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【ミステリーレビュー】薔薇のなかの蛇/恩田陸(2021)

薔薇のなかの蛇/恩田陸

"理瀬"シリーズとしては、実に17年ぶりとなった恩田陸の長編ミステリー。


あらすじ


とある遺跡の巨石の上で、首と胴体が切断された遺体が見つかった。
"祭壇殺人事件"と名付けられて世間を賑わせる最中、英国へ留学中だったリセ・ミズノは、レミントン家の長女である友人・アリスの誘いで、"ブラックローズハウス"を訪れる。
レミントン家は、影響力の大きい英国貴族。
その象徴である屋敷、"ブラックローズハウス"にて、主のオズワルドが、各地から親族や友人が集めてパーティーを開催しようとしているのだった。
リセは、アリスの兄であるアーサーやデイヴと交流を深めるが、屋敷の敷地内で、"祭壇殺人事件"さながらに真っ二つに切られた人間の死体が見つかると、パーティーは大きく様相を変えていく。
この一族は、呪われているのだろうか。



概要/感想(ネタバレなし)


シリーズものと知らず、平積みになっていた本を手に取ったのだが、17年ぶりの新作ということであれば無理もない。
本作の視点人物は、レミントン家の長男・アーサーが担っていて、リセはアーサーから見れば、謎の美少女といったところ。
先入観を持たずに読めたという意味では、フラットに物語を楽しむことができたと言えるのかも。

どこか後ろ暗さを持つ一族と、秘宝の聖杯。
英国田園ミステリーそのものの舞台設定に、切断死体まで乗っかってくるので、なるほど、本格ゴシックミステリーという触れ込みも伊達じゃない。
陰鬱な世界観に包まれつつも、どことなく非日常的なワクワクも感じられるので、どんよりしすぎて頁をめくる手が鈍ってしまうなんてことは起こらなかった。
終盤まで、どこに着地するのか読めないどころか、謎が広がり続けていく感覚。
館モノのようなギミックもあって、なんとも贅沢である。

シリーズものとして、続編があることを示唆する引きになっているのは気が利いている。
美麗な挿絵も、世界観の深掘りに貢献していて、ミステリーという枠を超えてファンが多い作品というのも納得。
推理パズルとしてのミステリーを好むのであれば、ややヒント不足で、肩透かし感は否めないかもしれないが、謎に対して、どんでん返しの真相が待っているというスリルを味わう分には、濃厚な世界観は間違いなく武器となっていた。



総評(ネタバレ強め)


時代設定がよくわからなかったのだが、全体的に古典主義的な印象。
ヨハンのシーンにてパソコンで作曲や演奏をする話が出てくるので、そこまで昔という設定ではないはずだが、爆殺体は、どこかで調達した死体であった、などというトリックが果たして成立するのだろうか。
と、突っ込みながら読んでしまったのだが、冷静に考えてみると、場を混乱させて目くらましさせれば良かったのだから、それでもいいのか。

そんな感じで、ラストの展開に賛否両論あるというのは納得かな。
"理瀬"シリーズの背景を知らずに読んでしまったからなのか、あるいは、語りすぎはよくないという著者の美学なのか、畳み方のスピード感が性急すぎるように思う。
あれはこんな状況で、これはこんな意図があって、という答え合わせ的なパートはごっそり割愛。
担い手が複数人いて、関係性も複雑なので、本音としては、もう少し丁寧に解説してほしかった。

もっとも、解決編を梳きに梳いた効果として、どんでん返しのインパクトがそっくりそのまま読後感になっている。
鮮やかに騙された、という衝撃が強烈に残り、永年育ててきた水野理瀬のキャラクターも相まって、癖になるのはわからなくもない。
世の中、完全に理解できる事象なんてほとんどないのだし、ふわっとわかった気になるこの感覚も、なんだか心地良いのである。

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