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日中戦争開戦1年余の松屋年末用品カタログは、まだ余裕を見せていましたが…


 上と表題の写真は、東京・銀座の百貨店「松屋」が日中戦争開戦翌年の戦時下、1938(昭和13)年12月5日に発行した年末用のカタログ冊子です。A4判16ページで、表紙以外の15ページを通販商品の紹介にあてています。
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 前半は着物。草履の皮革を代用品にしたものや、おそらくスフを混紡した「国策繊維」使用の「愛国着尺」などもは出てきてはいますが、まだ羊毛製品など少しはあり、まだ余裕が感じられます。
 そして、こちらの新年を控えてのお正月用食料品のページは、価格や数量が妥当かどうかまでは分かりませんが、とてもにぎやかです。

 塩カズノコの樽、小鯛の粕漬け、山海珍味などなど。甘い物もスペシャルチョコレート、羊かん、カステラ、ビスケット、甘栗と、なんでもござれという雰囲気があります。

 一方、正月の玩具の代表、カルタには「無敵皇軍」「日本の兵隊」といった題材が入っています。そして1938年の暮れといえば、10月末に武漢三鎮が陥落して、日中戦争における大作戦は一通り終わったころですが、まだまだ帰国という感じではありません。そこで、前線兵士への慰問品にも1ページを割いています。

 純毛のチョッキ、勇士も思わず歓声を上げる「セーラー人形」、科学的新兵糧「熱糧食」、絹ふんどしなどなど。中には缶入りウイスキーなんかもあります。
 そして、最後のページは、羽子板の特集です。

 兵隊さんの似顔絵羽子板は、一応、役者さんの顔ですが、これは人気のほどはいかがでしたのでしょうか。濃い顔もかっこいいって、人気が出ると思ったのか。一般的な着物美人の羽子板は、ページ下の方に掲載されていました。そして少年航空兵、鉄砲を持ったフクちゃんまでもあります。男の子にも買ってもらおうという算段があったのかもしれません。

 一方、この年は4月に国家総動員法が公布されています。6月には物資動員計画を閣議決定しており、綿製品、金属製品の生産規制が行われます。皮革やゴムも制限となり、このカタログのように代用品が登場しています。そしてこうした規制は小規模小売業者や製造業者の廃業につながっていくのですが、この松屋グラフからは、そこまでの追い詰められた雰囲気は見えません。これも貧富の格差がなせるものでしょうか。

 しかし、広大な中国戦線を維持するために日本の経済は次第に圧迫され、翌年には価格統制令が公布されるなど、消費環境は大きく変貌していくことになります。まだ、日中戦争段階でした。

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