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さもないごちそう 「思い出のメンチカツ」

コロッケよりも豚カツよりも、私はメンチカツが好きだ。それも母が作ってくれたメンチカツが好きだ。

母は私が子どもの頃、パン教室に通っていた。当時偏食を極めに極めていた私はほぼ白米と納豆しか食べていなかったので、母が作る色々なパンを美味しく食べることができなかった。たぶん、食パンとか白パンなどの味がないパン(味がないなんてことはない)しか食べられなかったと思う。信じられない。今ではこんなに食いしん坊なのに。あの頃の反動で?こんなに?食いしん坊になったの?パン?大好きに決まってんじゃん。

シュトーレンの記事のときにもちらっと話したけれど、発泡スチロールを見るとパン生地を発酵させていた母のことを思い出す。そんな母がそのパン教室で習ってきたのが、件のメンチカツなのだ。

パン教室でなぜメンチカツ?と思うが、食パンのレッスン回のとき、サンドイッチにして食べるために先生がメンチカツを作ってくれていたのだそう。それがあまりに美味しかったもんだから母がレシピを聞いてきた、という訳だ。
私も一度だけその教室に連れていってもらったことがある。先生はとても上品な奥さまといった雰囲気の方で、教室となっているご自宅は、なんだかとても大きなお宅だったように記憶している(小さかったからそう思ったのかもしれないけれど)。



さてそんなメンチカツ。
ど偏食少女だった当時の私も貪り食べてしまうほど、美味しい。こんなに美味しいのだからさぞ特別なものでも混ぜ込んでいるのだろうと思うのだが、材料はいたってシンプル。シンプルすぎてちょっとテンション下がるくらいシンプルなものしか入っていない。


これだけ。

豚肉、玉ねぎ、卵、小麦粉、塩コショウ。以上。
あとはここには写っていないけれど、当然パン粉と揚げ油。

初めて母に作り方を教わったとき、「挽き肉ではあかん。安いのでええから豚こま買ってきてちょっと粗めに自分で挽くのがポイントなんやって」と言っていた。その教えを忠実に守る私は、未だ挽き肉でメンチカツを作ったことがない。

豚こまはいつもジャンボパック的なものを買う。
パックによって脂身が多いものもあるけれど、メンチカツを作るときはむしろありがたいので、冷凍保存する際に、メンチカツ用と他の料理用で分けてジップロックしている(「ジップロックする」っていう動詞普通に使ってるけど、みんな使う?)。

お肉もお魚も、安いとたくさん買ってしまうけど、保存用に小分けにしたり下処理するのは結構面倒で大変。あまり好きではない作業だけど、怠るとあとで余計大変になることはわかっているので絶対にする。夏休みの宿題しかり、面倒くさいからといって後回しにして良いことなんて人生においてひとつも無い。


今回は豚こま400gを挽き、玉ねぎもブンブンチョッパーでしっかり目に切った。玉ねぎの粗さは好みだが、私は細かい方がまとまり感が出て好き。

20回くらいブンブンした玉ねぎ



ボウルに豚、玉ねぎ、卵1個、塩コショウ、小麦粉(この日は大さじ3だったかな)を入れてしっかり混ぜる。
混ざったら好きな大きさに形を整えて、パン粉をつけて準備はおしまい。

パン粉が少し余ってしまったので、ご近所のおじいさんにいただいたブロッコリーも一緒に揚げることにした。
会うといつも、お庭の畑で育てているお野菜を「今○○ができてるから、持っていきますか」と言ってわけてくださるおじいさん。とてもありがたい。

ブロッコリーは素揚げも美味しいよね


揚げ物は結婚してからするようになった。実家では全然したことがなくて、いつも母任せだった。
油の温度を調整するのって意外と難しくて、ちょっと洗い物したり、他のことを考えたりしていたら200度くらいになってしまい、怖くなって火を消したら今度は下がりすぎてまた上げて…みたいなことを繰り返していたあの頃。初々しい新婚当初の思ひ出。

コロッケとか春巻きって、もう中の具に火が通ってるからあまり神経を使わないのだけど、豚カツとメンチカツのときは、ほんの少しだけ緊張する。油の温度が高すぎると衣がすぐ真っ黒になっちゃうし、低すぎると永遠に白いままで「油を全部吸い込んじゃうのでは…」と不安になる。
ちなみに唐揚げに関しては土井善晴先生のレシピで作るようになってから、そういった心配事とは無縁になった。ハードルがめちゃくちゃ下がったので、今の私はもはや唐揚げを揚げ物として捉えていない。

そんなことを言っていたら、すっかりきれいに揚がりました。

ウスター、ケチャップ、にんにく醤油を少し入れて混ぜたソースをかけて、ぱくり。


子がはじめてメンチカツを食べたのは、動物園へ行ったときだった。大人用のお弁当に詰めて持っていったのだが、物欲しそうにこちらを見ていたので試しに食べさせてみたところ、めちゃくちゃ食べたのだ。「こんなんも食べれるようになったんだなぁ!」と嬉しくて、「サクサクしたやつも食べさせてあげたいなぁ」と、もうすぐにでも作ってあげたくなった。それ以来、メンチカツを見るとあの日のお弁当のことが浮かぶ。そしていつか一緒に作る未来を想像する。案外そんな日はすぐに来るんだろう。


冷めても美味しい。だけどやっぱり揚げたては、もっとずっと、美味しい。私とメンチカツの間には、いろんな思い出が詰まっているのだ。


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