を大きくしたかったら、出資して生産できる場所を作るしかないです。でも、そんなに簡単には伸びない。うちみたいに、一気にお店を大きくしたら少し違いますけど……。うちは、移転で稼働が1日30名から50名近くに上がったし、値段も上げました。単純計算で、原価が倍になったとしても、売り上げも倍になって、黒字部分も伸びている。

編集部――黒字部分が伸びた一番の要因は値段ですか?

川手シェフ――そうですね。……ただ、値段を上げるのは、そんなにうまくいかない。それだけお客さんも離れます。本当に最終手段です。


編集部――話は戻りますが、シェフは、お店を増やすことを予定されているんですか?

川手シェフ――違います。と言うか、最終的には路面店を出すんですけど、その前にSNS上で架空のお店を作ろうと思って。そこで物販を始めて、軌道にのってきたら実店舗を作ろうっていう流れです。本来は逆でしょ? お店を作って、みんなに知ってもらうためにSNSを使う。でも、SNSからお店を作っていくっていう逆パターン。

編集部――その順番にしようと思ったのはどうしてですか?

川手シェフ――一番お金がかからないから。本来は物販するために商品を作る場所が必要だけど、うちの場合、お店がこれだけの規模があるから、朝と夜中を使って物販のラインを作る。そこからスタートして、オーダー数が上がってきたら、どこか工場を作っていこうかなと。

ビジネスとして成り立たせる選択

編集部――そのお店でどんなものを売るのか気になります。

川手シェフ――デンクシフロリのメレンゲ大福(さっくり焼き上げたメレンゲ で挟んだ、ホイップクリームと小豆入り大福)の、アイスバージョンです。あれを木箱に入れて、風呂敷に包んで送ろうっていう。路面店は来年の春過ぎくらいにオープンする予定で、大福とかき氷のお店です。デンクシフロリ、フロリレージュ、傳さんとで同時に宣伝活動をしながら、物販をやっていくっていう、荒業でいきます(笑)。負けるわけにはいかないので、使えるものは全部使って。

編集部――使えるものは全部使う(笑)。

川手シェフ――だって、ビジネスって……メレンゲ大福をフロリレージュだけでやろうとするよりも、傳さんと一緒に、デンクシフロリで販売するほうが絶対いいです。なぜなら、フロリレージュのイメージからあれを注文するよりも、デンクシフロリの流れのほうが、明らかにスマートだし、イメージもつきやすいし、すべてがフィットする、と僕は思っています。

編集部――箱に入って風呂敷に包まれた様子をイメージしても、そうですね。フロリレージュさんだけで販売するのはもったいない気がします。

川手シェフ――どう考えてもそうですよね? 最終的には台湾にもその小豆と氷の店を出したいんです。ただ、台湾ではいろいろな契約上、デンクシフロリで出すのは難しそうなんですけど。でも、東京で、日本でやるなら確実に、デンクシフロリを使ったほうがいい。デンクシフロリで出してるお菓子だし、そのために自分たちで作ったものなんで。それも、使えるものは全部使ってでも、経営に生かしていったほうがいいっていう考え方じゃないですか? むしろ、それを選ばないんだったらビジネスとして成り立たないって僕は思っています。

編集部――逆に、いらないものの捨て方もすごそうですね(苦笑)。メレンゲ大福、お店でいただいて、とても美味しかったです。

川手シェフ――でしょ!? あれ、ガンガンに凍ってても、めちゃくちゃ溶けても美味しいんですよ。自分の好みで食べられるんです。

編集部――じゃあ、おみやげで運んでる間に溶けてしまっても大丈夫ですね。お店でのペアリングも、すごく楽しかったです。メレンゲ大福に焼酎のお湯割りでいただきました。

川手シェフ――デンクシのペアリングは、はじめ、泡ものだけでいくっていう案もあったんですよ。でも僕は反対して。


「選ばせるペアリング」に続きます 


Florilège
東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1
https://www.aoyama-florilege.jp

デンクシフロリ
東京都渋谷区神宮前5-46-7 GEMS青山CROSS B1A
https://denkushiflori.com/

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