頭でっかちな、人

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いつも君と

 夜の彼方から、君の声が聞こえたような気がして、僕は家を出た。  歩き慣れた、幼い頃から過ごした街だと思っていたけれど、夜に見せるその姿は昼間に見せるそれとはガラリと違っていた。明るく広がっていた青空は、空が開けているだけ、夜の暗さを近くに感じ、等間隔にポツポツと灯る街灯もどこか頼りなかった。  自宅からすぐ近くの坂を下って、この辺りではそこそこ大きな公園に入る。公園というよりも小さな山のようになっていて、坂道があって、上の階と下の階とになっている。坂の下には、塗装が剥がれ

    • 昔は良かったという後悔

      無意識のうちに、「昔は良かった」と思ったり、口にしたりすることが増えた。具体的に何に対してそう思ったのかは、いちいち詳細に覚えているわけではないし、よくある闇雲に「今」を嘆いて「昔」を過剰に賛美しているわけでもない。 「昔」と言っても、自分の年齢から考えれば、せいぜい20年前程度の「昔」であって、さらには自分の認識している「世界」が狭かった故の「良さ」を思い起こしているがほとんどのように思う。 時の流れとともに、環境はもちろん変化するし、自分自身も変わっていないようで、ゆっ

      • 一年

        一年が経った。 長かったか、短かったか問われれば、しばらく悩んでから、短かったと答えると思う。 大抵の場合、自分がその時間の流れの中にいるときには、その流れが早いか遅いかなんて意識していないように思う。過ぎ去った流れを改めて振り返ってみた時に、こんなにものスピードで時間が流れていたことに驚くのだ。 最初の頃は、いつも起こされていた時間、だいたい午前三時から四時頃に自然と目が覚めて、鳴き声が聞こえるような気がした時もあった。ただ、人間の順応性は残酷なことに、次第にその習慣を忘

        • どうしようもなく、新年

           12月31日、大晦日の夜。八畳のワンルームで私は眠れない夜を過ごしていた。  きっと、昼寝をしてしまったせいだ。  布団にくるまりながら、自分の昼間の行動を反省した。  大晦日の前日、12月30日の夜、久々に飲み会に行った。学生時代のサークルの同期で集まった。ここ数年は、誰かしらの都合がつかなかったり、訳のわからない感染症が流行ってしまったりで、集まることができないでいた。  久々に集まったこともあって、飲み会は午前2時近くまで続いた。  「またゴールデンウィークころに」

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        いつも君と

          クリスマスの約束

           十二月二十四日の深夜、それから日を跨いで十二月二十五日、つまり、クリスマスの日に、毎年テレビで放送される音楽番組がある。その番組は、一人の音楽アーティストが主催者で、友人や音楽仲間を集めて、トークをしたり、曲を披露したりするといったものだ。  僕は、この主催者のアーティストが特段好きというわけではなく、招かれるアーティストの中に好きなアーティストがいるというわけでもない。それでも、毎年この番組を見ている。  なぜ毎年この番組を見ているのか、もっと言えば、なぜ毎年楽しみにして

          クリスマスの約束

          またって

          「なんかさ、自分だけはいつまでも歳を取らないんじゃないかって思ってたことなかった?」  彼は唐揚げに伸ばしかけていた箸を引っ込めて、取り皿の上に置いた。  昔の私なら、行儀が悪いなと思って、何か小言の一つでも言ってやっていたのだけれど、すっかりそんなことは思わず、ただ彼の箸の軌道を眺めているだけだった。 「たとえばさ、そうだな、今俺は唐揚げを食べようと思って箸を伸ばしかけたんだけど、やっぱり食べれないなって思って引っ込めたのよ。学生時代なら全然食べれたはずなのに、さ」  そう

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