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いつか私は今日の事を思い出して泣くのだろう

帰省というものは、得てして帰る側にとっては義務みたいなもので、わたしはいつも間際になって億劫になってしまう。
今回は結局雑務が終わらなくて、帰る日を一日伸ばして帰省した。

実家には私の好きなありとあらゆるものが用意してあり、私は存分に食べて飲んで、少し目方が増えたように思う。
とにかく実家に帰ると私は何もしない。
家の事はもちろん、自分の事も。
「いいでしょう、たまには」という雰囲気に甘えてしまうのだ。
30にもなった娘が、とも思うけれど、嫁に行くまでは許していて欲しいと思う自分もいる。

そんな風に自堕落に過ごした最終日。
私が「肉を食べたい」と言ったので、家族(父、母、弟と私)で焼肉に行った。
行きつけている焼肉屋は相変わらず美味しくて、私はこれもお腹がはち切れるくらいに食べた。

私はそのまま真っ直ぐ駅に向かい、電車に乗って帰る手はずになっていたので、家族みんなが駅まで見送ってくれる形になった。
ところで父は、持病の通風が酷くまともにも歩けない程で、焼肉を食べている間にも「痛い痛い」と呟いていた。

駅に着くと、私の乗る電車までは少し時間があった。
ホームで待っていようか、と思っていたところに、父が「お土産は買ったのか?」と尋ねてきた。
新幹線の駅で買えばいいかと思っていたので、まだ買っていないと言うと「そこの売店にも、いろいろ売ってるから」と言って父が車を降りようとする。
「足、痛いんだからいいよ」と言っても聞かず、歩いて行ってしまった父を私と母が追いかけた。 

手短に、職場や知り合いへのお土産を一通り選び終え、私と母は会計へ向かった。  
けれど父はまだ棚を眺めている。
どうしたのだろうと思っていると「Sくんに、お土産は買ったのか」と言う。
Sくんというのは、私のパートナーだ。
父にも何度か会った事があり、父は彼を割と気に入ってくれているらしかった。
「買ってないよ」
私がそう言うと、またお土産物を2つ3つ見繕って、会計に向かった。
「これ、結構美味いから」
言い訳みたいな言葉と一緒に、もう一つお土産を手渡された。

「気をつけて、Sくんにもよろしく」
父と母はそう言って私を見送った。
「また、来月も帰るから」
そう言い残して私は改札をくぐった。
暫く歩いてから振り返ると、父が駅の階段をやっぱり足を引きずりながら降りて行くのが見えた。母が、その背中にそっと手を添えているのも。

大学進学のために上京してから10年。
住む場所は変わったものの、こうして帰省するのも何度目になるか知れない。
それなのに、なんだか今年の帰省は、そしてその終わりは、胸を締め付けるような思い出になった。

はたから見れば、たわいない家族の一場面だろう。
だけど私はきっと、いつか今日の事を思い出して、泣いてしまうのだと思う。


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