見出し画像

【小説】1等星

人々を和ませる1等星であり続けますようにという意味を込めて付けられた名前だった。僕は比較的、その名前が嫌いだった。幼稚園や小学校では随分とからかわれたものだ。そもそも、名前がカタカナというだけで、ちょっと馬鹿にされる。それだけならまだ許せたのだが、文字数が多いから、画数としては「鈴木一」と同じなのだ。得がなくて損ばかり。嬉しい所が1つもなかった。

 中学生くらいになれば、馬鹿にされる事も段々と減っていった。とはいえ、初めて僕の名前を聞いた人は、ちょっとびっくりした顔をしたり、反応に戸惑ったりしていたけれど。僕の方も次第にその反応に慣れてきて、自分の名前が気になる事も少なくなっていった。寧ろ、誰もが僕の名前を一度で覚えてくれるのだから、いい名前なのかもしれないと思った。ちょうどその頃、この星の含まれる星座の歌が発売されたので、自分紹介の際、その曲に話題を誘導できるようにもなり、僕の心はだいぶ楽になった。

 大学で僕は、何を思ったか友人と一緒に起業してしまい、そして社長になった。僕以外の全員が工学部出身だったのだから、文学部の僕が社長になるしかなかったのだ。そう、僕の会社では、社長は嫌われ役だった。でもだからこそ、皆、嫌われ役を引き受けてくれた僕をすごく尊敬してくれた。僕は熱心に仕事をした。その時の僕は間違いなく、会社を支える1等星だった。

 社長になると、僕の名前はとても優秀だという事が分かった。誰もが一度聞いただけで名前を覚えてくれる。それがこんなに素晴らしい事だなんて、誰も教えてくれなかったじゃないか。自分の名前が秘めていた可能性に、僕はとても興奮した。それだけじゃない。僕の名前は、会話の掴みにもなってくれ他のだ。まだまだ大丈夫なんですか? ええまあ、今の所はそう言われてるんですけどね。会社の業績は上がっていった。僕の名前は業界で知られるようになった。会社の知名度が上がった。僕の名前は、工学部の友人達が開発していたプロダクトと同じくらいに、会社に貢献していたと思う。それくらい、僕の名前が会社を、そして僕自身の人生を、真っ赤に突き進めてくれたのだ。




 ベテルギウスが爆発するまでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?