見出し画像

進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#19~さんふらわぁ僥倖旅(5)【札幌→北海道医療大学→札幌】

  思いもかけず北海道ワンデイ乗りつぶし旅となった2023年2月3日(金)、朝のニュースによると札幌の積雪は67センチに達しているが、JRは概ね平常運行予定とのことで、若干余裕を取り戻した私はホテルの目の前にある北海道大学構内を少し散策する。

 大学自体が観光地化している北大には観光客も多く訪れる。私も嘗ての夏の旅行でかなりの時間をかけて緑溢れる構内を歩いたが、今日は持ち時間が僅か20分なので、入口付近を徘徊するだけのまあ表敬訪問といった感じである。学生や教職員と思しき人たちがスタスタと歩いているが、中には凍結したアイスバーンで転んでいる人もいて、やはり今回の大雪は北海道にしてもかなり異例なのだなと思う。大学構内も札幌駅に向かう道も、人やクルマの通る部分だけは除雪されているが、両脇は押し寄せられた雪でとんでもない壁が形作られていた。

 札幌駅は昨年の北海道5日旅以来5か月ぶりの訪問である。前回食べ損ねた駅そばのチャンスであったが、うっかりホテルの無料朝食を食べてしまい満腹だったので、今回も見送りとなってしまった。どうも縁がないなと思いながら寒気に一層映える駅そば屋の湯気を札沼線ホームからぽつねんと眺める。
 その湯気を遮るように札沼線の列車が6両編成で入ってくる。ディーゼルではなく731系という比較的新しい電車で、前面にはこれでもかというくらいに雪がこびりついている。学園都市線という愛称の示すが如く多くの学生が乗り込み、私は近郊路線ぽいロングシートの端っこに腰を下ろした。
 雪の影響か3分遅れの8時57分に列車は札幌駅から西に進み始めた。すぐに桑園という函館本線との分岐駅に着く。ここから終点の北海道医療大学駅までの28.9キロが未乗区間である。

 札沼線という名称は札幌から留萌本線の石狩沼田駅までを結んでいたことに由来しているが、昭和47年に新十津川駅から石狩沼田駅までが廃止、令和2年には北海道医療大学駅から新十津川駅までの区間も廃止されてしまい、元々100キロ以上あった鉄路は今は30キロ足らずの短い盲腸線になってしまった。なので札沼線という線区名は全く実態に即していない訳だが、その形骸化した「沼」の方の石狩沼田駅さえも3年後になくなってしまう。そうなると極めて形式的とはいえ残っている札沼線の名称も完全消滅するのだろうかと思う。

 新琴似駅あたりの札幌郊外では家やクルマが雪に埋もれていても空は明るかったが、次第に新たに降り積もる雪の勢いが尋常ではなくなってくる。そしてあいの里教育大駅を過ぎて石狩川を渡る頃には、車窓からの風景は真っ白で何も見えなくなってしまった。
 終点の北海道医療大学駅到着は9時半過ぎで一時限目には遅すぎるためか、学生の姿も少なくなり、6両という長い編成の列車は次第に閑散としてくる。

 ほぼ何も見えないホワイトアウトの中を列車は走り、昨年開業したロイズタウン駅に着く。すぐ近くにあるロイズの工場と直売施設のために企業と地元当別町が交渉して駅の設置に漕ぎ着けたいわゆる請願駅というやつで、駅舎と関連施設の整備費用は全額ロイズと町が負担したとのこと。僅かな停車時間に眺めてみると雪景色の向こうにうっすらとロイズの看板が見えたが、乗降客は誰もいなかった。
 雪はますます激しく降ってくる。こんな中で外に出たら一体どうなるのかと思うが、並行する道路には普通に軽トラが走り、カッパを被ったお母さんが子どもを載せた自転車を走らせている。雪の降らない土地に生きている人間には全く想像しえない日常がここにはあるのだなと感じる。

 町役場もある街の中心地の当別駅を過ぎ、定刻から5分遅れの9時42分に列車は豪雪をかき分けて終点の北海道医療大学駅に着いた。6両編成が入れるようにホームは長いが、屋根は前2両分しかなく、後ろ4両分のホームは膝まで埋もれるほどの雪が積もっている。もちろん除雪はしているのだろうがさすがに追いつかないのだろう。
 「北海道」という文字の入った駅名は実はここだけなので、少しく気合を入れて駅名票を撮影し、誰もいない改札を出て外から駅舎を見てみる。駅舎は黒を基調としたまずまずスタイリッシュなデザインだが、雪景色とはどうもアンバランスだなと思った。
 大学の校舎はすぐ近くに見えるが駅前には何もない。無人駅なので駅員もいない。戻りの札幌行きに乗る乗客も私を含めて3人しかいない。ほぼ静寂に包まれたそんな終着駅の先にあるはずのエンドレールと新十津川方面に延びていたレールの痕跡を確認したかったが、全ては白い雪に支配されていて何も見えなかった。しかしとにかくこれで札沼線は完乗である。

 10分ほどの滞在を終え、往路と同じ車両で札幌に戻る。列車交換のため当別駅で7分停車している時に雪が一層激しくなったが、南下するに従って天気は回復した。青空も覗き始めた10時51分、駅そばの湯気とディーゼルの煙が立ち昇る札幌駅に私は再び舞い戻った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?