文章を味わう

僕は専門分野の学術書や専門書といった、難しい本ばかり読んでいると思われているようですが、そうばかりではありません。年齢や環境などによって、好むものは変わりますが、それなりに色々なものを読みます。

古典の名著などはよく岩波文庫を読みます。(あ、これは難しい本ですね。)旅の話や最近ではエッセイなども読むようになりました。小説などは若い頃はトム・クランシーのようなものが多かったのですが、最近は全く読まなくなり、代わりに日常のミステリーや日々の情景を描いたものを読むようになりました。
また、あるときから「もっと美しい日本語を使えるようになりたい」と思い、短歌を始めたことから(気の向いたときだけ、それほど熱心ではありませんが)、まれに歌集も読みます。

デザインの世界と関わるようになり、その分野も読みます。
また企業での教育に携わったり、以前とは異なる教壇に立ったことから、教育方法や指導方法の本も読みます。

僕は子供の頃から漫画を読む習慣がありませんでした。母が本は与えてくれましたが、主に伝記や児童文学などで、かこさとしさんの『科学者の目』は、僕の宝物でした。その頃は何となく天文学者に憧れていましたが、今考えれば、これも僕が学問研究の道に進むきっかけになったのかもしれません。
そんな僕ですが、実は最近では、旅の本を読んだことから、益田ミリさんの漫画も好きになりました。

正直に言うと、おすすめしない本や悪書だと思うものもありますから、全てとは言えないのですが、本を読んで無駄なことはありません。
本は知識や教養を身につけるだけではありません。自分になかった考え方や価値観に触れたり、心の豊かさを得ることができます。時には一冊の本が人生を変えることもあります。

僕は高校生の頃、英会話が得意だったので、当然英米科の大学への進学を考えていました。しかしある時、映画『摩天楼はバラ色に』というコメディのノベライズを読み、「俺も肩で風をきって、バリバリ働く人になる!」などと勘違いし(笑)、経営学部を選びました。
この話は大学の教員になった後、「さぞや立派な志が、、、」などと言われると、なかなかに恥ずかしいエピソードです。

こんな僕ですから、大学へ進学したあとは、サークルや学生の委員会、学生の団体の運営などに、積極的に携わりました。
真面目に勉強をしていないくせに、大前研一さんのビジネス書をかじり読みし、解ったつもりになっていましたが、今では僕の選択肢にはありません。

これまで、こうして自分の読書歴を振り返ったことはありませんでしたが、人生の転機や変化で、僕自身が驚くほど変わったことに気付かされます。


ところで、話はがらりと変わりますが、最近上橋菜穂子さん(個人的には先生とお呼びしたい)の、『明日は、いずこの空の下』というエッセイを読みました。
上橋菜穂子さんについて、僕が説明する必要はないでしょう。日本を代表する児童文学作家であり、文化人類学者です。
ある日書店で上橋さんの本が目に留まりました。そこに1冊、タイトルの趣が異なるこの本が目につきました。
皆さんご存知の通り、上橋さんのお話しは大作が多いですから、読むのにはそれなりに体力が要ります。このときの僕は、通勤中などに、さらっと読めるようなものを物色していました。
名古屋市内の、中心部まで市バスで30分弱で着ける場所に住んでいるので、切りの良いことろまで読みやすいものがよかったからです。
パラパラと捲ってみるとなかなか良さそうです。上橋さんのお話しの背景にもとても興味がありましたので読んでみることにしました。

早速読み始めると、一つ一つの話は短いのですが、面白くてすぐに内容に引き込まれます。僕が申し上げるのは失礼千万ですが、とても良い文章で読みやすいです。

ところで、僕がロジカルシンキングという講義を行っていることは何度も記しました。その内容は国語の授業の要素も、少なからず含んでいます。
これも以前記しましたが、僕があらゆる方にすすめる名著の1つに、『日本語練習帳』という本があります。この中で、日本語を学ぶには、学術論文などの優れた文章を読むことが推奨されています。
僕も論文を書きますし、著書もありますが、この文章を読んで下さっている方には申し訳ないのですが、とてもお手本などとは、、、上橋さんは研究者の大先輩ですから、文章自体も気になります。最初から句読点にも気を付けて読みました。

そのような意味からも、上橋さんの、この『明日は、いずこの空の下』は、国語の教科書として、とても良いと思います。

この本を、句読点や文法にも気を付けながら読むのですが、全く苦になりません。それどころか、そのようにして読んだ方が、むしろしっかり内容が頭に入るだけでなく、言葉の1つ1つがとても鮮やかになり、人物の心の動きが見えてきます。

このとき僕はこういうことが文章を味わうことなのだと、恥ずかしながら初めて知りました。

良い本に廻り合い、良い読書をすること、これを知らなかったことは、人生で損をしていたのだと思いました。

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