見出し画像

「稚拙で猥雑な本能寺の変」6

○シーン6 安土城・廊下

上手から廊下より明神と蘭丸がやってくる。
歩いては止まり振り返り、歩いては止まり振り返り。
明神が蘭丸のマネをしている。

蘭丸  「何故ついてくる?」
明神  「何故ついてくる?」
蘭丸  「あっちへ行ってろ」
明神  「あっちへ行ってろ」
蘭丸  「マネをするな」
明神  「マネをするな」
蘭丸  「(早口言葉)」
明神  「(マネをする)」
蘭丸  「(早口言葉)」
明神  「(マネをする)」
蘭丸  「ああ鬱陶しい!」
明神  「ああ鬱陶しい!」
蘭丸  「お前のその態度、御屋形様に言っておく」
明神  「お前のその態度、御屋形様に言っておく」
蘭丸  「(デコピンをする)」
明神  「あいた!」
蘭丸  「私のマネをして何になる」
明神  「僕も蘭ちゃんと同じ小姓ですからね。まずはマネからです」
蘭丸  「くだらん」

下手庭先にやってくるフロイス、たま、もち、光秀。
フロイス、咲いている花に気付き

フロイス「たま様、あれを」
たま  「まあ、あんなところに花が」
もち  「なんて可憐な。まるでたまさまのようです」
たま  「いいえ、この花はもちに似ています」
もち  「私に?」
たま  「ええこんな隅っこに小さく咲いているなんて。奥ゆかしいではないですか」
もち  「奥ゆかしい?私がですか?とんでもないことです」
光秀  「もち、そこは素直にありがとうと申せばよいのだ」
もち  「いえ、とんでもないです」
フロイス「アメーン」
皆   「アメーン」

その様子を見ている明神と蘭丸。

明神  「平和な風景ですねえ」
蘭丸  「もうすぐこんな風景が日常になる」
明神  「え?」
蘭丸  「御屋形様が天下布武を完成させれば戦はなくなる」
明神  「早く戦がなくなるといいですな」
蘭丸  「そうだな」
忠興声 「光秀様!光秀様!」

下手庭先より、急ぎ来る忠興。

忠興  「光秀様、こちらでしたか」
光秀  「忠興、どうした」
忠興  「実は、急ぎお知らせしたいことがありまして。あっ、どんぐり様」
明神  「こんにちは」
忠興  「ははーっ!」
明神  「え?」

いきなり明神にひれ伏す忠興。
状況が呑み込めないほかの人たち。

光秀  「どうした急に?」
忠興  「光秀様このお方は天照大神のお使者だったのです」
たま  「え?」
もち  「天照大神の?」
蘭丸  「使者?」
明神  「俺?俺が何なんですか?」
忠興  「皆、控えるのだ」

よく分からないが全員控える。
光秀、フロイス、蘭丸は脇に。

忠興  「お使者様、知らぬこととはいえ先日は大変失礼をいたしました」
明神  「僕何かしました?」
忠興  「天照大神の預言の書、読ませていただきました」
明神  「あまあまあま・・・」
忠興  「あなたは天照大神のお使者では?」
明神  「何ですかそれ」
蘭丸  「忠興様、ご説明を」
明神  「忠興様、ご説明を」
蘭丸  「お前の話だ」

そこにやってくる秀満、織部。

織部  「明神くん・・・なにこれ?」
明神  「織部さん!見てください。みんな僕にひれ伏すんです。なんか僕があまあまあま・・・」
忠興  「天照大神」
明神  「それです」
織部  「もしかして明神くん天照大神を知らないの?」
明神  「何ですかそれ」
織部  「バカ!何で知らないの」
明神  「バカって言わないで下さいよ」
秀満  「織部様、これはどういうことでしょうか?」
織部  「あ、いやこれは・・・まず皆さん立ちましょう。控えなくていいですから」

みんな立つ。

フロイス「天照大神は日本の神様ですね」
織部  「そうです。僕はその使者としてきたんです」
秀満  「それは存じております。どんぐり様は?」
明神  「僕も偉い人です」
織部  「いえこっちは全然偉くないんです。これは僕の見習いみたいなもんで」
秀満  「見習い?」
織部  「そうなんです。だからバカなんです」
明神  「バカって言わないで下さいったら」
織部  「そういうわけで明神くんは何も知らないので質問とかしないで下さい」
秀満  「そういうことでしたか」
光秀  「秀満、この者たちは天照大神の使者なのか?」
秀満  「はい。証拠もございます。忠興!」
忠興  「はっ」

忠興、恭しく懐紙に包まれている『やきそばパン』の袋を出す。
一同、袋を神々しい気持ちで「おお!」

光秀  「やきそば・・・なんだこれは?」
秀満  「天女の羽衣でございます」
光秀  「天女の羽衣?」
秀満  「触れてみてください」
光秀  「(手にする)」
秀満  「どうですこのつるっとした肌触り」
光秀  「天女の羽衣・・・フロイス、これは南蛮のものではないのか」
フロイス「いえ、私の国でも見たことがありません」
光秀  「ない?」
秀満  「天女の羽衣でなければ説明がつきません」
光秀  「うーむ」
明神  「織部さんよくそんなもの持ってましたね」
織部  「京都駅のファミマで買ったんですよ」
明神  「エライ」
秀満  「そしてもうひとつ」
光秀  「なんだ?」
秀満  「これも使者が持参したものです(本を渡そうと)どうぞ」
光秀  「うん」
織部  「え?ちょっと!(本を取り上げる)」
秀満  「なにか?」
織部  「流石にこれはマズイですって」
光秀  「何がマズイのだ?」
秀満  「何でもありません。貸して下され」
織部  「ダメです!光秀さん本人ですよ!ダメに決まってるじゃないですか!」
秀満  「何を言っておる。だからこそ読んでいただきたいのだ」
織部  「ダメですって!明神くんこれを持って逃げて!」

織部、本を明神に投げる。明神受け取って。

明神  「はい(光秀に渡す)」
光秀  「これか(読み始める)」
明神  「織部さん、大人げないですよ」
織部  「何してんの明神くん」
明神  「何ですか?」
織部  「ああ、今度こそ一巻の終わりだ」
光秀  「この国の歴史書だな・・・」
明神  「いいじゃないですか別に」
織部  「いいはずないでしょ!あれは歴史の本なの。本能寺の変のことも書いてあるの!そんなもん本人に見せたら歴史が変わっちゃうじゃないですか」
明神  「歴史が変わったっていいじゃないですか」
織部  「良くないでしょ!」
明神  「僕らは今ここで生きるしかないんです」
織部  「何言ってるの明神くん」
明神  「ここに来たことが僕らの運命なんです。僕らの歴史なんです」
織部  「え?」
明神  「戻れる保証だってないんですよ」
織部  「まあそうだけど」
明神  「だからここで頑張って生きていきましょう!」
織部  「え?そういうこと?いやいやそうじゃなくてさ・・・」
光秀  「これは」
織部  「何か?」
光秀  「本能寺の変?」
織部  「おおおおお!(走って行って光秀から本を奪い取ろうとする)」
光秀  「何をする」
織部  「返してくださーい」

忠興と秀満、織部を捕える。

秀満  「お離れください」
織部  「すいませんすいません。ああもうダメだ」
光秀  「ここに本能寺で私が御屋形様を討つと書いてある」
秀満  「はい」
織部  「ギャー!」
光秀  「どうした?具合でも悪いのか?」
織部  「・・・いえ・・・セーフ?セーフだよ明神くん」
明神  「何ひとりで騒いでんですか」
光秀  「秀満、この書はなんだ?」
秀満  「天照大神が記した預言の書です」
光秀  「預言の書・・・使者殿、何のためにこれを持ってきた」
織部  「何のために?それは偶然としか・・・」
秀満  「戒めでございましょう。謀反など起こすと大変なことになると」
光秀  「私は御屋形様に仕えておる身。御屋形様が黒と申せば白いものでも黒と申す」
織部  「え?光秀さんは信長さんを討たないんですか?」
光秀  「有り得ぬ」
織部  「それってそれを読んだからそう思ったんですか?」
光秀  「何を申す。私が謀反を起こすなど考えたこともない」
織部  「ウソじゃないですよね?」
秀満  「無礼なことを申すな!使者であろうと許さんぞ!」
織部  「すいません」
光秀  「使者殿」
織部  「はい」
光秀  「これによれば私が謀反を起こした後、秀吉殿が天下を統一すると書いてあるが」
織部  「・・・はい」
光秀  「秀吉殿が天下統一か」
忠興  「しかし預言の書には今川義元を破った桶狭間での戦、浅井長政との戦、長篠での戦、本願寺征伐、そして先日の武田滅亡のことまで詳細に書かれています。その全てが的中しているかと」
光秀  「うむ」

信長が入って来て、本をひったくる。
一同、慌てて平伏。

信長  「(読んで)」
織部  「あっ!信長さん!」
光秀  「御屋形様、それは」

織部、信長から本をひったくろうとすると
蘭丸、織部を押さえ込み

蘭丸  「使者だろうが容赦せぬぞ」
織部  「すいません・・・」
明神  「容赦せぬぞ」
織部  「なにそれ明神くん」
蘭丸  「マネするな」
織部  「信長さん、あんまり読まないでください。ああああダメだ・・・」
信長  「面白いじゃない」
光秀  「面白い?」
信長  「本能寺の変」
織部  「ぐあああああああああ!」
明神  「織部さんうるさい」
織部  「どわわわわわーーーーーー消えない。良かった」
信長  「どんぐり、この方はご病気?」
明神  「元々こんな感じです」
信長  「そう。光秀」
光秀  「は」
信長  「私を殺してもいいわよ」
光秀  「滅相もないこと」
信長  「でもこれにはあなたが私を殺すって書いてあるわよ」
光秀  「私が御屋形様を討つことは絶対にありません」
信長  「絶対?」
光秀  「万が一本当にそのような事態になったときは私は自分の腹を切ります。我らは戦を終わらせるために御屋形様に仕えてるのです。私が御屋形様を討つなど有り得ません」
信長  「フロイス」
フロイス「はい」
信長  「本能寺の変は6月に起こるそうよ」
フロイス「・・・」
信長  「6月に私が死ななければ、私は神になるわ」
フロイス「信長様、人間は神になれません」
信長  「なれるわよ」
フロイス「この世界で神はデウスだけです。神になるなどと言わないでください」
信長  「デウスなんて何もできないじゃない」
フロイス「そんなことを言ってはいけません」
信長  「デウスはこの世界を動かす力すら持っていない」
フロイス「しかし信長様」
信長  「私にはその力がある。私はデウスを越えるの」

信長、フロイスの首に掛けた十字架を引きちぎり捨てる。

フロイス「ああ!」
信長  「いいわ光秀、あなたを信じましょう」
光秀  「ありがとうございます」
信長  「蘭丸、どんぐり行くわよ」
明神  「はい。織部さんまた!」
織部  「明神くん!」

去っていく信長、蘭丸、明神。
捨てられた十字架を拾い泣いているフロイス。

たま  「フロイス様・・・」
もち  「お可哀想に」
光秀  「・・・」
忠興  「使者様、ありがとうございました」
織部  「え」
忠興  「おかげで光秀様に預言の書にある『本能寺の変』が起こらないという確証をいただけました」
秀満  「きっと天照大神の取り越し苦労だったということでしょう」
織部  「よかったですね・・・でも本能寺の変が起こらないって・・・どうして?」
忠興  「しかし光秀様、ひとつ気になることが」
光秀  「なんだ」
忠興  「御屋形様は神になり世界を動かすと仰ってました。あれは?」
光秀  「私も気になっていた。フロイス」
フロイス「はい・・・(泣いている)」
光秀  「気を落とすな」

光秀、秀満、忠興、たま、もち、織部、去る。
ブルー転換。

ここから先は

0字
重要ポイント以外は無料で読めますが、面白いと思ったらぜひ購入して全部読んでいただけたら嬉しいです。笑えて泣けてちょっとだけ学びになるかも。再演をしてくれる劇団、スポンサーになってくれる企業様を大募集です。

舞台台本です。最重要部分以外は無料で読めます。 (初演:2016年11月) 天正10年6月2日早朝。戦国の流れを一変させた「本能寺の変」…

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは劇団活動費などに使わせていただきます!