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世界史のまとめ × SDGs 目標②飢餓をゼロに:1979年~現在の世界

 SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
 17の目標の詳細はこちら。
 SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。

【1】飢餓の世界史をふりかえる

人間ってどのくらいのエネルギーを消費しているんでしょう?

ー大人の基礎代謝は、年齢や性別によっても異なるけど、だいたい1800kcal~2200kcal前後といわれている。

 これはチーターと同じくらいだという報告がある。

でも人間はチーターみたいに走ることはありませんよね?

ー体がカロリー消費する代わりに、大きくなった脳の情報処理にたくさんのカロリーが必要となったんだ。

 火をコントロールできるようになったことで、加熱料理によって効率よくカロリーを摂取することができるようになったことも重要だ。

    一般に「たんぱく質」は保存が難しい。
    しかし「たんぱく質を保存したい!」という願いから試行錯誤が続き、やがて発酵や塩漬け・乾燥といった方法で保存がきくようになる。
   



でも、自然にあるものを採るだけじゃ、不安定ですよね。

ー狩りや採集は環境や運にも左右される。
 それに何より一人が生きていくためには、とても広い土地が必要だ。しかも人間は「弓矢」の発明や火の使用によって、ほかの動物とは比べものにならないほど大量の動物を捕まえることが可能となった。
    そうなると当然獲物は減る。
    同じ場所にとどまることができないから、移動せざるを得ず、したがって集団の人口もなかなか増えていかない。

    そこで、場所によっては植物や動物を育てる技術も開発されるようになっていったわけだ(注:農耕・牧畜)。

 それにくらべ、植物や動物をコントロールすることができれば、必要なときに必要な食べ物を計画的にゲットすることが可能になる。
 自然にあるものを「取る」生活から、自然に手を加えて食べ物を「生み出す」生活への転換だ。

    保存がききやすい穀物(こくもつ)は、火を通して調理すれば糖質の優れた栄養源となりうる。
    さらにその周辺に、家畜や魚類または豆といったたんぱく質の栄養源を安定的に確保することで、栄養バランスを確保しようとしていった。
    農学者の佐藤洋一郎さんは、人類がいずれの地域においても糖質とたんぱく質とという2種類の栄養素を近い場所で確保しようとしてきた点に注目し、これに「糖質とたんぱく質の同所性」という面白い呼び名を付けているよ(佐藤洋一郎『食の人類史』中公新書、2016年)。


こうして、異なる栄養素の食べ物を計画的に育て、計画的に消費することができるようになったわけですね。

ーそう。
 その重要性に注目し、このインパクトのことを「農業革命」ともいうよ。

 ただ、農業は「環境破壊」のスタートでもある。

 その年の収穫のことばかり考えて環境に負荷をかけすぎると、塩害や連作障害によって収穫量は減ってしまう。

 また、食料の増大によって人口が増えれば、料理のための薪(たきぎ)や船・住居の木材のために森林伐採が進むおそれもある。


「長続き」するための抑制が求められそうですね。

ー突然の不作は、飢えを生む。

 飢えに備えて、アフリカ(サブサハラ)では伝統的に「ひとつの品種」にこだわらず、いろんな種類の植物を栽培する混作がおこなわれてきた。

伝統的な農業には生活の知恵が生きているんですね。

ーそれでも「飢え」は人類にとって長い間、未解決問題であり続けた。


解決するためにどんな工夫がされたんですか?

ーまず、「時間の謎」を解く人が、人々の指導者になったんだ。


「時間の謎」?

ーわれわれが生きているこの「時間」が、1年を通してどんなペースで進んでいくのか? 
 夏はいつ終わり、冬はいつやって来るのか?
 雨の降る季節はいつで、種まきのシーズンはいつか?

なるほど、カレンダーですね。

ーそう。農業はタイミングが命。
 カレンダーをつくるには天体を観測する必要がある。


 そのための高度な技術や知識を独占した聖職者が、農業がさかんになった地域では人々の尊敬と協力を集めるようになっていくんだ。


たしかにカレンダーがなければ、自分が今どんな状況になるのか把握するのってとてもむずかしいですよね。

ー聖職者は、目には見えないこの世の複雑な法則を、「ふしぎな力」や「神様」の意味を人々に「納得する形」で伝えることができた人たちだ。
 カレンダーも、ある意味そのひとつといえるね。


でも、聖職者って、力は強くなさそうですよね。

ーそうそう、聖職者のもとに集まった富は、武装した人々によって力で奪われることもしばしばだった。
 例えば、ユーラシア大陸では乾燥エリアの武装した遊牧民が、農耕エリアに侵入して乗っ取る例がたびたび見られたのだ。


 ただ仮に力ずくで征服したとしても、農業に関する知識や「この世の法則」の説明がなければ、みんなを安心させることはできないよね。

 そこで聖職者と武人たちは、各地でなんらかの「コラボレーション」を結ぶ例が多くみられた。

「飢え」の問題は解決されたんでしょうか?

ーなかなか解決できないね。

 これは世界の人口増加の推移をあらわした動画だけど、人口が劇的に増えるようになったのは、風力・人力や動物の力に代わる莫大なエネルギー(注:蒸気力)の利用が可能になった1760年以降のことだ。

 それ以前は、農業の生産をいくらアップさせようとしても、人口の増加に農業生産の増加が追いつかないというのが現実だった。


工夫はなされなかったんですか?

ー1000年頃になると気候が温暖化し、各地で農業技術のバージョンアップが進んでいったよ。

 モンゴルなどの遊牧民の活動が活発になると、それから逃れるために低湿地の開発も一段とすすんでいった(注:長江下流、オランダヴェネツィア)。

 一方、乾燥エリアでは、少ない水資源を貯めるための技術を発達させていった。
 また、土地がわずかなエリアでは、有効活用するための技術を発達させていった(注:メキシコのチナンパ農法下図))。


 しかしながら、戦争や天災により突如として飢餓が襲うことは、長らく当たり前のこと。


 そんな状況が改善されていくきっかけとなったのが、化学肥料農薬農業機械の登場だ。
 化学肥料をたっぷり土にまき、農薬をふんだんに撒布し、強力な機械で大規模に耕すという、いまふうの農業の誕生だ。
 狭い農場で丹精込めてチマチマ栽培するような農業とはわけが違う。

 この恩恵を受けて世界の食糧生産は劇的に増加していった。


これなら、「飢餓」の問題は解決ですね!

ーううん、大量に栽培された作物は「工業化されていない世界」から「工業化された世界」へと流れ、必ずしも食料を必要としている人のもとに届かなかったんだ。

 そして、先進国の中に2つの動きが現れるようになる。
 ①「自由な競争」を認め、お金もうけのための農業を進めていく動き
 ②「平等な分配」を目指し、土地をみんなのものにしようとする動き

 ①はアメリカ合衆国や西ヨーロッパ・日本などの先進国を中心に、②はロシアを中心とするソ連(1922年~1991年)で推進されていった。

どちらが成功したんですか?

ー②の動きは一時世界中に勢力をひろげたけど、結局行き詰まってしまう。食料を効率よく平等に分け合うしくみをつくることに失敗したからだ。

 それとは逆に、①の動きは1979年以降、全世界に広がっている。


* * *

【2】食料は十分だが、飢えはつづく

もうけをとるために食料を増産するわけですよね? 生産量が増えるなら、「飢え」の問題は解決されそうですが?

ーそうはいかないんだ。
 そもそも、①にしても②にしても、「工業化されていない国や地域」(もともと欧米・日本の植民地だったところがほとんど)から収穫物を巻き上げる世界規模の不平等なしくみが背景にある。

 例えば、先進国の大企業はビジネスのために、途上国から農産物を輸入する。

じゃあ途上国はもうかるんじゃないですか?

ーそれは、農産物の輸出ビジネスに関わっている人に限った話だよ。
 多くの人は、そういった大農園で安い賃金で働かざるを得ない。

 しかも途上国で栽培されていることが多いのは、カカオやサトウキビといった嗜好品(しこうひん)だ。
 そういった嗜好品の栽培を優先するために、本当にそこで育てるべき主食となる穀物が栽培できなくなってしまう。


「飢え」をなくすには、主食となる穀物の生産を増やすことが求められますね。

ーうん。
 化学肥料・農薬・機械・品種改良といった先進国の技術を途上国に移植して、農業生産のコストパフォーマンスを高めさせてあげようというプランも数多く実施されてきた。


しかし、単に技術だけを導入すれば、「飢え」が解消されるかというとそんなことはないんじゃないですか?

ーそうだよね。
 経済学者のジェフリー・サックス氏は、政府がちゃんとしているか、平等な考え方がひろまっているか、ビジネスのしやすい環境が整っているかなど、さまざまな観点からのチェックと調整が必要だと主張している。

 一方、大規模に資金を投入し、貧困から抜け出す「とっかかり」さえ用意してあげれば、どんな貧困でもなくすことができると主張するサックス氏や、実際に資金を調達しているIMFや世界銀行に対する批判もある。
 このへんについては、SDGsの目標8のところでみていこう。


さまざまな要因が複雑にからみあっているわけですね。

ー例えば品種改良をして、たくさん実のなる品種が導入されるようになったとしよう。

 これによって生産量が増加するのはいいけど、ともなって人口も増えるよね。そうしたら今度は人口問題が起きるかもしれない。

 人口が増えれば、それだけ食料の増産も必要だ。水資源問題が起きるおそれもある。また、都市化がすすめば都市の生活環境の悪化も心配だ。
 そうしたことが紛争や難民の発生につながり、食料不足をもたらすおそれが生まれる。

 さらに生産性をあげようとして化学肥料の使用を増やせば、温室効果ガスの排出にもつながる


なんだかいろいろと悪影響もありますね。

ー大規模に農業を展開すれば、そのあおりを食らうのは小規模な農民だ。小規模な農民は、その土地の環境に合わせて細々と農業をしていることが多い。
 苗や種、肥料を買うための元手に苦しむ農民も少なくない。


 でも、小規模だからといって、それが生産性を低くする原因になるというわけではない。
 適切な農業「技術」が普及していないことも大きな要因なのだ。


知識をサポートすることで、生産性アップにつなげようということですね。農業の生産性がアップすれば、「飢え」や「貧しさ」の問題を解決できるかもしれないですね。

ー同時に、小規模な農民たちが元手となる資金を借りやすいようにする公的なしくみも、ますます注目されるようになっている(注:グラミン銀行イスラム銀行)。

 伝統的な小規模農業では、改良品種ではなく在来作物が保存されていることも多く、その土地の生物多様性に貢献していることも多い。
 そんな強みを生かして、世界の貿易システムの悪影響をゆるめつつ、いかに生産性を上げ収入をにアップさせるかが課題となっている。




 しかし、そこに立ちはだかる壁もある。
 「工業化している国」を中心とする世界経済のしくみだ。

 最近では2007~2008年頃に、小麦の国際的な取引価格が急上昇し、途上国の多くで「穀物を求める暴動」が発生した。

 途上国の多くでは、まだまだ自分の国の穀物を安定して生産することができず、外国から輸入しているところが多い。

 日本のような先進国であれば輸入するのは簡単だけど、工業化が進んでおらず、「先進国」向け嗜好品の輸出に頼る途上国では、外国から穀物を輸入するのも一苦労だ。


そもそもどうして穀物価格が上昇してしまったんですか?

ー「穀物」が人間が主食として食べるためだけでなく、家畜のエサガソリンの代わりとして使われる量が増えるとの期待が高まったからだ。実際に量が増えているだけでなく、需給量の予測が「マネーゲーム」に利用されたことも価格高騰に拍車をかけた。

 価格高騰に加えて異常気象やバッタの害が重なり、東アフリカでは2011年に大規模な飢餓が発生してしまった。

国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は、食料高騰の仕組みは複雑だと指摘する。農家が食料生産からバイオ燃料生産へ切り替えたことだけが要因ではない。原油高騰は、食料生産コストや輸送費に影響を及ぼし、自然災害やオーストラリアの干ばつなどは、食料生産に打撃を与えた。FAOは、原油高の影響による輸送費の値上がりに加え、ドル安が食料価格に影響していると指摘している。(AFPBBニュースより)

 さらに東アフリカでは、ソマリアでの内戦の激化など、戦争による「飢え」の問題が深刻化している。


現在でも「飢え」の問題が解決されないなんて、よっぽど食料の分配がアンバランスになっているんですね。

ーそうだね。

 NPO法人ハンガー・フリー・ワールドは次のように説明する。

いま、世界の飢餓人口は8億2100万人。9人に1人が飢餓に苦しんでいます。 これは食べ物が足りないからではありません。なぜなら、毎年世界では、約25億トン(※1)の穀物が生産されていて、もしこれが世界に住む73億人に平等に分配されていれば、1人当たり年間340キログラム以上食べられることになります。日本人が実際に食べている穀物は、年間159キログラム(※2)。世界では穀物に加えて野菜などが生産されていますし、在庫があることを考えれば、すべての人たちが十分に食べられるだけの食べ物は生産されています
※1 国連食糧農業機関(FAO)(2015‐2016概算値/2016年)
※2 厚生労働省「国民健康・栄養調査(2013年)」

 日本をはじめとする先進国では、不必要なほど食べ物をお店に並べたり、消費期限までまだまだ日数があるのにお店から撤去する(注:日本の3分の1ルール)など、食品の廃棄の問題が深刻だ(注:フードロス)。


 フードロスを減らす取り組み(注:ドギーバッグエコフィード、堆肥化)も各方面で動き始めている。

「飢餓」の分野でも、やはり先進国の問題と途上国の問題を分けて考えてはいけないということですね。

そっちの問題と、こっちの問題は違うっていう二分法は通用しないわけだよね。
 先進国の中でも、経済格差を背景とした「栄養不足」の問題も取りざたされるようになっている。栄養不足といっても、痩せこけてしまうわけではなくて、運動不足や偏った栄養摂取によって「太ってしまう」人が増えているのだ

 アメリカのように、低所得者向けの食糧費補助をおこなっているところもある。


食料を安定的に生産し、地球すべての人々に公平に配分する方法は、先進国でも途上国でも、まだまだ解決されているとはいえないですね。

ー土壌を改良させたり、悪い土壌でも育つ作物の栽培促進もすすめられているし、昆虫やミドリムシや人工肉などの研究開発も期待されている。

 これまでの世界とは異なり、一部の地域の人間の自然との関わり方が、ほかのすべての地域の人の経済・社会・環境にただちに影響を及ぼすようになった現代ーすべての地域の人間が「飢餓」の問題を共通して抱えていることを理解する必要性が、ますます高まっている。 

 

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