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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#5~北海道5日旅:1日目(3)【稚内→旭川】

 ここからはレンタカーで宗谷岬と宗谷丘陵をまわって、17時44分発の上り『宗谷』で旭川に戻る予定としている。なので時間には余裕があるのだが、レンタカー屋さんから「もう駅横のコンビニ駐車場で待ってますよ」というやんわりとした催促電話が入り、最北駅探索は早々に切り上げる羽目となった。まあ帰りにゆっくり写真を撮る時間はある。
 南稚内近くのレンタカー屋さんから一路宗谷岬に向かう。制限速度厳守の走行を心掛けるが、倍くらいの速度でどんどん抜かされていく。北海道は速度出し過ぎによる事故が多いと言われるがさもありなんという感である。
 稚内駅から30分ほどで宗谷岬に着く。綺麗に整備された公園の先に間宮林蔵の立像と「日本最北端の地」のモニュメントがあり、曇っていて視界はあまり良くないが、それでもうっすらとサハリンの地が見える。駐車場の反対側の丘は、平和の鐘、平和の花壇、旧海軍慰霊碑と望楼跡といったものが沢山あってさながら平和公園の様相を呈している。その中でもひときわ目を引くのは1983年にソ連に撃墜された大韓航空機事件の慰霊碑で、私は平和の鐘をひと撞きしてから慰霊碑に手を合わせた。

 宗谷丘陵の方にクルマを走らせる。天気が良くなって来たのも幸いして、得も言えぬ絶景が続く。青い海に青い空、緑豊かな丘陵と寝そべる牛たち、そびえ立つ天文台、ゆったりと回る風車、と息つく暇もない。極めつけは稚内名産ホタテの貝殻を砕いて敷き詰めた「白い道」で、嘘偽りなく本当に道が白いのである。そして下り傾斜ではその白い路面と青い海のコントラストが筆舌に尽くしがたい美しさで、私は思わず驚嘆の声を上げた。残念ながら鉄道ではこのような場所にくることは出来ないのが悔しい。
 壮大な景観の余韻を残しつつ、市内方面に戻り、駅を通りすぎてノシャップ岬に行く。こちらは申し訳ないが漁港のような感想しか湧いてこず、むしろ道中で見えた自衛隊の巨大レーダーの方に興味を惹かれた。

 定番観光地を廻った後は抜海駅を訪問した。堂々たる木造名駅舎で知られる抜海駅も廃駅予定にあげられたり期間限定の存続が決まったりと中々怪しい状況なので、何としても今のうちに行っておかねばならない。先ほど『宗谷』で通過してはいるが。
 太々とした字体の駅名看板と赤い木造柱が印象的な抜海の駅舎は、観光客で賑わう稚内駅よりも深い感銘を私に与えた。北海道らしい二重構造の玄関、くすみで貫禄たっぷりの木柱、半砂利で屋根のないホーム、こういう駅はずっと存続してほしいが、これもやはり余所者の感傷であろう。誰もいない駅舎とホームをウロウロしてシャッターを押しながら、次に来るときは「旧抜海駅舎」になっているんだろうなと思う。
 少し時間があったので、抜海のひとつ南の勇知駅にも行ってみる。貨車を駅舎利用するいわゆる「ダルマ駅」のひとつで、使い古した貨車が多いのだが、勇知駅は意外に綺麗なアルミの貨車であった。古ぼけている方を歓迎するという悪しき鉄道ファンの習性はいかんなと反省しつつ、配達車の中で休憩していた郵便局員の訝しげな視線を後に稚内駅への帰路についた。
 レンタカーを返却してから「稚内港北防波堤ドーム」というところまで送ってもらう。戦前にサハリン連絡船の発着港として建設されたものを整備保存しているのだが、巨大過ぎてとても向こう側までは行けない。代わりという訳でもないが近くに見えた「ホテルサハリン」の看板を撮って駅に戻った。
 
 旭川に戻る特急『宗谷』出発まで小一時間あるので、稚内名物の塩ラーメンを食べに行く。時間がうまく合わず、駅前の何でも食堂のような店に入ったのだが、待てど暮らせど注文の品が出てこない。どんどん発車時刻が迫ってくるし、駅舎やモニュメントの写真も撮りたいのだが、そんな子細な理由を公にして早く作れとは言えない。やきもきしながら長い時間待ってようやく出てきたラーメンは美味ではあったのだが強烈に熱い一品で、私の持ち時間は更に減少した。
 店を出た時は発車10分前で、大急ぎで駅前の最北端レールモニュメントや駅舎内の最北端看板を撮影した。既に入線している『宗谷』は往路とは異なるラベンダー編成というもので、その名のとおり鮮やかなラベンダー色に塗装されており非常に良い感じなのだが、列車を見ていたらたちまち発車ベルが響き渡り、私は文字通り列車に飛び乗った。

 どうにか車内に落ち着き、この編成にしかないラウンジでしばらく夕暮れの車窓を眺めていたが、つるべ落としであっという間に真っ暗になってしまった。最早ラウンジですることもないので指定席に戻ると睡魔に襲われ、旭川までの3時間余りはほぼレム睡眠と夜の闇にうっすらと見える駅舎たちの薄い記憶で終わった。
 旭川駅21時26分着。列車は札幌まで行くが私はここで降りた。昼に見たピカピカの駅舎は夜の照明で更に輝いているように見えた。低気圧が接近しているとのことで寒風が吹きさすむ中を徒歩15分のホテルまで歩き今日の旅は終わった。手には今日もコンビニ食材を持っている。

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