続・時代劇レヴュー㉖:長七郎江戸日記(1983年~1991年)

タイトル:長七郎江戸日記

放送時期:1983年10月~1991年9月(全三シリーズ、全二百三十三回)

放送局など:日本テレビ

主演(役名):里見浩太朗(松平長七郎長頼)

原作:村上元三

脚本:小川英、胡桃哲、尾西兼一、鈴木生朗、名倉勲、中野顕彰、

   和久田正明、蔵元三四郎、杉山義法ほか


このカテゴリで紹介する作品は、大河ドラマのような史実をベースにした作品が圧倒的多いが、「水戸黄門」や「遠山の金さん」のような勧善懲悪の娯楽時代劇も私は大好きである。

今回紹介するのはそうした勧善懲悪の時代劇であり、里見浩太朗の当たり役で、テレビ時代劇における彼の代表作の一つとも言える「長七郎江戸日記」シリーズである。

本作は1983年から1991年まで、休止をはさみながら三シリーズにわたって実に二百話を超える作品が放送された人気作で、三代将軍家光の甥にして、駿河大納言忠長の遺児・松平長七郎長頼が難事件を解決する痛快娯楽時代劇である。

原作は村上元三の「松平長七郎」シリーズであるが、原作のエピソードはほぼ第一シリーズの序盤で消化してしまったため、大半のエピソードがオリジナルであり、かつ村上の原作に登場する人物の一部を使用している以外は、設定も長七郎のキャラクタも大きく異なっており、実質的には全く別の物語と言って良い(なお、本作に先行する作品で、同じ里見浩太朗主演で、同じ松平長七郎を主人公としたテレビ朝日の連続時代劇「長七郎天下ご免!」があるが、物語や設定上の関連は全くない)。

主人公の松平長七郎は、講談の中の人物で実在はしていないが、本作では家光が大名に取り立てようとするも、父を政争で失い、権力から距離を置こうとする長七郎はそれを断って野に下り、江戸市中で浪人「速水長三郎」と名乗って暮らしていると言う設定で(原作では、母方の実家である織田家の庇護下にある)、ひとたび権力を笠に着た悪人が庶民を苦しめるのを知ると、葵の御紋のついた派手な着流しで屋敷に推参し、身分を明かして悪人を成敗する。

こうした物語の筋立て自体はありがちなものであるが、1980年代から90年代にかけて、テレビ時代劇が元気が良かった頃の作品らしくエピソード自体は非常に面白くて安定感があり、火野正平を始めとする個性的な脇役の活躍もあってドラマとしての見どころも多い作品である。

この手のテレビ時代劇よろしく、考証と言う面では甚だいい加減であり、三代将軍家光~家綱の頃が舞台なのであるが、描かれている風俗は明らかに江戸後期のもので、火盗改めや勘定吟味役と言った当時にはなかった役職を帯びた悪人も登場したり、後述する由比正雪のような実在の人物も多数登場するが、多くは史実とは異なる設定・末路で描かれるなど、所謂「ツッコミどころ」も多いものの、そう言うことは気にせずに楽しめる作りになっている。

個人的に思う本作の魅力は、やはり何と言っても長七郎の無類の格好良さで、超人的な能力を備えていることがお約束の時代劇の主人公の中でも、演じる里見浩太朗の影響もあって、屈指の魅力的なキャラクタであると思う。

また、終盤で入るこれまた時代劇のお約束である派手な殺陣も、ほとんどカットを入れない里見の見事な二刀流が堪能出来(二刀流は里見自身が工夫したものだと言い、立ち回りを舞踊に擬える発言を度々している里見だけに、その殺陣は非常に優美でもある)、「俺の名前は引導代わりだ。迷わず地獄に堕ちるが良い!」と言う長七郎の特徴的な決め台詞と相まって視聴後の爽快感も強い。

もっとも、父が謀反の疑いをかけられて切腹し、悲運を背負って生きてきたと言う主人公の境遇のせいか、本作はこの手の勧善懲悪の時代劇にしては全体的に暗いトーンの話が多く、長七郎と関わりを持った善人が命を落としてしまうパターンも少なくない。

さて、本作は2020年5月現在、BSや各地のローカル局などで再放送される機会も多いが、ソフト化については第一シリーズの二十八回までを収録したDVDボックスと、番組改変の時期などに放送された拡大スペシャル四作をまとめたDVDがリリースされている(絶版ではあるが、過去にはVHSも四本リリースされている)。

このうち、スペシャル版のDVDのディスク2に収録されているスペシャル第二作「長七郎立つ!江戸城の対決」は、個人的にはシリーズ中の白眉と思うエピソードであり、今改めて見ても、この手の娯楽時代劇としてよく出来ている。

将軍家光のご落胤騒動に由比正雪の陰謀が絡む筋立てで、タイトルの由来にもなっている家光と長七郎の対決も見応え十分である。

キャストでは、家光を演じる高橋幸治と、悪の総本山・由比正雪を演じる中尾彬が存在感を放っている。

強いて個人的趣味から難点を挙げれば、どうせ実在上の人物を絡ませるなら、浜畑賢吉演じる将軍の側用人も、「京極忠継」と言う架空の人物ではなく、中根正盛とか実在する家光の側近ににすれば良かったと思うが、中根正盛のポジションは、本作中では柳生宗冬が担当しているので、別の人物に置き換えたのであろうか(ちなみに、丹波哲郎演じる長七郎の宿敵・柳生宗冬は実在の人物であるが、設定や年齢などは大きく史実と異なっている)。

また、スペシャル第四作の「怨霊見参!長七郎、弟と対決」は、この後で日テレ年末時代劇スペシャルのメインライターを務めることになる杉山義法が脚本を担当しており、ラストのナレーションはいかにも杉山らしい史実を重視するこだわりが出ている。

ただ、その後に続くスペシャル第五作「母は敵か?!正雪の陰謀」(DVD未収録、現状VHSのみのリリース)では、長七郎が由比正雪を「成敗」してしまうので、第四作のラストと食い違ってしまうのだが(笑)。

ともあれ、全体的に非常に面白く魅力的な作品で、私は最も好きなテレビ時代劇と言って良いし、私が駿河大納言忠長が好きなのは、この作品の影響が強いと思う。

かなうなら、残りのエピソードもソフト化して欲しい作品である。


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