続・時代劇レヴュー㊻:新選組始末記(1977年)他

タイトル:新選組始末記

放送時期:1977年4月~9月(全二十六回)

放送局など:TBS

主演(役名):平幹二朗(近藤勇)・古谷一行(土方歳三)・

       草刈正雄(沖田総司)

原作:子母澤寛

脚本:童門冬二


『新選組始末記』は文字通り新選組の成立から最後までを描いた史伝的小説で、膨大な資料や関係者への聞き取りなどをベースにしていることから、後の新選組を題材にした創作に大きな影響を与えた作品であり、また子母澤寛の代表作の一つでもある。

ただし、あくまでも歴史小説であるために作中には子母澤の創作も多いが、記録文学や史伝のような文体で書かれているため、あたかも史実であるかのような誤解を後世に与えた記述もある(例えば、浅田次郎の小説『壬生義士伝』の主人公・吉村貫一郎の人物像は、『新選組始末記』に基づいているが、『始末記』の吉村像は子母澤の創作であり、史実の吉村の年齢や経歴とは全く異なるものになっている)。

新選組を題材にした文学作品の代表作であるこの『始末記』は、度々映画化やテレビドラマ化されており、このうちテレビドラマではともにTBSが制作した1961年版と1977年版が比較的良く知られている。

1961年版は、近藤勇を中村竹弥、土方歳三を戸浦六宏、沖田総司を明智十三郎が演じているが、何分古い作品であるため現在では視聴が難しい(この作品は、当時かなり好評を博したようで、私の両親の世代くらいだと新選組と言うとこの作品がまず思い浮かぶらしい)。

これに対して、1977年版は完全に映像が残っており、CS放送や動画配信サービスなどを通じて視聴が容易な作品である(私自身は動画配信サイト「Paravi」で視聴)。

本作は原作を同じくする1961年版と共通するスタッフやキャストが関わっており(演出の山本和夫やナレーターの芥川隆行は1961年版とも共通)、また後に『小説・上杉鷹山』などで知られることになる歴史作家の童門冬二が全話の脚本を担当している。

配役のクレジットはまずOP映像で近藤・土方・沖田の三者が表示され、それ以外のキャストはEDで流れること、また実際のドラマ内での役どころからしれても近藤・土方・沖田の三人が主人公と言う扱いである(この点は、後述する1987年テレビ朝日版の「新選組」や、「時代劇レヴュー⑱」で取り上げた1998年テレビ朝日版の「新選組血風録」とも共通する)。

物語は後に新選組となる浪士達が上洛する所から始まり、近藤の処刑、沖田の病死を経て、会津戦争で敗れた土方が榎本武揚の艦隊と合流して蝦夷地へ向かう場面で終わる。

近藤・土方・沖田の三人が主人公であるため、この三人が別れ別れになった所で物語は事実上終わっており、鳥羽伏見の戦いで敗れた新選組が江戸に戻って以降はかなり駆け足で進む。

それでも、三人の死をエピローグ的に挿入するのではなく、近藤の処刑に至るまでの経緯や、沖田が病死する場面などはかなり時間をかけて描かれており、その点ではこの手の新選組を扱ったドラマとしては珍しいだろうか(近藤の処刑は最終回一話前の第二十五回で描かれ、最終回となる第二十六回は沖田の死のエピソードがメインである)。

一方で、この三人以外の隊士については、永倉新八・原田左之助・藤堂平助・山南敬助くらしかコンスタントに登場する隊士がおらず(山崎丞も前半はそれなりに登場しているが、池田屋事件以降はフェードアウトしてその死についても描かれない)、むしろ佐々木愛次郎・松原忠司・河合耆三郎と言ったエピソードごとに特定の隊士にスポットが当たる形式である。

新選組以外の人物についてもレギュラー的に複数の回に登場するのは、近藤の理解者である老中の板倉勝静、壬生の屯所・八木邸の主である八木源之丞夫妻、会津藩の公用人・田中土佐(史実では家老)、近藤の愛人である深雪太夫(本作では深雪太夫の本名が「お孝」となっているが、史実ではお孝は深雪太夫の妹で、姉の没後に近藤の愛人になっている)くらいで、例えば長州藩や薩摩藩など倒幕派の主要人物はほとんど登場せず、あくまでも新選組にスポットを当てることに徹している感がある(他にほぼすべてのエピソードに登場する人物としては、架空の人物ではあるが沖田と恋仲になる「すみ」と言う女性がおり、若かりし頃の竹下景子が演じている)。

全体としては新選組の顛末を描いた一続きの物語であるが、特に序盤から中盤にかけては一話完結的なエピソードが続き、毎回の終わり方の演出がなかなか効果的に作られており、エピローグ的なシーンを挿入せずに、その回にスポットが当たる人物の死の場面(山南の切腹や河合耆三郎の斬首など)の後ですぐにテーマ音楽が流れ、芥川隆行のナレーションをバックにEDクレジットが流れると言う構成になっている。

これによって、救いのないエピソードや終盤の悲劇的な展開を、さらに見る側に印象づけている感があってうまい演出だと思う。

場面によってはドキュメンタリータッチになっているものの、史実との相違はそれなりに多いが(例えば隊の新編成がなされた際に四番組長となった松原忠司が、本作ではそれ以前のかなり序盤の段階で死去していることや、西本願寺に移転する構想については作中で語られるものの、結局屯所が最後まで移転せず壬生村にあることなど)、とは言え物語自体がよく出来ているために、そうした点はあまり気にならなかった。


キャストについては、本作では近藤は度量の大きい人格者として描かれており、演じる平幹二朗はそうした近藤像によくはまっている。

序盤では厳しさや冷徹さが目立つものの、後半になっていくにつれて不器用ながら情に熱い所も見せる土方は、古谷一行が演じており、この土方のキャラクタに古谷のイメージがよくはまっていて非常に魅力的な土方像になっている。

はまり役の近藤・土方に対し、若き日の草刈正雄が演じる沖田は個人的には今ひとつで、何か悪い所があるわけではないのだが、私自身の中の沖田像と草刈のキャラクタがうまく結びつかず、今ひとつしっくりこなかった(なお、本作の沖田は珍しく月代を剃っていない髪型である)。

1961年版で土方を演じた戸浦六宏が、本作では土方に粛清される策略家の伊東甲子太郎を演じているのは、狙ったキャスティングであろうか。

原田役の新田昌玄、永倉役の夏八木勲もともにそれなりにはまっていたが、個人的には山南敬助を演じた高橋長英が非常に印象的で、自分の理想から次第に乖離していく新選組の姿に苦悩し、ついには悲劇的な破局を迎えるまでの山南の姿をうまく表現しており、過去に山南を演じた俳優の中でも一、二を争うはまり役であったと思う。

他にも、佐々木愛次郎(演・志垣太郎)を陥れる狡猾な隊士・佐伯亦三郎を、ブレイク前の風間杜夫が演じており、今見ると面白い。


本作と同じ『新選組始末記』を原作としたドラマには、他に1987年の年末にテレビ朝日が二夜連続で放送した大型時代劇「新選組」がある。

この作品は上洛から禁門の変までを描いたものであり、前半は芹澤鴨の暗殺事件、後半は池田屋事件が物語の中心になっている。

配役クレジットでは近藤勇役の松方弘樹がトップに挙がっているが、実質的には東山紀之演じる沖田総司が主人公格であり、主要キャストの扱いながら土方歳三(演・竹脇無我)の出演シーンはそれほど多くないのが特徴である。

内容的にはよく言えばオーソドックス、悪く言えば取り立て特徴のない物語で、全体的に印象の薄い作品であるが、新選組の映像作品では大抵新選組の理解者として描かれている会津藩主の松平容保が、自藩の手を汚さずに不逞浪士を排除する「使い捨て軍団」として新選組を見ていると言う、ちょっとイメージの悪い描かれ方をしている点のみは、他にはない本作の特徴であろうか(松平容保役は、時代劇では悪役を演じることの多い松橋登)。


話ついでにもう一つ、ちょっと変わった新選組の映像化作品を紹介すると、2006年の2月から3月にかけて、計二本リリースされたオリジナルビデオ時代劇に「実録 新選組」と言う作品がある(二本目には「完結編」と言う文言が足されている)。

平たく言えばVシネマ版新選組で、出演陣も時代劇と言うよりはVシネマの任侠作品に登場しそうな面々ばかりを揃えており、タイトルに「実録」とつくのもそれを意識したものであり、また新選組の内部抗争・粛清に割合スポットが当たっており、その点もVシネマでよくあるヤクザの抗争を意識したものであろう。

一見ケレン味満載な感じであるが、内容自体はそれなりにきちんと作っている印象で、個人的には嫌いではない。

物語は芹沢鴨の暗殺から油小路の決闘までで、最後にナレーションベースで主な隊士達の「その後」を紹介すると言う、この手の新選組を題材にしたドラマではよくやる手法である。

キャストで印象的なのは土方歳三を演じる寺島進で、実際の土方とは風貌はミスマッチなれど(現存している土方歳三の写真を見ると、面差しは役者みたいな美男子である)、キャラクタとしては結構はまっていて格好良い土方に仕上がっている。

大沢樹生演じる沖田総司は、シリアルキラーみたいな感じのキャラクタになっており、新選組をメインにした作品では珍しい設定であろうか。

大沢樹生はこのキャラにはまっていたが、とは言えアイドル時代ならともかく、2006年3月当時の彼(満年齢で三十六歳)が沖田を演じるのはいささかきついと感じた(笑)。

石橋保の斎藤一と金山一彦の永倉新八も意外とはまっており、特に金山は穏健派だけどちょっと優柔不断な雰囲気がよく合っている。

逆にミスキャストだったと思うのが遠藤憲一演じるの松平容保で、灰汁の強い容保と言うのは、前述の松橋登の先例があるが、どうも遠藤憲一は殿様と言う感じの風貌ではない。

小沢和義が演じる藤堂平助は、史実に反して人を斬るのが嫌いで、剣術は苦手で学問好きと言うキャラクタなのであるが、沖田や斎藤とコントラストのキャラになっていて物語的には良かったと思う。

後、原田龍二がちょい役で出ているが、これは実弟の本宮泰風が原田左之助を演じているので「友情出演」的な扱いなのであろう。

キャストでもう一人面白かったのが、芹沢鴨を演じる白龍で、彼の持つ独特の味が発揮されていて、凶暴なのだけれどもどこか憎めないと言う芹沢を好演していて、これもなかなかはまっていた(ただ、芹沢が近藤を呼ぶ時に「コンちゃん」と言わせているのは、いささか遊び過ぎか)。

ストーリー・キャストともにそれなりに楽しめるが、所々で変な間違いが多く、特にテロップで「副長助勤」を「助謹」と表記していたり、「武田観柳斎」を「観柳斉」としていたり、またナレーションで流山を下総ではなく「甲州流山」と言っていたり、「徳川家茂」を「いえしげ」と読んでいたり、単純なミスが目立ったのが惜しまれる。


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