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【まとめ】ディズニーの世界史 25選

2000年代後半から「第2次ディズニー・ルネサンス」ともいわれる商業的成功を収めているディズニーアニメーション。時代とともにテーマやキャラクターもグローバル化している。そんなディズニー映画と世界史との”接点”を紐解いていこう。


〔1〕ムーラン(2020年予定)・実写

◆ディズニー初の中国人プリンセス。北魏時代の中国舞台に

老病の父に代わり、娘の木蘭が男装して従軍、異民族を相手に各地を転戦し、自軍を勝利に導いて帰郷するというストーリー。異民族とは北方の遊牧騎馬民族の柔然(じゅうぜん)または突厥(とっくつ)のこと。南北朝時代の北魏(ほくぎ)が舞台とされ、後代の物語がモチーフとなっています。パリの「ムーランルージュ」とは無関係です。
1998年にアニメ化されたものの実写版(ディズニー初の中国人プリンセス)が放映される予定です。

ディズニーに限らずハリウッドでは中国市場を意識し、中国をモチーフとした作品も増えています。

※北魏(ほくぎ)というのは4~6世紀の中国に北方の遊牧民が移動してきて、中国の「皇帝」を名乗って建てた国。


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〔2〕アラジン Aladdin(2019年)・実写

◆ディズニー初のアラブ人プリンセス。マムルーク朝初代女王がモデル?

中世アラブ史の中町信孝氏によると、ジャスミンのモデルはマムルーク朝初代の女性君主シャジャル・アッドゥッルではないかとのこと。知らなかった。

マムルーク朝(1250~1517年)というのは、エジプトを都に栄えたイスラーム教徒の国。建国者が奴隷(=マムルーク。主人に仕える立場の人間)だったためその名がある。軍人の力が強く、途中で支配者がチェルケス人に交替。ペストの大流行が打撃となり、最後はオスマン帝国によって滅んだ。


魔法のランプから現れる「ジーニー」は、アラブ人の古い信仰の対象であった精霊や妖怪、魔人「ジン」のこと。『クルーアン』もその存在を否定していない、いわばグレーゾーン的存在です。



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〔3〕モアナと伝説の海(2016年)

◆ディズニー初のポリネシア人プリンセス。カヌーによる大拡散がモデル

ディズニー初のポリネシア人のプリンセス。
ポリネシア人とはニュージーランド、ハワイ、イースター島を結ぶ三角形の地域に分布する海洋民族です。

世界史的には「ポリネシア人の大移動」が物語のモチーフとなっています。

さて、このような南島語を話す人々は日本列島に留まらず、フィリピンやインドネシアから南下していった。その過程で彼らはしだいにカヌー、とくにアウトリガー式のカヌーを操る海洋民となっていったのだ。そして彼らはアジア大陸から主要な食料であるタロイモ、ヤムイモ、パンの木、バナナなどの作物、そして家畜として豚、犬、鶏を島々に持ち込んだ。タロイモは日本の里芋と同じ種類である。家畜は食用であり使役用ではなかった。
彼らはメラネシアの島々を一気に東進して、現在のフィジー、トンガ、サモアのトライアングルに到達した。トンガとサモアは現在、西ポリネシアとされる地域だ。しかし彼らはそこでこの旅をやめてしまう。持っていったラピタ式土器も次第に造られなくなってしまった。土器がなくなるということは、煮炊きができなくなるということだ。(…)
しかし、ここで留まっていた1000年ほどの期間は重要だった。アジアから来た人々が現在のポリネシア人へと変わっていったからだ。よく「ポリネシア人の故郷はどこか?」と尋ねられることがある。ポリネシア人が、ポリネシア人になったのはまさにここ、なのだ。
神話では、ハワイキという祖先の国からポリネシア人は来たと語られている。具体的にその場所を特定せよといわれたなら、まさにそれはこのトライアングルを指すのである。
しかし、いまから1500年ほど前に、彼らは再び動き出した。用いたのはダブルカヌー、すなわちカヌーを2隻並べて甲板(かんぱん)を張ったものだ。その上に小屋などを作って家族を乗せ、作物や家畜を積み、船団を組んで船出した。彼らはタヒチ付近の中央ポリネシアを基点にして、数千kmも離れたハワイ諸島、ラパヌイ(イースター島)あるいはアオテアロア(ニュージランド)にまで到達した。ときは平安時代の後半頃である。

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〔4〕 アナと雪の女王(2012年)

◆続編が公開予定のアナ雪。北欧の建築物がクローズアップされる

デンマークの作家アンデルセンの童話『雪の女王』からインスピレーションを得たこの作品は、舞台設定を雪と氷の世界としています。

モデルとなったとされるノルウェーのベルゲンは、中世ヨーロッパのドイツ人によるハンザ同盟の在外商館のあった場所でもあります。


お城のモチーフとなったのは、ノルウェーにある木造のスターヴ教会といわれています。



〔5〕塔の上のラプンツェル(2010年)

◆数多い「グリム童話」からのピックアップ。モデルはメルヘン街道に

19世紀のゴイツの言語学者であるグリム兄弟の童話がモチーフとなっています。
ドイツのメルヘン街道にある古城がラプンツェルの舞台のモデルとなったということです。


〔6〕プリンセスと魔法のキス(2009年)

◆ディズニー初のアフロ=アメリカンのプリンセス。舞台はアメリカ南部

ディズニー初のアフリカ系アメリカ人のプリンセス。ニューオーリンズのフレンチ・クオーターが舞台となっています。

本国アメリカでは、人種の描かれ方がしばしば話題となります。最近ではこのような論争も。


〔7〕『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年)・実写

◆時代は「大海賊時代」。カリブ海の時代背景を知って見ると更に面白い!

ジョニー・デップを迎え大ヒットとなった「カリブの海賊」シリーズ。

18世紀、カリブ海の港町ポート・ロイヤル。


イギリスは、先に拠点を築いていたスペインの支配を揺さぶるため、海賊たちに「スペイン船を襲う許可」(私掠免許状)を与えていました。
このとき大物となった海賊として、ヘンリー・モーガンやエドワード・ティーチがいます。

イギリス東インド会社は実際にはカリブ海には進出していませんが、映画内ではカリブ海でも大きなパワーを奮っています。

第2作「デッドマンズ・チェスト」(2006年)では、「フライング・ダッチマン」(さまよえるオランダ人)の伝説がクローズアップ。
「アフリカ大陸南端近くの喜望峰近海で、オランダ人船長が風(あるいは神)を罵って呪われた。船は幽霊船となり、船長はたった1人で永遠に(あるいは最後の審判の日まで)さまよい続けることとなった」という幽霊船伝説です。のちにリヒャルト・ワーグナーもオペラの題材(同名、1842年)としています。

なお、実在の海賊「黒ひげ」ことエドワード・ティーチも登場します。



第3作「ワールド・エンド」では、選ばれし9人の「伝説の海賊」の1人サオ・フェンという中国人が登場。清朝の時代の香港近海の海賊・張保仔(チョン・ポーチャイ)。がモデルとされます。


〔8〕リロ・アンド・スティッチ(2002年)

◆ディズニー初のハワイ人プリンセス。ハワイ島カウアイ島が舞台

ハワイのカウアイ島に住む少女リロが主人公。初のハワイ系のプリンセス。
テーマ曲「Aloha, E Komo Mai 」などずいにハワイ語が使用されています。

「He Mele No Lilo」という歌では、ハワイ王国最後の女王リリウオカラニと兄のカラカウアを讃える歌詞が見られます(IMDbより)。




なお、カウアイ島は、イギリス人の探検家ジェームズ・クックの初上陸地点です。



〔9〕アトランティス 失われた帝国(2001年)

古代ギリシアの哲学者プラトンが、著書の中で言及したアトランティス大陸。

またプラトンは、彼の時代の9000年前に古代アテナイ人とアトランティス人の間で繰り広げられた大戦争についても語っている。紀元前1400~1600年頃に大噴火によって滅びたティラ島(サントリーニ島)にヒントを得たとされているアトランティスの物語を、プラトンは強大な国々の傲慢さを皮肉った寓話(アレゴリー)として用いたのだ。



〔10〕ラマになった王様(2000年)

◆インカ帝国と直接関係はないので注意

ある南米のジャングル奥深くにある国の「クスコ」という若い王様が主人公。
クスコはインカ帝国の都ですが、設定自体はインカ帝国とは無関係。ですが作画はマチュピチュ遺跡によく似ています。ラマも南米の「ラマ」(リャマ)です。


〔11〕ヘラクレス(1997年)

◆ギリシア神話入門。ソフォクレス『オイディプス王』とのつながりも

ヘラクレスは言わずとしれた古代ギリシア神話の英雄。日本ではギリシア神話そのものと接する機会があまりありませんので、ギリシア神話入門としても良いのではないでしょうか。
なお、原題のHerculesはラテン語(ローマ名)。ギリシア語ではHeraculesです。


〔12〕ノートルダムの鐘(1996年)

◆ディズニー初のジプシーを主人公に据えた意欲作

2019年に火災で全焼したパリの大聖堂が舞台。19世紀フランスの国民的作家ヴィクトル・ユーゴーの作品が元になっています。

初のロマ(ジプシー)がプリンセスとなった作品。
舞台は15世紀のパリ。ジプシー狩りを行う最高裁判事のフロローがヴィラン(悪役)です。彼は逃亡したジプシーの女性を殺害し、その赤ん坊をも殺そうとしますが、ノートルダム大聖堂の司祭に咎められ、赤ん坊は一命をとりとめ、「カジモド」という名で養育されます。20年が経ち、成長したカジモドはノートルダム大聖堂の鐘衝き男に。しかし依然としてジプシーに対する風当たりは強く...。


〔13〕ポカホンタス(1995年)

◆ディズニー初のネイティブ・アメリカンのプリンセス。内容には物議も

ディズニー初であるネイティブ・アメリカンのプリンセス。
舞台は17世紀初頭のアメリカ。インディアンのポウハタン族の娘であるポカホンタスが、イングランド人入植者ジョン・スミスと愛を育むものの、ポウハタン族とイングランドとの対立は深まり...。

いつしかポカホンタスは、対立するイングランドとポウハタン族の間の”友好のシンボル”とされていきました。

しかし史実を巡っては批判もあり、上映当初の映画館前ではアメリカインディアン運動(AIM)がデモ行進を行うなどの混乱も。


〔14〕三銃士(1993年)・実写

◆ルイ13世に仕えた宰相リシュリューが悪役! ユグノーとの対立軸も

ルイ13世時代のフランス王国が舞台。フランスの片田舎ガスコーニュ出身の立身出世を夢見る若者ダルタニャンが銃士になるべく都会パリに出てきて、銃士隊で有名なアトス・ポルトス・アラミスの三銃士(ダルタニャンが銃士になるのは後の話)と協力しながら、次々と迫りくる困難を解決していく物語。

ダルタニャンは実在しますし、ルイ13世がフランス国内の新教徒の拠点を鎮圧しようとした戦い(ラ・ロシェルの包囲戦)。も作中に登場します。


〔15〕美女と野獣(1991年)

◆中世の巡礼路サンチャゴ・デ・コンポステラ周辺の村がモデルに

フランスの民話が元となっています。2017年には実写版も公開されました。

実写版のモデルとなったのは世界遺産に登録されたサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路の1つである、南仏のコンクという村だそうです。


〔16〕ロビン・フッド(1973年)

◆リチャード1世が十字軍に出かけている間の、ジョン王子が悪役

中世イングランドの伝説「ロビン・フッド」のアニメ化。

物語は吟遊詩人によって歌われますが、ロビン・フッドという実在の人物がいたわけではありません。誰かモデルとなる人物がいたのでしょう。

その描かれ方は長い時間をかけて変わってきていて、19世紀になると「弓の名手で、イギリスのノッティンガムのシャーウッドの森に住むアウトロー集団の首領で義賊」という現代のイメージが出来上がります。

ディズニー映画でも、リチャード1世(王のリチャード)が第三回十字軍遠征に赴いている間にジョン王子(プリンス・ジョン、のちのジョン王)の暴政に反抗した人物として描かれています。



〔17〕メリー・ポピンズ(1964年)・実写/アニメ

◆女性参政権、銀行家など、ヴィクトリア時代のイギリスを映し出す

1910年。ロンドンの桜通りに住むジョージ・バンクス氏は、厳格で気難しい銀行家。「世界の銀行」の位置を占めたロンドン・シティを象徴する役どころです。妻のウィニフレッドも女性参政権運動に夢中で、子供は全てナニー(乳母、教育係)任せでした。


当時のイギリスでは父・母・子によって構成される「小さな家族」が普通ではなく、当時イギリスの富裕な家庭には家事使用人や住み込みの家庭教師(ガヴァネス)が多く雇用されるようになっていました。こういった形での雇用は、雇う側にとっても雇われる側にとってもステータスでした。


さて、 二人の子供である、姉のジェーンと弟のマイケルは悪戯好きで、ナニーがすぐに辞めてしまっていました。
そこに現れたのが、メリー・ポピンズ。不思議な力で子どもたちの心を惹きつけていきます。

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女性参政権運動といえば、パンクハースト夫人(上の写真右)の主導した女性社会政治連合が有名。他の運動と合わせ「サフラジェット」呼ばれました。お母さんのウィニフレッドも登場シーンで「古い鎖を断ち切って」という歌を歌っています。実際に女性に参政権が与えられたのは、第一次世界大戦後のことでした。

劇中には煙突掃除の歌が歌われます。
これは労働歌ですね。
石炭時代に、煙突掃除は必須だったのです。

なお、2019年に実写化された「メリー・ポピンズ・リターンズ」では、娘のジェーンが労働組合の活動に参加しているという設定になっています。


〔18〕眠れる森の美女(1959年)

王子がキスをすることで姫が目覚めるというストーリーで有名。グリム童話に採録された『いばら姫』がモチーフです。

フランスの民話が由来で、後述するようにディズニーの来歴との間に”接点”があります。


〔19〕海底二万哩(1954年)・実写

フランスのジュール・ヴェルヌのSF小説『海底二万里』をウォルト・ディズニーが映画化した作品。舞台は1868年。潜水艦ノーチラス号は実際に製作された潜水艦にちなみます。

19世紀後半は、電気やエネルギーの分野で技術革新が進み、みなが「輝く科学の新世紀」を夢見た時代でした。
それは文学の世界にも影響し、自然主義文学やSF文学の流行につながっていったのです。
SF作家としては、ほかにイギリスのH・G・ウェルズが有名です。



〔20〕ふしぎの国のアリス(1951年)

イギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンがルイス・キャロルの筆名で書いた児童小説がモチーフ。1865年刊。


ハートの女王はヴィクトリア女王がモデルではないかという指摘もあります。

2010年には冒険から13年後という設定で「アリス・イン・ワンダーランド」として実写化。舞台はヴィクトリア朝時代のイングランド。父チャールズ・キングスレーはアジアへの貿易展開を夢見るものの亡くなった人物として描かれています。

ヴィクトリア女王(在位1837~1901年)はイギリスが世界中に植民地を拡大した黄金時代(=パクス・ブリタニカ)である19世紀後半、長期間に渡って君臨した女王様。この時期のイギリスはヴィクトリア時代ともいわれ、中流階級が背伸びして貴族の文化をマネし、保守的な文化がリスペクトされた。


〔21〕シンデレラ(1950年)

言わずとしれたシンデレラストーリー。グリム童話などに収められた民話(『灰かぶり姫』)がモデルとなっています。

今や世界各地の「ディズニーランド」の中心にそびえ立つ「シンデレラ城」が、ドイツ南部バイエルン公国の「ノイシュヴァンシュタイン城」がモデルとなっていることは知れ渡り、一大観光地となっています。


〔22〕三人の騎士(1944年)・ラテン・アメリカの旅(1942年)

『ラテン・アメリカの旅』はディズニーのスタッフが南米に渡り、その風俗をスケッチする実写パートと、そのスケッチから生まれる4つのアニメパートからなります。


『三人の騎士』は前作『ラテン・アメリカの旅』においてウォルト・ディズニーが旅したラテンアメリカでの経験をもとに制作されたオムニバス作品。

挿入歌の「Jesusita En Chihuahua」は、メキシコ革命を象徴する曲

なぜアニメーターたちがラテンアメリカへと旅することになったかというと、ピノキオやファンタジアがヒットしなかったせいで借金がふくらんでいたことに加え、1942年にハリウッドにあったスタジオが、政府の圧力で「プロパガンダ映画」の製作に集中するようになっていったからです。


〔23〕ファンタジア(1940年)

オーケストラによるクラシック音楽をバックとした、アニメーションによる8編の物語集。ソ連からアメリカに亡命したストラヴィンスキーの「春の祭典」を含むクラシック音楽が使用されています。



〔24〕ピノキオ(1940年)

◆イタリアの国民的童話を元にアニメ化

イタリアの作家・カルロ・コッローディの児童文学作品『ピノッキオの冒険』(1883年)がモチーフとなっています。

1861年に成立したイタリア王国で、「イタリア語」が普及することに貢献した作品で、原作を読むとアニメのイメージとはかなり違うことに気づくはずです。彼の故郷にはピノキオ公園があります。



〔25〕白雪姫(1937年)

◆モデルとなったお城はスペインのセゴビアにあるそう

ドイツのグリム童話に採録された作品です。

モデルとなったとされるお城「アルカサル」は、スペインのセゴビアにあるということです。

ローマ時代の「セゴビア水道橋」で知られるところですね。


〔番外〕ディズニーのご先祖はノルマン人

なお、ディズニーの遠いご先祖は、フランスのノルマンディー地方の町(イシニー・シュル・メール)に住んでいたノルマン人。1066年にあのノルマン=コンクェストでイギリスに渡ったノルマンディー公ウィリアムにより「Lords of Isigny」の称号を授けられます。その系譜を引き継ぐ人々の一部がアイルランドに渡り、時代は下ってアメリカに移住したのがディズニーのご先祖だそうです。
確かに、「眠れる森の美女」や「シンデレラ」など、初期のアニメ作品にはフランス由来の童話が多く用いられていますね。∎


このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊