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こいつの、こういうところが大嫌いだった

料理ができるイコール、家事ができる、ではない。

「佐藤さんって結婚してるんですか〜?」
「いや〜実はバツついててね」
「え、そうなの~!?そんなふうにみえない!」

中途入社してきた社員の歓迎会が開かれていた。中途にしては年齢がいっているが、誰か優秀な社員の紹介で入社したことと、整った外見から、警戒する様子は誰も持っていなかった。落ち着いた大人の雰囲気に、デキる男っぽく見え、顔も良し、背も高い。初出社日に紹介された途端、女子社員の目が変わった。独身はまだしも、既婚者までもが、目の保養と言わんばかりに彼を見つめていた。

だいぶ会も進み、酒も進んだ。女子社員たちは酒の力を借りて、佐藤との距離を少しずつ詰めていき、イケメン彼が自分のものになりそうかどうか、審査をしていた。

「最近はみんな共働きだし、私も働こっかなぁって思ってる」

一通りプロフィールと経歴をゲットした彼女たちは、結婚後の話をしだした。それぞれ、彼との未来を創造しながら話しているのだろう。

「旦那さんと私とで、仕事も家事も半々くらいの負担でできたらいいなぁ」

仕事も一通り覚え、仕事の楽しさを感じながら、少しだけ結婚を意識し始めた女の子が言った。

「俺ももし再婚するなら、妻と仕事も家事も半々くらいが理想だな」
「佐藤さん家事できるんですか?」
「一応、一通りはできるよ。料理もするし、掃除もするし」

鼻で笑ってしまった。一通りってなんだよ。

「普段から料理とかするんですか?」
「うん、角煮とか、パエリアとか作るよ」
「え、洗濯も?お掃除も?」
「うん。カーテンとか洗濯するし、換気扇掃除したりね。」
「すっごーい!」
「え~旦那さんになって料理作って欲しいです」

「やめときなさい、この人家事できないわよ」

つい、口をはさんでしまった。傍観しておくつもりだったのに。

「こんなに料理上手なんだから、家事はできる人じゃないですか?」
「甘いわよ。」

このままだと、佐藤を責める空気になってしまいそうだったので、必死に茶化しながら話題を続けた。

「部長、くったくたに疲れて帰宅して、さあ飯だという時に奥様から「今から手の込んだ晩御飯をはりきって準備するから、1,2時間待っててね」と言われたらどうですか?」
「そんなには待てないなぁ!」

それは辛い!1,2時間は待たせすぎ!寝ちゃう!等と突っ込みが入りながら、場は笑いに包まれた。佐藤も笑っていた。ひとまず、歓迎会が気まずくならずに良かった。

「そうでしょう?家事においての料理のポイントは、まず短い時間で仕上がること。そして栄養バランスなんですよ」
「そうなんですかぁ?」
「そうよ。だから最近簡単に作れる毎日の料理動画とか流行ってるのよ」
「なるほどなぁ」
「さすが先輩、仕事も家事もできてカッコイイです!」

「佐藤さん、食器洗って拭いたふきんとか、台ふきんとか、もう使い捨てのほうがいいわよ」
「え、どうして?」
「ふきんを漂白する、ってことを知らないでしょう」

返答に詰まった笑顔の彼を見て、みんなが私をエスパーだ、家事も仕事もできるキャリアウーマンは違うねぇ、などと酒の入った笑いを飛ばしながら騒いだ。

「バツイチ女はいろいろと大変なのよ」

ビールジョッキをあおり、言った。

「佐藤さん、換気扇掃除もいいけど、基本は床の掃除機がけよ」


こいつの、こういうところが大嫌いだった。


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