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ー老夫と電話が織りなすハートフルドラマに心を和ませるー映画『ROY』

あなたは日々の生活の中で、孤独を感じることはありますか?

体調を崩したときや暗い部屋にひとりで帰った時など、孤独は不意に感じさせるもの。

実は孤独は3人に1人が感じているといわれているそうです。そう考えると、孤独を抱えるのは決して珍しくはないこと。人はそれぞれの方法で孤独を解消しようと行動をしているのです。

今回ご紹介する映画『ROY』は余生を生きる一人の老夫の話。小さな家に住んでいる主人公・ロイが抱える悩みは、絶えず訪れる『孤独感』。

あなたは、老後の未来を思い描いたことがありますか?

結婚した最愛の人はずっとそばにいるとは限らない。誰にでも必ず訪れる『死』という結末。取り残されて待っていたのは1人で暮らす寂しい余生。

どれだけ長く生きたとしても決して優雅に暮らせることはありません。何歳になっても悩みが尽きることはないのでしょう。

一体、ロイが孤独を解消するためにとった行動とはどんなことでしょうか?
人間味のある、人々の心をほっこりさせるハートフルドラマ。

映画『ROY』の魅力を解説していきます。
ネタバレも含みますので、SAMANSAで作品のチェックも忘れずに!

<作品時間> 15分55秒
<監督> Tom Berkeley
<あらすじ>
妻を亡くして一人で暮らすロイ。彼が抱えている大きな悩み、それは孤独でした。寝る前や朝起きた時、そしてご飯を食べる時も話をできる相手はそばにいない。

そんなロイが孤独をかき消すためにしていること。それが電話で話しかけることだった。電話帳を片っ端から漁り、間違い電話を装って電話をかける。

たわいもない話をしたかっただけなのだが、なかなか話を続けてくれる相手につながらない。忙しいそうにしている相手に、ロイも尻込みしてしまうのだった。

そんな中、ロイの電話に耳を傾けてくれた一人の女性が現れる。電話をかけた先は性欲を満たすお店だった・・・。しかし、話は深くなっていき奇妙な関係が生まれ始める。



◎『老夫』と『電話』で繰り広げられるほっこりドラマの構成

今回のテーマとなっている孤独。鑑賞者に深く孤独を感じさせるために仕掛けられた4つの大きな要素があることがわかりました。

最初は出演者と舞台について。
約16分にも及ぶ作品で映像に映るのはロイのみ。そして舞台はロイの家の小さなリビングと寝室だけです。映画にひとりしか出演しないなんとも斬新な設定。それが作品の色味を与えていますね。

次に各シーン明るさです。ご飯を食べるシーンや寝床に入るシーン、そして電話をするシーンなど、それぞれのシーンの色が暗めになっていますね。これは鑑賞者を哀愁感漂わせる雰囲気に引き込ませます。

そして最後はロイを演じる俳優さんの繊細な演技。ベッドに入る時に普段いるはずだった妻をチラ見する姿や、イスに座って辺りを見まわしている様子は素晴らしいです。彼が持っているオーラそのものが、作品の深さを表現しているかのよう。

しかし、孤独の辛さを鑑賞者を与えて終わらないのがこの映画の特徴の一つ。

実は電話でも会話の中には我々をほっこりさせるような内容がたくさんありますね。それはジェネレーションギャップやエロなど、老夫話す内容だからこそクスっと笑えるもの。

そういった映画全体のバランスが、見る側に心地よさを感じさせてくれています。だからこそ成り立つほっこりドラマですね。


◎ロイが電話をかけた先は・・・?

ロイが電話の中で発する言葉には、ロイ自身の優しい性格や心情がたくさん見え隠れしていたのがわかります。

ロイは寂しさを紛らわすために電話を繰り返していました。でも、いざ電話で話し始めると「申し訳ないな・・・」「面倒臭いと思われているのかな・・・」と思ってしまうようです。

本当は『何も気にすることなく他愛のない話をしたい』けど『こう思われたらどうしよう・・』など相手を気にする性格が自分の欲求を邪魔をしてしまう。

ロイが発言をする以下のセリフはそれを象徴しています。

「あなたの時間を無駄にしたくない」
「つまらなかったら言ってくれ」

とても人間味の表れた一面ではないでしょうか。
これは我々にもよく起こる描写です。

「本当はこうしたい、でもこう思われてたらどうしよう・・・」と頭がよぎたとは一度はあるでしょう。

しかしそう考えるのは決して悪いことではありません。それだけ、相手のことを思いやることができる大きな証拠。

ロイ自身が、真面目で思いやりのある優しい性格の持ち主であることがわかる電話のシーンですね。

これだけ優しい人間がかけてしまっている電話。
ということは『ロイがどれだけ大きな孤独を抱えて日々を過ごしているのか』をあなたは共感することができますか?


◎実際に会うことは避ける真実

他愛もない話ができる相手が見つかったロイでしたが、実際に会おうと話が進むと電話を切ってしまうのでした。確かに実際に会った方が、寂しさや孤独から解放されると思うかもしれません。

しかしロイが実際に会うことを断ってしまうのには、いくつかの理由があることが考えられます。

一つはロイに長年愛した妻がいるということ。これはセリフにも「妻の後だから・・・」と発言をしています。新たな女性とデートをすることは妻に対して申し訳ない。これも上記で述べたロイの優しさの表れですね。

もう一つは、ロイが心の核心をつかれた可能性です。本当は寂しいから新しい出会いに踏み切りたい。でも死んだ妻がいるからそんなことはしてはいけない・・・。

実際に会う話の流れになると、電話を切ろうとするロイに隠された心情は「本当は新しい出会いが欲しい」という思いです。

そんな自分の思いに正直になれないからこそ、焦りを隠せず話を逸らしてしまったのでした。

ロイの欲望=「孤独で寂しいから新しい出会いがあってもいいな」
ロイの思考=「最愛の死んだ妻がいるのだからそんなことをしてはいけない」

これがロイの心の中です。ほっこり映画に隠された苦渋の選択。だからこそヴァレリーと会うシーンに繋がるわけですね。


◎本当にロイが求めていたものとは?

ロイが本当に求めていたもの。それは人生における新たな一歩であると考えます。最初は、孤独を癒すために始めた電話での会話。

しかし、カラーと話していく中で浮き彫りになってきた自分が求めていた真実。それこそ上記でもお伝えした『新たな出会いへの一歩』です。それは決して妻を裏切ることでもありません。

それを後押ししていたのが電話の相手をしていたカラーの存在。

やがてヴァレリーと直接会うことになったロイ。気分良く帰宅しカラーに報告の電話をしますが、彼女が突然仕事を辞めたことを知るのでした。

カラーの役割はロイの背中を押してあげることです。それを象徴しているのがデート前にしていた2人の会話。直前になってもデートに行くことが億劫に感じてしまうロイを、カラーは必死に励ますのでした。

やがて手に入れたロイの人生の一歩。電話で話すことしていたからこそ、切り拓いた新たな道といえるでしょう。

確かに鑑賞者を温かい気持ちにさせるほっこり作品です。加えて、最愛の妻を失った老夫が踏み出した新たな人生だと思うと深みの出る映画だと思います。

SAMANSAで配信中。ぜひ、ご覧ください!

<映画ライター/ shuya>


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