見出し画像

10の夏の好きなもの


小さい頃繰り返し観た映画のひとつにミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」がある。すてきな歌がたくさんでてくるんだけど、なかでもお気に入りだったひとつが「My Favorite Things(私のお気に入り)」。


いやなことがあって落ち込むときはすてきなもののことを考えてみるの、とマリア先生が言って、ひとつひとつ挙げながら歌にのせていく。ばらの上の雨粒。仔猫のひげ。ぴかぴかの銅のやかんに、暖かい毛糸のてぶくろ。紐でしばった茶色い紙の包み。月を翼にかすめて飛ぶ雁の群れ。まつ毛と鼻の先に降る雪。春へと溶けていく白銀の冬。すごくわくわくする歌だった。

そんな歌を思い出しながら、この夏の好きなものを十個あげてみよう。それだけで暑さもやわらいでしあわせなきもちになれるものを。

 + + +

1.海の上にできる月の道

千年の昔、清少納言は「夏は夜」と言った。春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ、冬はつとめて。どの時間にもこの世ならざるなにかを感じる。

夏の夜ですきなのは、海の上にできる月の道がぎらぎらしていること。満月でもそうじゃなくても月の道はけっこう煌々とあかるい。それが海のうえをゆらゆら揺れている。そのようすをぼんやり眺めていると、あらゆることから許されていくきもちになる。あと、ほんとうに歩いて渡れるような気もしてくる。満月であればとくに波の勢いがはげしくて、波打ち際で足先だけつけて立っていると、このまましらない世界にさらわれていくんだろうなあと思えてくる。


2.朝にかじる麦味噌きゅうりと塩トマト

このふたつは、夏の朝の飲みものか三時のおやつみたいに思っている。きゅうりは麦味噌もいいけれど、梅味噌もいい。トマトもスイカもぐんと甘みが増しておいしくなるから塩なしではもうたべられない。塩は天然塩がいちばんおいしいと思う。ずっと沖縄の粟国の塩を使っています。


3.長野の小林農園のなめ茸でたべる炊きたてごはん

こちらのなめ茸のポイントは、無添加・砂糖不使用なので毎日たべても体が疲れないところ。瓶いっぱいにこれでもかとつまっていて、つやつやでおいしくて。これがあると炊きたてごはんが何杯でもたべられちゃう。毎日たべつづけてるけどいまだに飽きてない。この春から買いつづけてもう6本目くらいかも。ごはんのお供といえばしらすと海苔と納豆もすてがたいけれど、今断トツのナンバーワン。


4.日陰をえらんで歩いていたらずっとうちに帰れなくて暑い散歩

朝と夕暮れの散歩は日課。ででも、あまりに暑すぎて早朝か日没後しか歩きたくないのに、早朝には今のところ起きられていないから仕方なしにぎんぎらぎんに暑いなかを歩くことになる。なんとか日陰だけをえらんで歩くようにすればそれなりには涼しいけど、どんどん家からは離れていく。でも外の風ってすごくきもちいい。鎌倉には海風がある。夏に限らないけれど、風のなかでふっと目を瞑るときしあわせだ、と思う。



5.スーパーでお昼何たべようかじっと考えている人

私はスーパーが好きです。大好き。人が自分を養うためのたべものがずらっと並んでいる光景がもうすごく好き。スーパーでは決まって人がなにをえらぶのか気になるので、なるべくばれないようにちらちらカゴの中身をのぞいたり、だれかがショーケースから手にとった商品がなにかこっそり見たりしている。今日私の前に入店した男の人は山形のカットすいかと中国のうなぎ真空パックをサッとえらんでレジへ行った。これを買うと決めていたみたいにいさぎよく。

毎回きゅんとするのは、お惣菜コーナーとかで今から何を食べようかひとつづつ手に取りながらじっと考えている人。この前は小さめのハンバーグ弁当を右手に持ってじっと考え込んでいる若い男の子がいた。たべることに真剣な人の姿はいいなあ。



6.音のない灼熱の午後

風以外のすべてがうごきを止めたようなむせ返る暑さの午後。それはもう戻れない、どこかで経験していたなつかしい時間を入道雲のようにもわっと思い出させる。なぜだか。



7.夜な夜な振り返って観るジブリ映画

夏になるとやっぱりジブリが見たくなる。この前ふと「今日は魔女宅だ!」と夜ごはんをたべながら配信で見て、終わってから金曜ロードショーをつけたら魔女宅だったのでちょっとわらった。もののけ姫はかなり久しぶりに観たけれど、当時小学生だった初見の記憶がよみがえって、あらためてものすごい作品だなあ、なんだか命すべて入っているなあ、と圧倒された。

ぽんぽこ〜の多摩丘陵の団地の感じは、いつ観てもいいなあと思う。なくなったものの跡になにかができていくんだな、って。なにもかもそうで、私たちも今はもうないものの跡に生きていて、私たちのあとにもきっとだれかが、なにかが、絶えず生きていて。今年今のところ観たのは耳をすませば、魔女宅、もののけ姫、ぽんぽこ。


8.韓国の13人組の一糸乱れぬ踊り

出張先のテレビで偶然見かけてしまって以来、毎日ぴたりと息のあった芸術品のようなダンス映像に見とれている。心で合っているダンスってこういうことなんだろうなあって。そもそも人の体がうごいているのを観るのが私は好き。ええあんなふうにとか、こんなうごきもできちゃうのとか、いちいちどきどきわくわくして、それが連続で繰り出されつづけるダンスは見ていてすごく楽しい。神秘的というか。あとSEVENTEENは、みんなかわいい。



9.ひとつとして同じでない波

波はいつも、言い表しようのないくらいうつくしい。波で思い出す、昔ある人にもらったことばがある。がたがたの道を必死に駆けたり、つまづいて転んでぼこぼこになったりしながら生きてきたことを肯定してくれるようなうつくしいことばに、思わず波が引いていく時のように肩の力がすーっと抜けてなみだが出たんだった。

"Perhaps this is the most important thing for me to take back from beach-living: simply the memory that each cycle of the tide is valid; each cycle of the wave is valid; each cycle of a relationship is valid."
             -Anne Morrow Lindbergh, "Gift from the Sea"


10.歳をかさねていくこと

今生きていること。





この記事が参加している募集

夏の思い出

お読みいただきありがとうございました。 日記やエッセイの内容をまとめて書籍化する予定です。 サポートいただいた金額はそのための費用にさせていただきます。