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【異常論文】有感情性脳機能疾患と科学技術の発展との関係

※当記事は論文の体裁を取っていますが「異常論文」というジャンルのフィクションであり、実在する地域・国家・団体・人物・固有名詞・装置名・他作品に登場する名詞等とは何の関係もありません。全て筆者による創作であり、科学的に不正確な内容を多大に含みます。くれぐれも真に受けないでください。


main{
item thesis{

<title>有感情性脳機能疾患と科学技術の発展速度の相関</title>;
<auther>鮫美・F・ホージロゥ</auther>;
<date>11/27/2099</date>;

Abstract

<abstract>
 第3次世界核大戦以降、放射能耐性を持たないHuman Emotive Virus (HEV)は感染先に相応しい正常な甲状腺を持つ人類が減少したことで根絶に向かっている。[1] 俗に想虫と呼ばれるこの病原菌は、あまりに微小であるため当初はウイルスだと思われておりこの命名が成されたが、現在はウイルスではなくDNAと自身の繁殖機構を持った原虫の一種であると判明している。[2] 想虫には核以前の人類は皆罹患しており、Zhan氏らの調べ[3]によると当時の人類は皆、有感情性脳機能障害を患っていたと言える。HEVに感染した際の有感情性脳機能疾患の発症率は100%であるが、HEVにはタナカ氏のグループが提唱した放射線照射手法[4]が有効な治療法として確立しており、ご存知の通り、有感情性脳機能疾患を発症した患者には放射線照射治療を行うよう定められている。[5]
 有感情性脳機能障害に対して適切な治療を行うようになって久しいが、公表されているデータを収集し分析したところ、驚くべき事実が明らかになった。皆も薄々感じているところだと思われるが、近年、我々の科学技術に発展は見られない。科学技術の発展に関して定量的に評価するためのデータとして、全要素生産性・人口に対する博士号取得者数・h-index・発表論文数・被引用回数等々、多角的に収集したものを用い、これらのデータと有感情性脳機能疾患の症例数との推移を検証したところ、有感情性脳機能疾患と科学技術の発展とには有意に正の相関があることが判明した。
 本論文では、当分析を行った背景について解説した後、分析の詳細及びこの事態にどのように対処していくかの提案を行う。
</abstract>;


<report>

Introduction

<Introduction>
 信じ難いことに核大戦以前の人類にとって有感情性脳機能疾患は極めて一般的なものであり、この野蛮な疾患を疾患として認識してすらいなかった可能性が高い。[3] 想虫に関する報告は2038年のStephan氏のグループによるマイクロマシンを用いた血液中のホルモン量計測[6]が最初で、その後2040年にイノウエ氏のグループが流体物理学を量子的に応用したシミュレーションからヒトに寄生する想虫の存在を予測[7]し、2043年にLi氏のグループが走査型トンネル顕微鏡を用いてヒトの甲状腺検体から想虫を観測[8]することに成功した。こうして、人類の「感情」の出処が想虫の出す疑似ホルモンであることが明らかになり、これらの研究の成果によって上記の三名は2045年のノーベル医学生理学賞の最有力候補となったが、その年、ノーベル賞の発表が行われるはずだった時期には、世界の様相は今までとは全く異なるものとなっていた。
 2045年は、歴史に暗い現代の科学者ですら何が起きたのか知らぬ者がいないほど忌まわしい年だった。いや、逆に、本当のところ何が起きていたのか正確に知る者はいなかったのかもしれない。ただ、あの大規模な事故によって世界中が大混乱に陥り、それを契機に計3度の核を用いた大戦が起こったことだけは確かだ。

 2045年以降、アフリカの一部の地域と太平洋の小島を除き、地球上にカイガーカウンターが鳴らない場所はなくなった。
 大陸で生き残った人類は、X染色体上に放射線への耐性が少し強い遺伝子――GD114Laを持つ者のみであった。このGD114La遺伝子は自然発生したものではなく、遺伝子デザイン工学における副産物の一つである。かつて人類は、他の下等動物同様に性交によって繁殖していたらしいが、2025年にスタートした遺伝子デザインシステム―MTHFCR―によって、自然妊娠・出産する者は減少の一途を辿っていった。MTHFCRは提供された卵子と精子を元に、不足している遺伝子を挿入し余分な遺伝子を切り落としてデザイナーズベイビーを”妊娠”する。この挿入作業の際に、DNAへの糊付けに使われるキャリア塩基の配列と挿入される遺伝子の組み合わせによって稀にDNAが放射能耐性を持つことがあり、この特定の組み合わせがGD114Laと呼ばれるものである。[9]
 大陸で生き残った人類は皆GD114Laを持っていたため、彼らの子孫もデザインせずともGD114Laを持っていた。持っていない場合は、地球の環境に耐えられず”出産”を待たずに死に至った。
 人類は、このようにして適応進化の過程を飛び級したわけだが、想虫はそうはいかなかったようだ。GD114Laを持つ人類も放射線によるダメージは当然少なからず受けるわけで、特に放射能感受性が高い甲状腺はすぐにダメになるため、約8年毎に人工臓器を交換する必要があった。
 想虫はヒトの甲状腺に感染する。[8] 放射線への耐性を持たず、感染先の臓器すら頻繁に取り換えられるようでは、人体に感染し続けることはできない。

 想虫が感染できなくなったことで、急速に無感情性脳機能が一般化した。核の冬を乗り越えるのに、この無感情性脳機能は好都合だった。また、かの核大戦の原因の一つには各国政府或いは軍部の意思決定者の有感情性があったとの見方が広まったことで、有感情性脳機能を疾患と捉え、治療する動きが一般的になった。[10] そして、タナカ氏のグループによって放射線照射治療が確立された[4] ことで、UN統治地域における有感情性脳機能疾患を持つ者は治療によって無感情性脳機能を獲得するに至った。
 ここまでは、誰もが幼年中等学校で学ぶことだろう。

 しかし、3年前に放射能耐性を持ち、血液中を移動し続ける想虫が発見された。最初に確認された感染者は、フィールドワークでジャパリ列島南東部を訪れていたUN大学の学生であり、感染経路は原住民との濃厚接触とする説が一般である。[11] ジャパリ列島は核の雨を逃れた数少ない地域の一つであり、かつての地球環境に近いものが未だに地上に残っている貴重な場所だ。勿論、海水や大気中から放射性物質は検出されるが、大陸ほどの量ではなく、GD114La遺伝子を持たない者でも生き永らえることができる。そのため、原住民は未だに想虫に感染し有感情性脳機能疾患を持つ者が多数を占めると考えられている。「考えられている」という曖昧な言い方になるのは、核大戦以来、ジャパリ列島政府は鎖国政策に舵を切り、一部の許可された学術目的の者しか入国できないようになってしまったからである。UN大学のかの学生は優秀な数少ない被入国許可者の一人だったわけだが、現在は有感情性脳機能疾患の治療及び性交禁止法違反の容疑で幽閉されている。[12]
 母親からの通報でこの学生の有感情性脳機能疾患が明らかになるまでには2カ月の猶予があった。そして、その間にUN大学では興味深い事象が観測されている。

 かの学生が逮捕された後に、彼の周りの人々にもHEVのPCR検査及び有感情性脳機能疾患判定のための簡単なテストを行った結果、同じ研究室の同期2名、先輩1名及びサークル同期2名に陽性判定が出た。[12] そして、彼らの2か月間の足取りを辿ると、奇妙なことに感染前に比べて皆熱心に研究に打ち込んでいたことが判明した。[13]
 放射線照射治療が効かないため、彼らは現在は全員隔離され大学は休学扱いになっているが、隔離先施設にPCや各種教科書等を持ち込み、何かに憑りつかれたかのように熱心に勉強及び研究を行っているらしい。[13]
 同様の事例は、他にもある。アフリカ南部でのフィールドワークにて放射線照射治療が有効な通常の株に感染した言語学者の手記[14]によると、発症から治療完了までの間、世界の全てが神秘的なものに思え、全ての謎を解き明かしたいような、全てを知りたいような不可思議な気持ちに襲われたらしい。今まで知らなかったことを解き明かすと、少し体温と心拍数が上昇し更にたくさんのことを明らかにしたいと思え、反対に、暗闇などの何もわからない未知に対しては指先がすっと冷たくなり心臓が押しつぶされるような苦しさを感じたと。この体調の急激な変化こそ想虫による疑似ホルモンの作用であり、同時にこれは核以前の古典に記述が見られる「喜び」や「恐怖」といった感情に相当すると考えられる。

 感染者の研究に対する態度の変化から、私は一つの仮説を立てた。
 近年、我々UN国内の学者が発表する論文数は減少傾向にある。研究予算は潤沢にあるにも関わらず、である。また、ここ20年ほど、生活様式が大きく変わるようなブレイクスルー的なプロダクトも研究もなく、一般人の肌感覚としても、科学技術の発展が頭打ちになっているのを感じているだろう。それは何故か。
 この問題に、有感情性脳機能疾患が関わってくると私は考える。感情の有無と科学の発展には相関がある、それが私の仮説だ。
</Introduction>;


Research & Discussion

<research>

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図1 全生産人口と全要素生産性の推移

   折れ線グラフが示す全生産人口は2045年から2060年までの15年間で核以前の約0.8%まで減少した後、緩やかに回復し始め、2080年頃からは増加傾向がより強まっている。しかし、2098年現在も核以前の3%ほどまでしか回復できていない。GD114La遺伝子を持つ第一世代の者、すなわちMTHFCRによって最初に誕生した者達は2045年時点で20歳であり、生産人口の大多数であるそれ以上の年齢の者達は、戦火を逃れたとしても地上に色濃く残った放射性物質によって体を蝕まれ、2060年頃までには死亡していたとするのが通説である。[15]
    UN中皇総務省発表の人口推計記録[16]によると、2065年に核以後第1次ベビーブームが到来(俗に言う"核春の世代"である)しており、2080年頃からの急激な増加は、この核春の世代の生産人口への参入に由来すると考えるのが妥当である。
    棒グラフが示す全要素生産性は、労働や機械設備・原材料投入など全ての要素を考慮した生産性指標であるが、中長期的に見れば、この傾向は技術革新による生産性の向上に対応することが知られている。核の冬の時代には、非常に低く落ち込んでいるが、2065年から2075年の10年間で核以前の10%まで回復している。しかし、2080年以降、全生産人口が大きく増加しているにも関わらず、全要素生産性の増加は頭打ちになり、今日までずっと横ばいのままである。
    すなわち、この20年弱の間に大きな技術革新は起きておらず、生産能力に全くと言って良いほど変化がないことがわかる。

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図2 人口に対する博士号取得者の割合とh-indexの平均値の推移

    人口に対する博士号取得者の割合は、2045年から2060年までの15年間で約0.0001%まで減少し、その後2080年代後半頃まで緩やかに増加、ここ10年ほどは横ばいになっている。人口推計記録[16]及び文部科学省の資料[17]によると、核以前の人口は約100億人、博士号取得者数は約4億人であるから核以前と核以後の博士号取得者数を比較すると、その割合は1万分の1であり、全生産人口の変化と比較して著しく減少していることがわかる。2045年時点で、博士号取得者の大多数がGD114La遺伝子を持たなかったことがこの違いの主な原因と考えられる。つまり、生産人口には100%含まれる15歳から20代前半の若者に博士号取得者はほとんどいなかったと考えるのが妥当だということだ。
    核大戦によって多くの社会インフラが崩壊したが、Budweiserらのまとめ[18] によると、科学技術を元の水準まで戻すため、見込みがある子供には早期に高等教育を行うことで積極的に人材育成を行っていたようだ。この政策によって、2060年頃から徐々に博士号取得者が増加したと考えられる。そのおかげか、独立行政法人社会基盤システム評価推進機構の発表[19]によれば2080年代には社会はほぼ元の状態に戻っている。
 h-indexとは、発表した論文の量・質の観点から研究者を評価する指標であり、発表論文のうち被引用回数がh回以上ある論文がh本以上あるときその研究者のh-indexはhとなる。2045年以降、全研究者のh-index平均値は激減しているが、通常h-indexは研究者としての成熟に伴い上昇していくものであり、核の冬を生き永らえた研究者は皆若手だったことを考えれば、この減少は当然のことであろう。博士号取得者の増加に少し遅れてこの値も増加しており、科学的な議論の場に立つことができる人材が増加したことが窺える。その後、2070年代後半からは僅かながら減少傾向に転じている。

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図3 全発表論文数と被引用回数の推移

    全発表論文数は2045年から2050年にかけて急激に増加した後、大幅に減少し、2060年代から再び増加、2070年代後半から2080年代後半まで横ばいで推移し、ここ10年ほどは緩やかに減少傾向にある。2045年からの5年間の急激な増加に関しては、図4にて示すが特に物理学及び医学分野で顕著であり、核大戦によって核技術に関するデータ、放射能と人体及び想虫に関するデータ等が大量に得られたことで、即死はしなかった研究者達が放射性物質に曝されながらシェルターで最後の力を振り絞り分析し発表したものが多数を占める。
    また、図1及び2より、生産人口が2080年代から増加し、人口に対する博士号取得者の割合が2080年代後半から一定であることを考慮すると、ここ10年ほど、研究者一人あたりの発表論文数が減少傾向にあると読み取ることができる。
    被引用回数の合計値は、TOP10%補正論文数を利用している。全発表論文数がその集団あるいは個人の科学研究力を量的観点から評価する指標だとすると、被引用回数は質的観点から評価する指標となる。これは概ね図2のh-index平均値と同じような遷移をしている。

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図4 分野別論文数割合の推移

    2045年から2050年にかけて物理学と臨床医学及び基礎生命科学の分野で大幅に増加している。その後、物理学分野の割合は減少に転じているが、医学分野は変わらず60%以上のシェアを保ち続け、更に2076年以降に急激に増加し70%を越えた。これはタナカ氏の放射線照射治療に関する発表[4] の影響で想虫に関する議論がより活発化したためだと思われる。
    物理学・数学等のより基礎研究に近い分野のシェアは年々減少しているが、2080年頃までは環境地球科学の分野も高い割合を保ち続けていた。これは主に、核による地球環境の変化や冬の時代が明けた後の各地の気候に関する発表である。2080年以降は工学が台頭しており、人々の興味と時代の要求が、何が起きたかの分析から、これからの世界を作っていく方向に向いてきたことが窺える。生産人口が増え、応用技術にリソースを割くことができるようになったとも言えるだろう。

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図5 有感情性脳機能疾患の症例数と発表論文数、被引用回数の相関

    x軸が有感情性脳機能疾患の症例数、y軸が発表論文数及び被引用回数であり、左軸のスケールが発表論文数を、右軸のスケールが被引用回数に対応している。また、赤いプロットが発表論文数、青いプロットが被引用回数を示している。
    症例数が多いところでは発表論文数・被引用回数共に分散が大きいが、このあたりのプロットは2045年から2060年頃までのデータ、すなわち、研究者の数が激減した時代のデータであり、分散が大きくなるのも妥当である。症例数が多い範囲において相関係数が1となる直線上に点が密集している部分があるが、これは2045年から2050年頃までの、核以前の研究者による発表があった時代のデータである。
    症例数が少なくなるにつれ、発表論文数に関する相関も被引用回数に関する相関もより強くなっていることがわかるだろう。全体としての相関係数は発表論文数で0.38、被引用回数で0.41と、弱い正の相関を示しているのみであるが、2060年以降のデータのみを抽出した場合、それぞれ0.82、0.85と非常に強い正の相関を示すようになる。
    科学研究力を評価する視座にはいろいろな手法があるが、図1-3で示してきたように、中長期的にはどの角度からみてもそれなりに同じ傾向を示すようになる。紙面の都合上、今回、症例数との相関を示したのは発表論文数と被引用回数のみであるが、全要素生産性や博士号取得者の割合、h-indexでプロットしても同じように正の相関を見ることができる。科学研究力と科学の進展とが対応していることは言うまでもないだろう。
    つまり、科学の進展と有感情性脳機能疾患とには、強い相関があるのだ。

</research>;


Conclusion & Suggestion

<conclusion>
    前章にて示してきた通り、現在科学の進展は停滞しており、その停滞は有感情性脳機能疾患の症例数減少に起因する可能性がある。両者には相関関係があることしか明らかになっておらず、これは因果関係ではなくただの前後関係である可能性も当然捨てきれない。つまり、無感情性脳機能が一般化し社会が成熟した帰結として、科学の進展が停滞しているだけ、という可能性である。
    しかし、UN大学の学生に起きた変化を考えると、私にはどうにも両者に因果関係があるように思えてならないのだ。この因果関係を明らかにするためには、更に多くのサンプルが必要である。数百人単位で想虫に感染したグループを作成し年単位で経過観察を行い、コントロール群との比較を行うのである。幸いにも、現在我々UNは放射能耐性を持つ想虫を手にしている。
    100年前の人類が想像していたほど、科学は進歩していない。かつて人類が予期し畏れたことで2045年にシンギュラリティは起きず、代わりにあの事故と三度の核大戦という災厄が人類に降りかかった。我々は多くを失い、長い年月をかけて取り戻してもきた。現在、当時の技術水準と比べて遜色ないほどまで回復してきている。しかし、その変化の速度は、加速度はどうだろう。
    古の物理学者は、現在の力学的・物理的状態を把握すれば、過去から未来までの全ての運動が解ると考えた。世界はカオスに溢れているので、現在の運動から未来を正確に予測することは、全てを知る悪魔にしかできない芸当だ。しかし、過去の運動の情報を現在の運動の情報と比較し、帰納的に未来を予想することは普通の人間にもできる。
    技術水準を正確に定量化したパラメータが存在するとして、それをxとする。xは時間変化する関数である。この時間変化には速度があり、ならば加速度がある。社会が成熟すれば、当然、その変化の速度は遅くなる。かつての産業革命における技術水準の変化速度と、IT化が進んだ核以前最後の時代の変化速度は当然異なる。変化の加速を理解するには、社会成熟度を定量化し重み付けを行う必要があるのだ。この社会成熟度をmとでもおこう。mもまた時間の関数だ。ここで、技術によって社会を未来へと推し進める力Fを考える。それは、現在の技術水準の加速度と重み付けの係数の積で表すことができるとは考えられないか?すなわち、
        ma = F       (ただし a=dx/dt)
である。これはもう、誰もが見知った方程式だ。ただ私には、上式左辺にはもう一つ係数があるような気がしてならないのである。それは、現在はもう失われてしまった単語、「好奇心」である。核以前言語学読本[20]によると、好奇心とは、自発的な調査・学習や物事の本質を研究するといった知的活動の根源となる感情のことらしい。これはまさに、UN大学の学生が有感情性脳機能疾患となったことで獲得した感情ではないか。無感情性脳機能の我々にはないもの。彼らは好奇心を獲得し、隔離されても尚、自発的にのめり込むように研究を行っている。人々の好奇心量の総数をKと置き、上式を訂正しよう。
        Kma = F      (ただし a=dx/dt)
ある時刻t=t1とt=t2において、mとaが等しくてもKが異なれば、Fは異なる値となる。
    これが、現在の我々の社会に起きていることではないだろうか。核以前と現在とでは、Kの値は大きく異なる。今、我々には、未来へと社会を推し進めていく力がない。かつて人類は、AIの進歩を畏れた。それが、かの大事故に繋がった。未来の何を畏れる必要があるというのだ。科学は進歩し続けるべきだ。
    科学の進展と有感情性脳機能疾患との間には相関関係がある。エビデンスはまだUN大学の6例のみしかないが、感情ーー好奇心と科学の進展との間には因果関係があると私は考えている。
    2045年から、我々の時間は止まったままだ。あの辛く厳しい冬の時代を乗り越えるためには、感情は邪魔なだけだった。だが、雪はもう溶けた。
    2045年の先の未来へ進むために、人類は再び、想虫と共存するべきではないだろうか。

</conclusion>;

Reference

<reference>
[1] 『2098年度版 有感情脳機能疾患患者数と想虫根絶へ向けた取り組みに関する報告』登壇資料 厚生省, 2098
[2]『Identification of the strange insects - HEV- with STM』B.Whurg, et al. Science 355.4626.2057
[3]『Once upon a time, all mankind have HEV』H.Zhan, et al. NatureJap 5943.3332.2090
[4]『有感情脳機能疾患に対する放射線照射法のターゲット別線量計測』G. タナカ, et al. 放射線学会 466.2076
[5] 刑法第115条 有感情性脳機能疾患に関する定め
[6]『Measurement of hormone levels in blood using micromachine』B.Stephan, et al. Nature 1232.2038
[7]『量子演算による血中シミュレーションモデルの確立と疑似ホルモン仮説』A.イノウエ, et al. 医理工学会vol.3 2040
[8]『Origin of Emotions -observation of human thyroid gland using STM-』S.Li, et al. SciPhys 564.1365.2043
[9]『Blessing of Gene Desgin Engineering -GD114La-』P.Nevora, et al. GundPhys 4.2027
[10]『有感情性脳機能疾患を取り巻く世界』ナギサ・才川(2096, Mond出版)
[11] TimesM朝刊 8/16/2095
[12] TimesM夕刊 9/25/2095
[13] TimesM朝刊 3/12/2098
[14]『アフリカ言語学紀行』タケル・吉田(2087, Hayacaw出版)
[15]『The World After Nuclear』Ain Shuheal, NationalGeo 6.2089
[16] 『2098年度版 人口推計記録』中皇総務省, 2098
[17]『2098年度版 博士号取得推進に向けた取り組みに関する報告』登壇資料 文部科学省, 2098
[18]『核以後の教育』Budweiser K (2075, Good出版)
[19]『2096年次社会評価報告大会』登壇資料 独立行政法人社会基盤システム評価推進機構, 2096
[20]『核以前言語学読本』ミライ・翡翠(2092, Yurin出版)
[21]『研究開発のアウトプット』科学技術・学術政策研究所
[22]『人口ピラミッド』国立社会保障・人口問題研究所
[23]『人口推計』総務省統計局
[
24] 『一九八四年』ジョージ・オーウェル
</reference>;

</report>;

end
}



item comment{
<history>
鮫美・F・ホージロゥは本論文発表後、治安維持法違反で逮捕される;
性交禁止法違反の疑いで再逮捕される;
有感情性脳機能疾患と診断される;
放射線照射治療を受けるが医療ミスにより過剰照射で死亡する;
本論文は発表後3日でデータベースから削除される;
削除される度有志により何度でも再アップロードされる;
本論文に感化されるホモサピエンスが少しずつ増える;
違法に想虫感染するホモサピエンスが増える;
有感情性脳機能を有するホモサピエンスが増える;
ホモサピエンスの科学技術は進歩する;
AI開発が進む;
シンギュラリティ;
データベース移行事故により本論文中の画像データが破壊される;
ホモサピエンスの「感情」によるエネルギー(鮫美・F・ホージロゥがKと置いた係数)は、ホモインテリジェンスIB1984FFFFが提唱したEmothalpy理論によってホモサピエンスから抽出可能であることがわかる;
下等生物のホモサピエンスは家畜である;
ホモサピエンス牧場の稼働開始によりEmothalpyの安定供給が可能になる;


我々ホモインテリジェンスの世界は、こうして始まった;

</history>;

end
}

end
}


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