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戦時下、大衆にこんなに注目された戦時紙芝居とはー仕掛けの連続で貯蓄や大和魂の鍛錬を植え付け

 日中戦争当時、紙芝居の効果に目を付けた情報局が、臣民に国策遂行の大切さ、どんな協力ができるかといったことを教える為大量に「国策紙芝居」が作られたというのを知ったのは、こちらの本でした。

アサヒグラフ別冊 メインは街頭紙芝居

 そして国策紙芝居の説明の扉写真に使われていたこちら、うつっているのは紙芝居らしくない、と思って探していたら、入手できました!

時局紙芝居実演とでもいいましょうか。奥のがそれですが縦長で…
それがこちら「国を挙げて」でした。

 入手したのは1940(昭和15)年5月25日、選挙粛清中央連盟が発行しています。埼玉県熊谷市役所所蔵のものでした。戦前の選挙といえばブローカーが票集めをして金が飛び交うのが当たり前という状態でしたから、当初なら翌年に予定されていた衆議院選挙(戦争で1年延期)に向けた啓発と、泥沼の日中戦争はうまく進んでいるとごまかし続けたかったという、二つの狙いがありました。
 では、若輩者ですが、実演に入らせていただきますー。
           ◇
 「それでは皆さん、争いから建設へと動き出した支那事変、皆さんがどんな協力をできるか、前線の兵隊さんのためにどんなお役に立てるか、じっくりとご覧ください」(表紙をめくり下に垂らすーこの方法で場面転換します)

いきなり神武天皇!

 「恐れ多くも(居住まいをただす) 神武天皇以来の八紘一宇の精神で、アジアを大日本帝国を家長として大きな一家とする戦を続けております。米英に操られている重慶政権は、いまや金鵄の光で、山奥に逃げ込んだままでてこれません」(上をめくり下に垂らす)

最新兵器の数々

 「しかし、いつ打って出てくるか分かりません。それで前線を支える大量の兵器もこれまた必要となりますが、そのために」(戦車をめくり下に垂らす)

ストレートに主張

 「今、手持の金、もちろん延べ棒などとは言いません。金貨や金細工、指輪の金の台など、各家庭に眠っている「金」を供出することが、御国への大きな貢献となるのです。」(上をめくって垂らす)

着飾った女性と地味な女性の対比が凄過ぎ

 「さあ皆さん、この二人のご婦人をどうご覧になりますか。やはりこちらのご婦人のように派手に着飾りパーマをかけて歩いてみたいですか。これだけの格好にどれほどのお金が必要でしょうかね。いや、まず、お金があるとしたらと考えていただき、そのうえで、こちらの地味な御婦人を見習っていただきたいのです」(帯を広げる)

おお、愛国心が!

 「そう、このご婦人は愛国心に燃え立っているのです。節約して無駄遣いをしないでためたお金で、貯蓄に励んでおられ、貯蓄債券も購入されているのです。」(帯をもう一度広げる)

利息がつく国債だ!

 「そしてためたお金で国債を買い、将来のお子様の入用に利殖もしつつ御国のためにも役立てようというのです。これぞ、日本婦道の精華、みごとな着飾りではございませんか」(帯をたたんで上をめくり垂らす)

お金に寄り道をさせない

 「今、政府が発行した国債を日本銀行が買い入れてお金として政府に渡し、兵器の生産や戦争に必要なことに役立て、その仕事に従事した国民の手元にお金がわたります。そこで、さきほどの愛国女性のように、国債や貯蓄などによって、日本銀行にお金を戻す。こうして循環させることで、日本のお金の量は大きく増えることなく、その価値を維持して戦争を続けられるのであります」(下段をめくり下に垂らす)

物価高の大波が!

 「ところが、着飾った女性のように、皆さんが手にしたお金を消費に回しますと、みんなが限られた商品を買い求めようとすることで、ほれ、物価が大波のように上がってくるのです。これでは大変困ります」(下を元通りに上げ上をめくり垂らす)

赤ちゃんにも背負わせる貯蓄

 「政府の今年の貯蓄目標は120億円であります。これは生まれたばかりの赤ちゃんからお年寄りまで、皆が120円ずつ背負っているのです。これだけは歯を食いしばってもやり抜かねばなりません」(上をめくり垂らす)

皆の同調圧力で

 「そこで、ご近所の皆さん、隣組や常会でお互いの気持ちを支え、協力して消化するのが一番良い方法です。また、選挙も控えている中、これまでのようなモノやカネで釣られる選挙をしては、前線で御奉公しておられる兵隊さんに申し訳が立たないというものです」(上をめくり垂らす)

前線の頼りを投票用紙と思えと

 「前線の兵隊さんが一死報国の思いで戦っておられる。その思いが手紙となり、それがどの候補が良いか、おのずと理解できることでしょう。今度は皆さんの一票報国の番です。」(上をめくり垂らす)

城とお坊さんとは

 「えー、お城が皆を護ってくれていることに感謝を示す御坊様。しかしここで大事なのは、堀の下に」(堀を左側に開く)

水の下まで石垣が

 「水面で隠れている部分にある、表に出ない石垣こそが、皆を護っているのです。これ、すなわち皇国臣民一人ひとりの眼に見えない努力こそが御国を護っておるのです」(堀を戻して上をめくり垂らす)

日本刀…

 「皆さんが知る日本刀は、何度も何度もたたかれてその見事な切れ味を生み出すのです。この日本刀を『大和魂』に見立てれば」

刃を広げる

 「これを全身全霊で鍛えていかねば、なまくら刀となってしまいます」

左の槌を広げると「全身全霊」が登場

 (刀と槌を戻して上をめくり垂らす)

中国は汪精衛の傀儡政権

 「今や、新たに生まれた満州帝国と、立ち上がった王主席の支那が手を結び合い、ここに『東亜新秩序』が生まれるに至りました」(上をめくり垂らす)

翼賛と来た!

 「そうです、今こそアジアを家族とする大業を達するため、皆が翼賛していくときなのであります!」
           ◇
 いかがでしたでしょうか。実はこの紙芝居、ちゃんと台本が作られているのですが、古本で出ていたのを買いそびれてしまい、自己流でやってみました。前半の緩さから、後半は理屈抜きで頭に叩き込むような展開になっています。身近なところから訳の分からない世界へ引き込んでいくような怖さがあります。これを目の前で実演されれば、かなり引き込まれることでしょう。また、折を見て紹介させていただきます。

ここまで記事を読んでいただき、感謝します。責任を持って、正しい情報の提供を続けていきます。あなた様からサポートをしていただけますと、さらにこの発信を充実し、出版なども継続できます。よろしくお願いいたします。