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公立学校教員への「変形労働時間制」適用の意味を、中小企業総務観点で考える

私が総務として働く会社では「1年単位の変形労働時間制」を採用しています。

うちの会社の場合は、事業分野の性質から特定の時季に仕事量が偏るので、この制度の採用は一見納得のようにも思えます。しかしながら実際は多くの問題をはらんでいます

また、最近の話題として、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」を改正する法律案に1年単位の変形労働時間制を適用することができる条文改正があったということが、大きな反対運動を生み出しました。

この「1年単位の変形労働時間制」について思うこと、及び公立学校教員に適用するということは何を意味するかについて考えを書きます。

「1年単位の変形労働時間制」とは

「変形労働時間制」には、1週間単位、1ヶ月単位、1年単位、がありますが、今回特に述べるのは、「1年単位」についてです。多くのサイトでわかりやすく解説されているので、制度の詳細はここではわかりやすかったサイトの紹介に留めます。

一言で言えば私は下記のように解釈しています。

繁忙期と閑散期がはっきりしていて事前に労働計画が立てられる業務形態であれば、労働者の同意を前提に、繁忙期に「一日8時間」「週40時間」といった労働基準法の原則枠を超えて労働することを許しますよ。その代わり期間の平均では枠を超えないように、期間の中で調整してね。

たとえば4月が忙しい企業ならば、その1ヶ月に限り1日の労働時間を、法定労働時間を超えて8時間以上、週の労働時間を40時間以上にすることができます。(とはいえ上限や細かな条件がたくさんあります)。その代わり、仕事が少ない他の期間では労働時間を少なくできるので、生活にメリハリをつけましょうという点で労働者メリットがあるようにもみえます。

では、この制度をどれだけの企業が利用しているかというと、「令和2年就労条件総合調査」によると、以下のようにあります。

変形労働時間制を採用している企業割合は 59.6%(平成 31 年調査 62.6%)となっている。企 業規模別にみると、「1,000 人以上」が 77.9%、「300~999 人」が 72.5%、「100~299 人」が 64.4%、「30~99 人」が 56.2%となっている。
これを変形労働時間制の種類(複数回答)別にみると、「1年単位の変形労働時間制」が 33.9%、「1か月単位の変形労働時間制」が 23.9%、「フレックスタイム制」が 6.1%となってい る。

なんと、1/3の企業が「1年単位の変形労働時間制」をとっています。注目したいのが、この調査対象の中では従業員数が少ない企業ほどその割合が高いことです。

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「1,000 人以上」が22.6 %であるのに対し、30 ~ 99人 の企業では35%強がこの制度を採用しています

「1年単位の変形労働時間制」が中小企業に好まれる理由

1年の繁閑期がはっきりしている業態が1/3超もあるようには感覚的に思えません。例えば土日に長時間労働が必要な飲食店・小売店などが、週の中で調整する「1週間単位の変形時間労働」や、月末に精算業務が集中する金融やインフラ系の業界が「1か月単位の変形労働時間制」を取るのは納得できます。

しかし小売業や建設業、製造業が多い中小企業で「1年単位の変形労働時間制」が多く採用されるのは、繁閑期のメリハリをつけたいというよりは、「できるだけ休みを少なくしたいから」なのです。それを表すように、中小企業ほど年間休日が少ない状況です。

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特に明確に「繁忙期」といえる期間が存在しなくとも、時間外手当なしに年間休日を減らすことができるのがこの制度の裏目的といえるのです。

■あら不思議、休日が少なくなる

一日8時間で週5日働き土日休めば年間休日は104日です(2020年)。しかし1年単位の変形労働時間制をとった上で1日の所定労働時間を7時間45分とすることで、必要な年間休日を96日に抑えることができます。7時間30分であれば87日です。

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年間の日曜と祝日を合わせるとだいたい70日なので、年末年始やお盆にそれぞれ3日休みがもらえたとすると、この休日87日というのは、土曜日に休みがもらえるのは月1回だけというイメージです。なお、2020年の国家公務員の年間休日は128日で、大企業はたいていそのくらいです。

■あら不思議、残業時間の割増手当がなくなる

月〜土曜に毎日7時間30分働けば週の労働時間は45時間ですから、変形労働時間制を取らなければ40時間を超える5時間分は割増手当(25%増)が必要になります。それが不要になるわけです。

明らかに土日が商売のメインとなる飲食業などならまだ諦めがつきますが、普通の会社の事務職や営業職だったりすると、大企業より年間1ヶ月以上も多く出勤した挙げ句、基本給与が低いばかりか「土曜に働いているのに手当ももらえない」という感覚になります

もちろんそれは思い込みであって、実際は法的に問題ないことになるのです。本人に知識がないだけではなく、会社としても後述のような問題をつつかれたくないので、「当社はこういう制度だから」と説明することも積極的にはしません(一応、労働者の半数以上が認める代表者の合意が必要ですけど、そんなものは形骸化するのが通例)。

■良いことはないの?

働く日数が増えている分、1日の労働時間が減っているから良いじゃないかと思うかもしれません。

しかし中小企業となると、始業前に20~30分早く来て玄関を掃き掃除したり机を拭いたりお湯を沸かしたりなんてことが普通にあったりします。
帰りにしても、早く帰って夕食の準備でもする人ならば10分でも早く帰りたいでしょうけど、特に家ですることもない人だったら、17:15だった就業時間が17:00になったところで、趣味やリラックスの時間が増えるといった生活的な差はさほど発生しないですよね。土曜に休める日が増えるか、土曜は出るけど手当がもらえる、というほうが本人にも家族にもずっと納得がいくはずです。

もちろん、この制度により本当に従業員のライフワークバランスにメリハリが生まれることもあるでしょう。ファーストリテイリングが週休3日制をとって労働日の所定時間を10時間にしたのは、もちろん残業手当削減の思惑もあったでしょうけど、結果として「週休3日」という点がクローズアップされ、むしろ世間にプラスイメージをもたらしました。
これは、出勤日の労働時間増加による負荷増を打ち消すほど、まるまる休息となる日を増やすことは労働環境が良いイメージをもたらす例と言えます。出勤しない限りは、勤務時間前後のサービス労働も発生しないですからね。

■変形労働時間制で目減りした「残業時間」に騙されるな

結果、我々労働者が認識しておかないといけないのが、「時間外労働を減らす」というのと「休日を増やす」「総労働時間を減らす」というのはイコールではないということです。

「残業月80時間が過労死ライン」といった評価も、恣意的に数字上だけ残業時間が減らせる変形労働時間制がある限り、あまり客観的な指標になりえません。労働者がダメージを受けるのは誰かの言いなりになってプレッシャーを受けて働いている時間の長さだったりします。
その意味では「完全に働いていない時間」というのを連続でできるだけ長く作ることは有効なストレス軽減策に思えます。その関連指標として、退社してから翌日出社するまでの「業務間インターバル」が重要視されるようになっています。あとは休日の数。これらが十分に与えられるかというのは、法定外労働時間の大小に増して重要だと感じます。

「1年単位の変形労働時間制」は簡単に適用できるのか?

それほどまで利用されている「1年単位の変形労働時間制」は、簡単に適用できるものなのかというと、実はそうではありません。

■計画は変更できない

あくまで労働日と休日をあらかじめ定めて勤務カレンダーを提出しなければならず、途中での変更はできません。閑散期にせっかく旅行の計画を立てたのに会社の休日が変わってしまった、なんてことがあっては結局いつでも仕事に対応できる状況にないといけませんからね。下記のような具体的な例が厚生労働省通達で発信されており、釘が刺されています。

例えば、貸切観光バス等のように、業務の性質上、1日8時間、週40時間を超えて労働させる日又は週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、1年単位の変形労働時間制を適用する余地はない
(平成6.1.4 基発1号)

しかし実態はというと、事業所全体として休日カレンダーの変更はなかったとしても、個人ごとには突発的な休日出勤の上での代休取得が半強制的に行われることがあります。それが制度の趣旨にそぐわない運用であることを理解している企業は少ないでしょう。

それでもまだ、法定休日における休日出勤だと会社に認定されて1.35倍の手当がもらえたら御の字です。休日の振替との扱いで手当すらなかったり、それが週40時間を超えていても手当てがもらえていないケースも少なからずあるはずです。

■法定外労働時間の算出が複雑

変形労働時間制の一番の問題はこれだと思います。「法定外労働時間」があまりに把握しにくいこと。

通常であれば1日8時間、または週40時間を超えたぶんが「法定外労働時間」とされるので、シンプルです。しかし、例えば変形労働時間制の申請時に提示したカレンダーにて1日7時間45分、日曜日以外の6日働く週が規定されたとすると、その週は45時間働きますが、5時間分の割増手当は発生しません。

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また、その週の金曜日に8時間半働いたとします。「所定時間外」の残業時間は45分ですが、割増手当が発生するのはあくまで法定労働時間の1日8時間を超えた30分ぶんのみとなり、15分ぶんは割増はつきません(通常の時間単価✕15分ぶんの加算は当然つきます)。

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一方で、同じく1日7時間45分であっても土曜が所定休日とされた週だったのならば、土曜日に休日出勤し同じ時間働くと5時間分の割増手当が発生します。ですがもしその週の労働日において4時間相当分の半日休暇を取得していたならば、実労働時間は41時間となるため、割増対象は1時間のみとなります。

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また、別の例として1日の所定労働時間が8時間30分で設定された週があったとします。これも事前に勤務カレンダーで規定すれば1日8時間を超えていても割増賃金はありません。週40時間超えについても同様です。(これが1年単位の変形労働時間制の「繁忙期」設定であり、残業時間抑制となる)

■対象期間の途中入社・途中退職の精算が面倒

1年単位の変形労働時間制は、あくまで対象期間を通した平均が週40時間以内とすることで、1日8時間・週40時間を超える労働に対する割増手当の支払いを免除します。つまり、その期間の途中で入社・退職した社員がいた場合、週40時間で計算された法定労働時間の総枠を超えている分に対しては手当を支払わなければなりません

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ここまでやっている中小企業はあるのか?と思う面倒くささですが、この精算ができることが適用条件となります。

とにかく正確に割増対象となる労働時間を集計するのが非常に骨が折れる作業になってきます。書いていてお腹いっぱいですが、追加で挙げます。

・1週間の途中から1日の労働時間が変わった場合に残業時間集計がややこしい
・8時間を超える所定労働日に休日を振り替えて労働する場合は、8時間を超えた分が残業扱いになる
・週1回の休日に対し出勤したい場合は休日の振替はできない

勤怠管理システムの中には、1年単位の変形労働時間制に対応したものもあるようで、それを使えば機械的に計算できる場合もあるでしょう。しかし正しく設定すること自体が難易度が高そうだし、働いている方としては少しくらい手当をごまかされてもまず気付かないでしょう。

だから大企業では、事務処理の簡易化や訴訟リスク回避を優先し、たとえ変形労働時間制をとっていなかったとしても「所定労働時間」を超えた分は一律1.35倍、土曜だろうが日曜だろうが出勤したら1.5倍、などと法定基準を上回る手当をシンプルな基準で支払うことにしています。

変形労働時間制の場合は、明らかに企業の人件費としては有利となる制度なのだから、所定労働時間を超えた分は1日8時間以内だろうが週40時時間以内だろうが割増対象とするようにすれば良かったのです。企業側の味方になりすぎたおかげで、複雑怪奇な状況になってしまっている感が否めません。

それを知ってか知らずしてか、変形労働時間制をとることで残業代を出さなくて良いといったように従業員に曲解させる企業が確実に存在するのです。

「1年単位の変形労働時間制」の教員への適用がもたらすもの

ここまで、民間企業における1年単位の変形労働時間制の実態について書きました。ここからはそれをふまえた上で、冒頭で述べた「公立学校教員への適用」について考えてみます。

国会で改正教職員給与特別措置法(給特法)が成立しました。
そこでは給特法「第5条」の改正により、それまでできなかった変形時間労働制の導入が柱とされているようです。それが、「長時間労働を正当化するもの」として相次ぐ批判を生んでいます。本来原文を読み解きたいですが、あまりに入り組んだ内容で理解不能でした。専門家の解釈に従うとともに、問題とされるポイントについては次のような記事に譲ります。

「給特法」の異常性

この問題を理解するためには「給特法」の理解が必要です。下記に詳しく説明してくださっている方があります。

この法律の問題をかいつまんで言えば、「給特法」によって公立学校の教員は残業が「ないことになっている」状態で、お茶を濁すかのように、月給の4%分だけ「教職調整額」という手当のようなものが支給されていることです。

今の世にどうしてそんなひどいことになっているかというと、単に時間外分の給与を払う財源がないから、問題が先延ばしにされてきたということになります。

学校における働き方改革特別部会(第8回) 議事録」によると、「初等中等教育局財務課長」の方が下記のように試算しています。

 教職調整額は4%でございますので,約500億円弱という形になってございます。これは,昨年実施いたしました教員の勤務実態調査では,ある月の一部分しか測ってございませんので,これを10年前の調査も参考にしながら通年ベースに直していくと,必ずしも正確な数字ではありませんが,仮に小学校であれば,4%から30%近くに引き上げる,中学校であれば,40%程度という,計算でいきますと,国庫負担ベースで,恐らく3,000億円を超えるような金額が必要になってくるのではないか。これは国庫負担分の3分の1でということであり全体はその3倍でございます。

つまり国と自治体を合わせると、もし教員に正直に残業代を支払ったのなら年間9000億円程度の人件費増となる試算です。
「金が出せないから」という理由で、国家ぐるみで恣意的な法律を成立させ庶民から搾取するのは、もはや日本の伝統文化と言えます。その問題がようやく無視できないレベルに表層化したのです。

教員への変形労働時間制の意図

そんな状況の中、変形労働時間制を教員に適用する意味とは何なのか、下記の『総合教育技術』記事がとてもわかりやすいです。

■変形労働時間制の建前

変形労働時間制を単に「労働時間延長の容認」と捉えると、確かに批判されてしかりです。しかし「変形労働時間制」の制度のメリットとして厚生労働省は下記のようにうたいます

「1年間の変形時間労働制」とは、業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的にしたものです。

本当にこのとおりになるのならば、教員としても歓迎すべき部分もあります。文科省のイメージとしては、生徒の夏休み期間に教員にも十分な休息を与えたいという意図のようです。

しかし実態は、民間企業の例として上で書いたとおり、変形労働時間制は単に集計上のマジックで見てくれだけ「法定外労働時間」を減らす手段としても利用することができます

つまり本来の目的を成就するためには、「暇な時季にも無駄に労働時間として拘束されている」という事実がない限り意味がないのです。

もし、「繁忙期として設定する期間以外においては、対象者の法定外労働時間が平均○時間を下回っていること」が1年単位の変形労働時間制を適用するための条件となっていれば、幾分かは本来の目的通りの活用ができることでしょう。しかし適用条件にそれはないのです。公立学校教員の8月の実態が「暇」でないとしたら、本来の趣旨を期待するのは難しいということになり、やはり「見かけ上の法定外労働時間減らし」という側面が強く感じられます。

■前提とされること

もちろん文科省も、教員の業務実態が現状のままで変形労働時間制を導入することは良しとしていません。上の記事に「業務改善が進んでいることが大前提だと文科省も述べている」とあるとおりです。

民間企業の制度に照らし合わされるのは仕方がない

さて、ここまでは他の方々の主張を補足したに過ぎませんが、ここからはそれに少し異を唱えたいと思います。

その良し悪しは置いといて、民間企業で変形労働時間制が「みせかけの残業時間削減」のために利用されていることが許される実態がある限り、「本来繁閑期があるはずの業態」なのであれば、その制度を適用した上で正確に実態を再評価しようと図られることはなんらおかしなことではありません。教員の過酷な労働の実態が、民間企業の残業時間や判例で積み上げられた過労死ラインをベースに議論されるのであれば、残業の集計基準も民間企業に合わせてみることが出発点だという考えがもしあったのなら、私は理解できます。

そういった観点から、上で引用した『総合教育技術』の記事で挙げられた次の4つの懸念事項に対して、あえて制度に前向きな立場で意見を加えたいと思います。

①現状の長時間勤務を容認、追認、助長することにつながる可能性

単純化して言えば、今まで10時間働いたら2時間の時間外労働と評価された日が、10時間働いても残業ゼロ扱いになる。それが問題というわけです。しかし逆に閑散期に10時間働いたら残業4時間(うち法定外2時間)にカウントされる、というのが変形労働時間制でもたらされる結果です。

「うちには繁忙期があってそのときに長く働くことは普通だから、”残業”にはカウントしないよ」、というのを多くの民間企業が巧みに取り入れているわけです。それを「容認」「追認」と言われたらそのとおりです。

しかしながら、本来閑散期であるはずの日に4時間の残業というのは一体何をしていたのか?という点がクローズアップされるのは良いことではないかと思うのです。必ずしも必要ない作業だったのなら整理しなければいけません。逆にそれが不可欠な仕事として評価された結果、「教員に繁閑期はありません」という結論になったのなら、それはそれで前進ではないでしょうか。

②育児や介護等の人が働きづらくなる懸念

個別に適用対象外となる条件を定めれば良いと思います。対象外になっても周りと違った時間に出退勤するのは気が引けると感じるか、制度で明確に勤務体系が区別されているのだから今度は堂々と早く帰れると感じるか、これは職場の雰囲気の醸成次第だと思います。

今は大丈夫だけど変形労働時間制になったら問題になるはずだ、というならやらないほうが良いですが、現状の仕組みの中でもこれらの人が不便に思っているのだとしたら、何か変えないといけない。一律の上での忖度でなく、仕組みとして労働条件に明確な差異をつけたほうがスッキリしないでしょうか。

③休みのまとめ取りが本当にできるのか

述べたとおり変形労働時間制が労働者にとって有効に機能するためには、閑散期には残業しなくて済むように業務が整理できないといけません
部活の世話や研修などでそれができないなら、「働き方改革特別部会」でも議論されているように業務内容を見直したり外部の人材を活用したりなど、それらのやり方を変えるしかないです。これは民間企業の働き方改革で課せられる命題と同じです。

④管理コストの増加

正確な労働実態を「主張」するために出退勤管理がややこしくなるのは仕方のないことです。アンケートなどではなく客観的な実データが揃えることは大きな意味を持ちます。
今はクラウドサービスの勤怠管理システムも数多くあるので、教委への報告や部活動の扱いなど教員独自の業務もシステマチックにできるようにカスタマイズされたものを開発したら良いと思います。手を挙げるシステム会社はいくらでもあると思います。

なお、日本労働組合総連合会 が2018年に行った「教員の勤務時間に関するアンケート」では、出退勤時間がシステム管理されているのは30%程度だそうです。この状態を放置すべきではありません(それは誰の問題か?はいったん置かせてください)。

そもそも「残業代がもらえない」ことはありえない

ここまで「民間企業と問題は同じ」的な発言をしてきましたが、結局は教員たちが「残業代をもらっていない」という根本的な違いがある限りは同列に語れないことは確かです。民間企業では変形労働時間制で人件費削減が期待できますが、教員の場合は今はそもそも残業代が支払われないので、国や自治体の経費が浮くわけではありません。

なのになぜその制度を「軸として」持ち出すかということを考えると、仕事のメリハリ云々といういうのも単なる建前ではないにしても、結局は、

将来的に「残業代を出す」制度改革を成すために、ソフトランディングのポイントを模索しているのではないか

と思うのです。明らかに今の状況は誤魔化しとしか言えないし、それがもたらす結果は将来の日本にとっても害悪でしかないですから。
かといって満額で残業代を出す懐もないし、とりあえず業務削減の検討をしながら、民間企業で使われている制度を解禁し、最低限の残業代で済ませる方法にたどり着きたい、ということです。続・給特法のような形で独自の特殊な労働条件を作ってもまた批判を生むし、民間の既存制度を適用しただけなら文句も少ないだろうと。

このような今の公立教員の状況は「一昔前の中小企業」に酷似しているように感じます(今でもそういう企業はありますが)。

「教職調整額」は、企業でいう「営業手当」に似ている

営業手当というものは、月々一定額支払われても、何のための手当かたいてい不明です。スーツ代なのか、靴代なのか。もしくは所定時間を超えて働いた上で直帰する場合の時間外手当の補填か。はたまた、休日に急に顧客から電話がかかってきたときに対応することに対する手当か。
もし営業活動に伴う時間外労働に対する手当ならば、「みなし残業代」にほかなりません。その場合はきっちりと業務に要した時間を計測した上で、手当の額で足りない場合は追加で残業代を支払わなければいけない、というのが今の常識です。
「教職調整額」は、「ちょっと色をつけるから、良きに計らえ」というこの昔ながらの営業手当に似ていると思うのです。

明らかに組織として必要な業務であるのにも関わらず、直接の命令でないため「自主的に残っている」とされて残業代が払われない

たとえば営業が客からの指示により所定時間外に代金回収に行ったとしても、「本来は所定時間内に済ませるよう顧客と調整すべき」とされ残業代がつかいなんてこともザラです。昼休みの労働も同じです。来客があったり電話が来たら当然対応しますが、もちろん休憩をとったことにされます。
本来これらを正直に法解釈するとすべて労働時間とみなされます。

企業の労働管理が厳格化される中で、特に問題が大きい教員が例外とされ続けるのは無理があります。教員だろうが残業代が支払われない(残業してないことにされる)などいうのは本来ありえないのです。

一方、業務を細かく評価されることになる

中小企業にそんな実態があるにも関わらず社員が我慢しているのは、文句を言って「上に目をつけられたくない」というのもあるし、「上になんだかんだ細かく指示されるよりはマシ」と思っている一面があるのです。

残業代がもれなく出る代わりに「顧客訪問は所定時間内しか許さない」とか「休憩時間中に電話は受けていけない」なんてことになっては顧客の信頼を失い、結局は自分が仕事をやりづらくなります。いままでは顧客との待ち合わせ前に車で休憩していた時間も、「本当に残業が必要だったか評価するから、業務内容を分単位で報告せよ」などとなったらめんどくさくて仕方ありません。

中には自分の能力の欠如のために仕事が長引いていると感じて残業の申告を躊躇する人もいるでしょう。パソコン操作がわからず操作方法の検索に1時間も使ってしまった、など。

教員についても、自分の裁量である程度業務がコントロールできる面があるとしたら、長時間労働からの保護や残業代を得るためには業務内容面を逐次監視され突っ込まれるようになることは覚悟しないといけないと思います。

残業代として給料を増やす限りは、業務プロセスのみならず結果も求められます。教職の場合どう評価するのかも難しいですね。部活動についても成績が悪ければ残業に値しないなどと無慈悲にはできないでしょう。
しかし何をもって業績を評価するかは、これも民間企業が抱える課題の一つですし、結果が厳密に評価されるならば、成績不良な従業員は減給や配置転換も余儀なくされる仕組みがセットでなければ意味をなしません。

評価を公正にするためには、校長も教員から評価できるような360度評価のような制度も必要ですし、場合によっては生徒やその親から評価される仕組みもないといけないかもしれません。

つまり、業績評価制度の見直しもセットになってきます

そして、そういった紋切り型の評価制度が「教育現場」という特殊な場に果たしてふさわしいのか?も大きな問題です。その問題に解はないから、残業代も一律あげないほうが皆平和だ、と結びつけられたならどう返せるでしょうか。

管理職の行動力及び職員の法理解が前提

ここからは、「ならば何が必要か」を考えてみます。

まず、あらゆる課題を踏まえて労働管理を適正に行うためには、結局は上に立つ者の倫理観と、業務に対する理解、そして課題にきちんと向き合って、最終的には自分が全責任を負うという決意が前提条件になってきます。

それを担う者は、企業であれば社長や総務部長などになりますから明確ですが、学校だと校長?教育委員会?組織に無知で申し訳ないですがちょっと責任の所在が曖昧な気がします。もちろん大きな権限を持つ人でかつ責任を取れる人ないといけないし、それが中途半端なら暗礁に乗り上げてしまいます。

もちろん上の人間頼り一辺倒というわけにはいきません。「自主的な忖度残業」を減らすためには、労働関連法について職員が理解しないといけません。自分がやっていることは使用者にとって違法となる、という理解がないから、自分が文句なければ良いと勝手に残ったりしてしまい、他の関係のない人たちに「帰りづらい」「断りづらい」などの悪影響を及ぼすのです。

私もあと教育実習さえすれば教員免許を取得できるだけの単位を取りましたが、労働基準法について学んだ記憶はありません。教員に必要な知識として一般教養課程で大学で必修化すべきではないでしょうか。

働き方改革とは、時間外労働を減らすことではなく、密に働くこと。そのためには。

長々と書いてきましたが、結局、何に優先しても「働き方改革」を成さないと先に進めないという結論に至るのです。教育現場ではそれが一朝一夕にはいかないから、変形労働時間制云々の制度的な緩和を先に出してしまい、なんだか本質から逸れた見出しがたくさん立ってしまっている気がします。

だとすれば、教員の業務は溢れているらしいので、一部を外部委託するなり、それぞれを効率的にするための方法を考えて実践するなりしないといけません。これも民間企業の課題とまったく一緒なのです。

では企業はどうやって乗り切るべきとされているかというと、避けられない必要な業務に対しては、ICTを活用するしか今の所とっかかりがありません。事務作業の自動化がホットなトピックとなっています。
教員の中にもICTに明るく勉強している人はいるでしょうけど、「教育にどう活用するか」という取り組みが精一杯で、「教員の事務作業等」を効率的にするための解決策に対して自分以外の上も下も巻き込んで検討・展開する余裕は無いはずです。

ならば、企業が自社にIT人材の採用を急いでいるのと同様に、学校にもデジタルソリューションの担い手を定期的に常駐させ、現場業務を理解した上で、コツコツと改革の旗振りをしてもらうしか無いと思います。

パソコンなどの面倒を見てもらっている懇意のシステム会社に相談するのだけでは意味がありません。彼らは自分の商材しか提案しないし、それがベストなソリューションでなくても売上のためにゴリ押ししてきます。

そうでなく、あらゆる業務をシステム観点から棚卸して改善策を策定し、商材を比較して費用を見積もり、皆に提案した上で1次サポートも受け持てるような人材が、常駐していることが大事なのです。
PCにたまたま詳しい同僚の時間を割いてパソコン操作の教えを請うのは気がひけるでしょうけど、その専門家になら遠慮は要りません。

さすがに1校ずつ人を常駐させる人件費は捻出できないでしょうから、地域ごとなどで1名雇い、学校を順番に回ることにして、質問は随時電話やメールで受け付けられるようにしたら良いと思います。定期的にWEB会議などで学校を超えて情報共有・横展開したら効率的です。それだけでなくICT教育のための機材セッティングやメンテナンス、プログラミング教育の補佐員としても活用でき、そういった場面での先生の負荷も減らせるでしょう。

そこが出発点じゃないのかな、と思った次第です。

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