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”国際系” note まとめ

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This magazine curates notes relating to stuffs between globalness and localness.
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2023年3月の記事一覧

tofubeats書評『香川にモスクができるまで──在日ムスリム奮闘記』

作者の岡内大三氏と知人でもあるというKotetsu Shoichiroさんという香川在住の友人アーティストよりお薦めしていただいてこの本を手に取った。読後、こんなに人に優しくありたいと思えた本はひさびさである。  この本はフィカルさんという日本に移住してきたインドネシア人が、彼の住む香川県の地方都市にイスラム教の礼拝施設であるモスクをつくるまでを作者が取材した取材記だ。モスクについてもイスラム教についても詳しくはない自分でも非常に興味深く読めた1冊である。  地方都市でモスク

村岡崇光『聖書を原語で読んでみてはじめてわかること』(いのちのことば社、2019年)を読んで。

 聖書はヘブライ語とギリシア語で書かれているのだと多くの人は理解すると思う。聖書の世界に足を踏み入れるとどうもそれだけでないことがだんだんわかってくるであろう。聖書が多数の言語で重層的に書かれており、その翻訳の歴史と相応して真正な原文を確定しつつ意味を読み取っていくという途方もない作業に取り掛からなければならないことが見えてくると思う。そこまで分かったとしても聖書を原語で読むことの意味は何だろうかと思う人がいることと思う。訓詁学的な字義の詮索に終始するのではないか、と。本書『

新連載『サバキスタン』のお知らせ

新連載のお知らせです。 普段はこういう告知みたいなことはあまり書いたりしないのですが、今回はかなり特殊な事例なので最初に説明があったほうがいいかもしれないと思いまして、ここに書きます。 端的に言いますと、ロシアからとあるコミックが届きまして、その日本語翻訳をはじめることにしたのです。 ちょっとだけ紹介しますので、よかったらお付き合いください。 その作品の名は『Sobakistan(サバキスタン)』(露語表記『Собакистан』)といいます。 ロシア語で「Cобака」

クムク語、持ってるだけじゃもったいないでしょ

あれからもう、1年半… クムク語版『星の王子さま』。訳題は"Гиччинев пача"(あえてカナ書きするなら、「ギッチネウ・パチャ」くらいでしょうか)となります。紙の本にしておよそ100頁という限られた範囲の文量とはいえ、テュルク諸語の一つとしてクムク語に全く触れない手はないと以前から思っていました。で、先日からとりかかっているデータの電子化計画の一環で、クムク語も個人的に利用できるようにしようということで、先日のアゼルバイジャン語教科書作成の合間を縫って細々と作業をし

歴史総合入門(7)2つ目のしくみ : 戦争が変わり、社会や国際秩序が変わる

■国際秩序の転換と大衆化 20世紀の初めからは、2つ目の「しくみ」がうごきだします。 18世紀後半にイギリスではじまり、次第に世界中にひろがっていった「近代化」のしくみも、同時進行で存続しますが、ある3つの変化をきっかけに、2つ目のしくみ(国際秩序の転換と大衆化)が作動する、というイメージです。 ■変化① 総力戦 1つ目の変化は、総力戦という、第一次世界大戦(1914〜1918年)にはじまるまったく新しい戦争の形です。 どのような点が新しかったのでしょうか? そも

【第87回】アメリカの「メタ・ソフトパワー」とは何か?

プーチンを褒め称えるトランプ2022年2月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナ東部の領土を「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」という2国家として承認し、ロシア軍をその地域に派遣すると発表した。プーチンは、この軍隊派遣は親ロシア派住民を守るための「平和維持活動」だと宣言した。 その翌日22日、プーチンの発表を知ったアメリカ合衆国前大統領のドナルド・トランプは、「これは天才だ(This is genius)」と叫び、プーチンがその地域の「独立

新科目「歴史総合」入門(4)グローバル化

■3つ目のしくみ「グローバル化」 いよいよ最後、3つ目のしくみは「グローバル化」があらわれる20世紀半ばの時代をみていきましょう。 前回みたように、戦争が終わると、今度はアメリカとソ連の2つの世界に引き裂かれましたが、2度の世界大戦を通して縮小していた貿易や交流は、以前と比べれば回復に向かいます。 ソ連とアメリカは、それぞれの掲げるイデオロギーのもとで、世界をひとつにまとめようとします。 人々は、生活水準を高める憧れを抱き、どちらかの陣営に参加し、よりよい人生をおくる

新科目「歴史総合」入門(3)新しい国際秩序と大衆化

20世紀初め、1つ目のしくみである「近代化」に、さらに2つ目のしくみ「新しい国際秩序」と「大衆化」が加わります(注)。 この転換のきっかけとなった第一次世界大戦は、先ほどの帝国主義がエスカレートしたことにより起きた総力戦でした。 総力戦とは、国が国内のすべてのヒト、モノ、カネを動員しなければ勝つことのできなくなった、まったく新しい形の戦争のこと。 1つ目のしくみが持っていた「ひとつにまとめようとする力」がアップデートされ、人々が”自発的”に参加しようとする仕掛けが、いろ

新科目「歴史総合」入門(2)近代化と私たち

■近代化における「2つの力」 1つ目のしくみは「近代化」です。 18世紀後半の欧米諸国ではじまり、世界にひろがり、現代の私たちにも影響を与え続けています。 「近代化」のしくみにおいては、2種類の力が作動します。 ひとつは国が、さまざまなヒトやモノを「ひとつにまとめようとする力」、 そしてもうひとつは、自由主義、民主主義、国際主義のように、束縛から逃れ「自由になろうとする力」です。 日本では19世紀後半に明治維新がおき、”富国強兵” をスローガンとする改革がすすんで

新科目「歴史総合」入門(1)

■歴史総合ってどんな科目? 2021年、高校に新しい科目が加わりました。 「歴史総合」です。 日本史と世界史をあわせた科目。 日本史と世界史を同時に学ぶ科目。 世界史的な視野で日本史を学ぶ科目。 よくそんなふうに説明されますよね。 また、そもそも『学習指導要領』では、科目の目標がつぎのように説明されています。 ほかにも、資料を読み解き、比較やつながりなどに注目しながら「概念」を用いて考察、議論をしたり、課題を見つけ解決したりする、といったことが挙げられていますね。

島村菜津さんの新刊『世界中から人が押し寄せる小さな村~新時代の観光の哲学』より「まえがき」「目次」を公開します!

まえがき――増える廃村と空き家 イタリア半島は、島国である日本のほぼ五分の四の大きさだ。そこには現在、約七〇〇万戸(二〇一一年 国立統計局調べ)の空き家が存在しているという。さらに、中山間地に位置する五六七二の市町村に絞れば、空き家の数は、だいたい二〇〇万戸になるそうだ。そして完全に人が住まなくなってしまった廃村は、同年のフィレンツェ大学の調査によれば、一八四村だという。  一方、日本の空き家は、二〇一八年の総務省の調べによれば約八四六万戸で、空き家率は一三・六%と過去最

カフカをめぐるプラハ旅行記

2017年の秋にプラハへ旅行に行ってきました。まだ日本は暑く薄着のままでオランダ経由でチェコに行きました。航空会社はKLMです。 前の座席についているタッチパネル式のディスプレイがあまりにも高性能で驚きました。昔は壊れてる座席があって点かなかったり、音が出なかったりして、使えても映画を見たり、落ちゲーみたいな簡単なゲームしかなかったのに、今では世界各国の音楽やラジオが聴けて、スマホの充電ができるようにUSBポートがあって技術の進歩を感じましたねー。特にいつもは安い飛行機で移

小池陽慈著『現代評論キーワード講義』&『評論文読書案内』の使い方 【歴史総合編】

結論。小池先生の著作は、高校の地歴公民科の授業で使いやすい! ということで、わたしなりの紹介として、発売されたばかりの『現代評論キーワード講義』(三省堂、2023)に加え、『世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内』(晶文社、2022)を合わせて、使い所を整理してみました。ジグソー学習などのワークシート等で引用したりする際にも、便利であるとおもいます。 読むキーワード辞典というジャンルでいえば、今村仁司の『現代思想を読む辞典』がパッと浮かびます。受験生向けという点では、

鏡の国ブータンを覗き込めば|伊藤雅崇(読書カフェ「本で旅する Via」店主)

東ヒマラヤの山間に開かれたパロ空港。一本だけの小さな滑走路にブリティッシュ・エアロスペース機がうまい具合に到着し、パラパラと拍手と歓声が沸きました。旅の始まりの高揚感に機内が包まれているのを感じます。外は快晴。ターミナルへのブリッジなどというものはなく、タラップを降りて空港に降り立ちます。その瞬間、なんとも気持ちいい風が頬をなでて、たちまちブータンが好きになりました。 空の玄関口はパロ、首都はティンプー。破裂音の街の名を口に出すだけで、気が抜けていきます。 初めてのブータ