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それでも信じて待つ|東京都立第一商業高校学校改革プロジェクト【後編】

前後編でお届けする「都立第一商業高校三ヶ年プロジェクト」のあゆみ。
今年度で3年目を終え、4、5年目の協働に向けて動き始めていますが、その動きの中には青春基地としての変化もたくさんありました。前編ではプロジェクトの始まりと徐々に見え始めた嬉しい変化についてインターン生の声と共にお伝えしました。そして後編の今回は、協働していく中でみえてきた公立高校の課題、そしてそれらを目の前にし、私たち青春基地がどんなことを考えてきたのかをより深く伝えていきたいと思います。
>>前編はこちら

公立高校との長期的な関係性を築く中で、さまざまなコラボレーションを実現しながら、生徒自らが主体的に変化していく様子を実感することができたこの3年間。
この青春基地の授業は、決して私たち単体で動かしていたものではなく、公立高校の先生方との協働を経て、実現できたものです。後編では、そうした学校の先生方との協働から見えてきた「学校×NPO」の社会的意義について、引き続き、学生インターンの皆さんに伺いました!

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NPOが学校組織に参画する意義

この3年間にわたる授業は、青春基地だけで作り上げてきたものだけではなく、先生方と議論を重ねながら、学校×青春基地との二人三脚で実現したものです。そうした先生方との対話を通じて、既存の枠組みからの変化が生まれにくい学校組織の課題も見えてくるようになり、そこに対して、私たちNPOが学校に参画する意義を見出すようになりました。

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ますみ 学校変革が難しい大きな要因として、先生方の抱える”多忙感”があると考えています。他教科との兼ね合いもあり、先生たちは授業準備などのタスクに大忙しであることを、日々感じています。そうした余白がない環境下では、なかなか外部組織との接点を持ち、それを学校現場に取り入れていくことは困難であると思います。だからこそ、多様な繋がりを持つNPO等の外部団体が、多様なステークホルダーとの関係性を校内に持ち込んでいくことが大きな価値を持つと考えるようになりました。

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大根 公立高校の先生は、そうした多忙感に加え、各教科の専門性も相まって、一つの授業を複数の先生とつくる機会はほとんどなく、「自分一人で授業をやり遂げなければならない」という責任感を持っておられます。その授業づくりのスタイルが、先生間の連携や、外部組織との連携を難しくさせているのではないかと考えており、いかに学校組織に「他者との対話の場」を持ち込んでいくかについては、日々試行錯誤していました。

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まいまい 特に青春基地の授業づくりでは、そうした「対話の場」をとても大切にしているからこそ、先生方も積極的に巻き込んでいきたいと考えています。学生インターンをはじめとして、多くのメンバーが知恵を出し合い、意見交換しながら授業案を作ったり、授業後にはお互いへのフィードバックや振り返りを丁寧に行うことも、青春基地の授業運営の大切な過程の一つだからです。そうした場に先生方にも参加していただくために、例えば、毎回の授業後振り返りに、なるだけ参加いただくようお願いをしたり、数か月に一度、3時間程にもおよぶ先生方との対話型ワークショップを開催したりと、仕掛けづくりを行ってきました。

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「信じて待つ」から生まれる「想定外」

そうした仕掛けづくりを繰り返しながらも「学校と社会をつなげ、いかに学校を開かれた場所にするか」という問いを解くことは、そう簡単なことではありません。
NPOが学校に参画する価値を感じてきた一方で、忙しさゆえに余白のない学校組織の変革に対しては、なかなか思うように進まない難しさも感じています。

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しかし、NPOとして学校の扉を叩き、生徒自身の「共同探究者」としての変化を先生方や生徒に見せる。そのことによって、これから起きる変化を信じて待つことが、学校に変革をもたらしていくと私たちは信じています。

自分を、青春基地を、生徒を、先生を「信じて待つ」。それは今回のプロジェクトで関わる第一商業の生徒が教えてくれたことでもあります。こちらが不安をぐっとこらえて待っていると、生徒が自分から話してくれたり動き出したりします。相手のことを決めつけずにやりとりしていると、相手との関係性やお互いの考え方に変化が起き、色々なアイディアが生まれてくることもあります。

なにが生まれるかはまさに「想定外」。

そのためには、生徒たちだけではなく、学校の先生たち自身に、これまで経験したことのない授業を体験し、学校・家庭・地域社会のあらゆる場でモデルとなる実践や人物に出会う中で、「こんなことやってもいいのか」「クラスでやってみたい、私にもできそうだ」と感じていただくこと。そして、自身の授業実践を見つめ直し、変化を楽しんでいただくことが鍵となるはずだと考えています。他の教員や保護者から賛同を得られるのか、といったような不安ももちろんあるとは思いますが、目の前の生徒たちが仲間とともに生き生きと学んでいる姿が、何よりも改革への確信となることでしょう。一人の教師の授業改革が、他の教師の教育観や学校文化全体に大きなインパクトを与える可能性にも、私たちは期待しています。

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伴走してきた生徒たちへの願い

出会った頃高校1年生だった生徒たちは3年生になり、今年度末には卒業を迎えました。最後に、この2年間現場で生徒の学びに伴走してきたメンバーに生徒への願いを聞いてみました。

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だいこん  「この先、卒業してからも人生楽しそうじゃない?」って思ってもらえたら、それだけでよかったなと思います。
ますみ  人生における選択をする場面で自分で決めたり自分から行動したりしてほしい。私自身は親や先生のことばを鵜呑みにして進路選択をしていたので、自分で決めることが難しいことだとよくわかります。進路選択の場で「自分はこうしたい」と伝えられたら一番良いですが、一旦先生から勧められた道を選んだとしても、もう一度考えて自分から行動し、誰かに相談しようと思えたらいい。青春基地の活動を通してそんな相談できる人に出会えていたらいい。そんな一人に自分もなれたらいいな。

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そーちゃん  自分は何に興味あるのか一生問い続けてほしいです。今まで指示されたことに取り組む中で押さえつけられてきたことが多いと思うんですけど、それに負けずに、自由でいてほしい。自分は何に興味があって、何をして生きていきたいのか。興味はその時その時で変わります。興味のある方向に行動してほしい。興味こそが人生を彩るもの、楽しく生きられるものだと思います。
まいまい  どんな状態にあっても、やりたいことが浮かんでくる状態であってほしい。やりたいなと思った時に、まず諦めるのではなく、やってみようというマインドを持っていてくれたら嬉しいです。

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わこ  感じること、考えることは楽しいことなのだと忘れないでほしい。それが自分の力になるし、自分の人生を切り開くものになる。それから、物理的にも心理的にも一人じゃないってことを感じて生きていってほしい。PBLを届けていた山梨の生徒たちが高卒で就職して、この前その子たちと飲んだの。とても苦労しているなと思った。誰かに相談できたらいいな。誰かに頼ってほしいです。
あさは  学びって面白いなと思ってほしいです。プロジェクトの中で、取材相手を怒らせてしまった、大好きなスターバックスに取材に行けた、それらも大事な学び。それらが原体験になって、大人になったときすべてのことを楽しんだり面白がったりできるようになるんじゃないかなと思います。

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楽しみながら進むプロジェクトのこれから

前編、後編にわたり東京都立第一商業高校での3ケ年プロジェクトについてご紹介してきました。今年はいよいよ3年目。プロジェクトはまだまだ進んでいきます。
新型コロナウイルスの影響により、学校現場を取り巻く状況は劇的に変わりました。ピンチはチャンスと捉え、学校を取り巻く環境が刻々と変わっていく中で、どんなことに挑戦していけるかいまも模索する日々です。

また、3年間の歩みを振り返り、先生方が、ゆっくり考え対話する「余白の時間」を持つことが非常に大切であることを感じました。学校改革や日本の教育改革には先生方の力が必要不可欠ですが、この「余白の時間」は原動力を育むために重要なものだと考えています。
そこで、青春基地では、先生たち一人ひとりをサポートするための1on1コーチングプログラムを今年度より始動させ、現在既に取り組みがスタートしています。関わってきた先生方に対して、一人ずつ担当コーチの方についていただき、生徒たちだけでなく、先生自身にも焦点を当てながら、考える時間を大切にしていただきたい、と考えています。

生徒のことも、先生のことも、青春基地自身のことも信じて待つ。そして楽しみながら進む。そんな青春基地に今後もご注目ください。

まいまい  学校改革そのものが自分にとっての挑戦。まさか自分が教壇に立つなんてまさに想定外の未来を実現できるんだなと実感しています。
あさは  私が「やってみなよ」と声をかけた生徒が、緊張で手を震わせながら役場に電話していた姿が印象に残っています。生徒にかけた「やってみよう」が自分自身に返ってきているなといつも思います。自分ももっとアクションを起こしていきたいです。
いそ  青春基地の活動を聞いて「私もこんな授業をうけたかった!」という理由から、昨年の冬に学生インターンになりました。
教育について学んだこともなく、休校により学生にまだ会えてない現状には不安もありますが、この自粛期間も止まらずにできることから行っています。
青春基地発足時からある変わらぬ思いや活動で見つけた課題を吸収し、また自分の持つ視点で新たな発見ができるように、そして何より楽しんで学べるようにこれからも活動して行きたいです。

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編集:伊原礼佳(ayak.0727i@gmail.com)
編集サポート:照井将人(mterui0930@gmail.com)



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