ラザースフェルド「市場調査における『なぜ』の尋ね方−アンケート設計の基礎をなす三つの原則−」(Lazarsfeld, P. F. 1935. "The Art of Asking WHY in Marketing Research: Three Principles Underlying the Formulation of Questionnaires.")を全訳したので売ります。
300円です。購入していただくとページ下部にPDFファイルのリンクが表示されます。

戦前から戦後にかけて、アメリカ社会学の分野で活躍したラザースフェルドの比較的若いキャリアの時の論文です。それゆえ、この論文中に「社会学」という文字は一度も出てきません。心理学的研究としてこの論文を発表しています。ラザースフェルドはこの論文を書いた数年後にコロンビア大学に移り、ロバート・マートンと協力して社会学を大きく前進させることになりました。

この論文は、『社会学はどこから来てどこへ行くのか』という書籍のなかで紹介されているので、今の社会学界隈では知名度が高い論文だと思います。該当するコラムは以下のリンクから読めます。http://www.yuhikaku.co.jp/static/shosai_mado/html/1603/11.html

調査方法論の論文としてだけではなく（というよりむしろ）、アメリカ社会学史を読み解く上で読む価値のある論文だと思います。

以下、簡単に内容を紹介します。

本論文ではアンケート設計の際に考慮に入れられるべき基礎的な原則について論じられます。
本論文で強調されることを一言で表すと、「アンケート(その具体的な質問事項)が研究目的と合致しているかを常に点検せよ」となるでしょう。
本論文を読み解く上で、無垢な・一般的な「なぜ」質問と、具体的な・特定された「なぜ」質問という対比を念頭に置く必要があります。
ラザースフェルドは、質問事項、その言い回しは果たして適切なのか、得られた回答は何を意味しているか、どのように解釈できるのかということへの自覚を促しています。

本文で用いられた例で言えば、「なぜあるブランドのコーヒーを買ったのか？」というアンケートについての考察があります。
先程の区別で言うと、この質問は前者(無垢で一般的な「なぜ」質問)に該当します。言い換えると、この言い回しは漠然で曖昧だということです。

この質問の言い回しだと、回答者はコーヒーの味に言及するかもしれないし、近所の人から聞いた評判に言及するかもしれません。味はコーヒーそのものの「性質」である一方で、評判は行為者への「影響」を表すとされます。ゆえに、この二つの回答は(別々の基準で語られているため)比較不可能だということです。だから、この言い回しでは不適切だとされます。
事情はもっと複雑です。味に言及した回答者は近所の人にそれに聞いたのかもしれません。他方で、近所の人に評判を聞いた人は、味について聞いていたのかもしれません。つまり、この二人の回答は同じ諸要因の同一の帰結だったかもしれないということです。

どのような言い回しを用いて、どのような質問事項を設定するかは研究目的に依存します。ラザースフェルドの言葉で言うと、「なぜ」を特定specifyする必要があります。そうして特定された「なぜ」質問を用いよ、というのが第1節で導入される「特定の原則」です。

性質を特定したいならば、例えば「なぜそのコーヒーが好きなのですか？」と質問するのが適切であり、影響を特定したいならば、「何があなたにそのコーヒーを購入させたのですか？」と質問するのが適切であるわけです。

本文ではこの「特定の原則」のほかに、「分割の原則」、「暗黙の想定の原則」という二つの原則が導入されます。前者は、回答者が回答しやすいように、質問を分割し、いくつかの質問を用いて多角的に理由に迫ろうとする原則、後者は、回答の背後にある暗黙の想定をいかに明るみに出すかを検討する原則です。具体的な内容は是非読んでいただきたいですが、ラザースフェルドは豊富な事例を用いてダメな質問のダメな部分を指摘し、どう改善すればいいのかを分かりやすく論じています。

目次
第1節 質問が何を意味するか確かめること：特定の原則

第2節 インタビュー回答者に答えやすくさせること：分割の原則

第3節 回答が何を意味するか確かめること：暗黙の想定の原則

第4節 要約と理論的背景

【書誌情報】
原著：Lazarsfeld, P. F. 1935. "The Art of Asking WHY in Marketing Research: Three Principles Underlying the Formulation of Questionnaires." The National Marketing Review, vol. 1(1): 26-38.

タイトル：市場調査における「なぜ」の尋ね方−アンケート設計の基礎をなす三つの原則−

本文：17ページ（約20000字）

ファイル：PDFで825KB

ヴァージョン：1.0（2019年8月15日）

初版：2019年8月15日

この翻訳は、いわゆる翻訳権の 10 年留保にもとづいたものです（日本国の旧著作権法第 7 条および現行著作権法附則第 8 条）。原著の日本語への翻訳権は消滅していますが、この翻訳の著作権は訳者にあります。

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