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うつ病とオーディオの関係仮説

厚生労働白書(H.30)によれば、1996年から2017年までの気分障害(うつ病など)の患者が増加傾向にあるという。


出典:「平成30年版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に」厚生労働省

ではなぜなのか。その理由の一つとしてオーディオの個人化が考えられる。

オーディオは年々個人一人でも聴けるように進化をしてきた。他者に迷惑をかけないイヤホン、ヘッドホンが開発され、どこでも音楽とともに居られるウォークマン、iPodが販売され、自分専用のアカウントを作れるSpotifyが人気になったことで、人々はますます自分の世界に入り込むようになった。

これは社会学者ギデンズ流にいえば、「時間と空間の分離」といえるだろう。それまで、オーディオはその場にいる周りの皆と共有し、全員で楽しむことができた。しかし、このような技術が開発されたことによって、その場にいながら別の世界に存在する形となる。

では、その場にいながら外とは違う世界を楽しんでいればどうなるか。外とのつながり(声を使ったコミュニケーション)をできるだけ遮断したくなる。読者も、「今イヤホンで音楽を聴いていたから、外からかけられた言葉を返事ではなく動作だけで返答する」という経験をしたことがあるのではないだろうか。

すると、声を使わなくなるということは、独り言や他者とのかかわりがなくなるということだ。うつ病の原因は、何度も同じ言葉で自分を責める「反芻(はんすう)思考」にある。本来であれば、反芻思考は外部へ表出することによって抑えられる。外部の表出は独り言や他者とのかかわりによって行うことができる。だが、近年の「オーディオの個人化」によって減少したことで、反芻思考が加速し、うつ病を引き起こしていると考えることができる。

この「オーディオの個人化が人々を反芻思考に陥れ、うつ病を促進している」という仮説は、社会学者ロバートマートン流に言うならば、「潜在的逆機能」といえるだろう。すなわち、オーディオの発達によって、「意図せざる副作用」が発生していることとなる。

だが、私は「オーディオの発達は悪だ」「昔に戻れ」と言っているわけではない。その時代に合った、対処法を創り出していかなければならない。例えば、独り言をいう時間をつくるだとか、1日1回は誰かにあいさつするとかだ。


参考文献
「平成30年版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に」厚生労働省
ロバート・K. マートン, 森東吾, 森好夫, 金沢実,中島竜太郎訳(1961)『社会理論と社会構造』みすず書房
鈴木祐 (2021)『無(最高の状態) 』クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
アンソニー・ギデンズ, 松尾精文、小幡正敏訳(1993)『近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結』‎而立書房


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