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生存者バイアスと共感|知るべき真実と語るべき希望

貴重な情報を提供したつもりでも、「それは生存者バイアスだ」ということで受け容れてもらえないことがあります。

生存者バイアスとは、ある集団から生き残った人々の体験や情報に偏った分析をしてしまうことで、誤った認知をしてしまう現象です。

生存者バイアスを意識することは問題の本質を把握するためには必要な観点です。ただ、一方では物事に希望を見出した方が良いこともあるので、あまり合理的な判断にばかり偏ってしまうことにも注意が必要です。

人間の感情や行動は決して合理的ではありません。真実と希望、それぞれに適したアプローチを採る「バランスの取れたリテラシー」について紹介します。


生存者バイアスによる分析|知るべき真実

生存者バイアスは、あるグループの中で生き残った人たちの出来事だけが報告されることで、本来あるべき統計的な分布が偏ってしまう現象のことを指します。

つまり、死亡した人たちの情報が欠落してしまうため、全体の状況を正確に把握することが難しくなってしまうのです。

身近なことで例えると「読書をすると年収が上がる」といった記事などが生存者バイアスに注意すべき典型的な例です。

こういった例は、年収が高い人から得た情報だけで構成されたデータである可能性があるので注意が必要です。「たくさん本を読むけれども収入は低い」という人が実際には多くいるはずですが、データに盛り込まれているのか定かではありません。

そして、こういった現象は様々な現場で発生します。例えば、人々の命に関わる医療の現場ではどうでしょうか?

希望を与える成功者の体験談|語るべき希望

病気や怪我で大きなダメージを負った患者さんは、その辛い状況から未来について絶望する気持ちを抱いてしまうことが大半です。

しかし、そんな患者さんに対して、闘病を乗り越えた体験談を伝えることで、希望を持ってもらうことができるようになります。

希望を持つことは病気の人の精神的な健康だけでなく、実際の治療結果にとっても非常に重要なことです。希望を持たずに苦しい治療を耐え抜くことは非常に難しいことです。

そのため、病気を乗り越えた経験を持つ人がその体験談を伝えることで、今まさに病気に向き合っている人に希望を与えることは、実際の治療結果においても重要なはずです。

僕も病気になった時には、治療に成功した患者さんの体験談を求めていました。前例がないものに向き合うことは大きなストレスを伴うため、自分と同じような境遇になった人が過去にいたならば、その情報を知りたいと思っていたのです。

そして結果的にその情報からは大きな希望を貰い、実際の治療やリハビリの大きな原動力になりました。面倒な薬の管理や食事制限、手術後の辛いリハビリに耐え抜けたのも、希望を持つことができたからです。

知るべき真実と語るべき希望

しかし、成功者の体験談を読んで希望を持つという事は、逆に言うと意識的にネガティブな体験談や不安を煽る情報をシャットアウトしているということです。

当時の僕も、生存者バイアスに偏って情報収集をしていたのです。

それでは、その情報収集方法は生存者バイアスに偏っていたから誤っていたのかというと、そうでもなかったと思っています。

確かに統計的な観点で考えると正確性は欠いていたかもしれません。

しかし、これから治療に臨まなければならない精神状況だった時に、ネガティブな体験談や途中で更新が止まってしまった闘病ブログなどとても読めるわけがありません。

希望を持って前向きに治療に向かうため、意識的にポジティブな情報だけにアクセスすることも、大切なリテラシーだったことがわかります。

正しく現実を分析することは重要ですが、現実だけを見ながら生き続けられるほど人は強くありません。

社会における役割|自分には何ができるか

真実を分析する生存者バイアスと、希望を与える体験談。それぞれの重要性について、どちらを重視した方がよいのか判断が難しいところです。

そういった時は、社会においての役割というものを意識すると良いのではないでしょうか。

医療者とそうでない人では、社会においての役割が異なります。医療者は客観的な情報を提供することで、病気の人たちが適切な治療を受けられるようサポートする役割があります。

一方で、私たちは生存者バイアスに偏り過ぎないようにしながら、希望を与えることで病気の人たちが前向きな姿勢を取ることができるよう、共感を通して感情面でのサポートをすることができます。

問題の解決は誰かひとりが行うものではなく、社会のなかで複雑に関わり合って達成されるものでしょう。

自分には何ができるか、ということを考えて「できることをする」という意識が大切なのかもしれません。

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