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強い決意に満ちた復活公演。みんなの力を合わせれば、もう一度歩き出せる…★劇評★【舞台=サンタクロースが歌ってくれた(2021)】

 どんなにしんどい時でも、どんなに絶望的な時でも、みんなの力を合わせれば、もう一度歩き出せる…。そんな思いが一つになり、最後には観客も含めてその劇場にいるすべての人の心は走り出している。そんな光景を演劇集団キャラメルボックスの公演会場で何度も見てきた。もちろん実際に走っているわけではないが、観客の心は激しく動き舞台に惹きつけられる。その舞台上にいる俳優らも心底役になり切って、懸命に突破口を探し、乗り越え、たどり着くべき世界へと飛び出そうとしている。その唯一無二の一体感を久しぶりに見た。約2年半前、突然の活動休止を発表し、劇団は何も知らないうちに、製作を担っていた会社が倒産。大混乱のまま、ファンらを心配させていた彼らがついに戻って来たのだ。復活公演として選んだのは劇団の大事な節目に上演を重ね、自他ともに認める代表作の舞台「サンタクロースが歌ってくれた」。生きてきた証そのものでもある舞台で再び躍動する彼らの顔はとても嬉しそうでもあり、なおかつ、「何度でもやり直すんだ」と劇中で叫ぶ主人公のように強い決意に満ちてもいた。作・演出はキャラメルボックスを率いる劇作家・演出家の成井豊。(画像は舞台「サンタクロースが歌ってくれた」とは関係ありません。イメージです)

 舞台「サンタクロースが歌ってくれた」は12月11~12日に神戸市の「AiiA 2.5 Theater Kobe(旧新神戸オリエンタル劇場)」で、12月22~26日に東京・池袋のサンシャイン劇場で上演された。公演はすべて終了しています。


★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも序文は無料で読めます。舞台写真はブログでのみ公開しております。

★通常、ブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含む劇評の全体像はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(100~300円程度)公開していますが、今回はキャラメルボックスの復活公演であるということに敬意を表して、掲載から1カ月間は無料で公開します。それ以降は他の劇評と同様に有料に切り替えます。切り替え(1月28日)後に全文を読む場合は100円とさせていただきます。なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。多田直人さん、畑中智行さん、阿部丈二さん、林貴子さん、森めぐみさん、原田樹里さん、岡田さつきさん、筒井俊作さんら俳優陣の演技に対する批評、成井豊さんの演出や舞台表現、戯曲に対する批評などが掲載されています。

【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無条件に無料でお読みいただけるサービスは2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。

 当ブログを継続して読んでいただいている方には既にお知らせしておりますのでご存じかと思いますが、今回のキャラメルボックスの復活公演「サンタクロースが歌ってくれた」のパンフレットには、わたくし阪清和が劇団を率いる劇作家・演出家の成井豊さんに90分間にわたって行った独占インタビューが掲載されています。成井さんはじめキャラメルボックスの方々ならびにパンフレット制作スタッフの皆さま、ご出演の皆さま、スタッフの方々、誠にありがとうございます。待ちに待った復活公演のパンフレットでの取材・執筆、大変光栄です。ありがとうございました。

 稽古場にお伺いしてのロングインタビュー。活動休止とそれ以降のこと、復活公演に向けた経緯と稽古の様子、劇作や演出に対する思い、演劇界全体に向けた考察など、さまざまなことをお聞きすることができました。

 パンフレット内のインタビューは購入していただかなければ読んでいただくことはできませんが、このインタビューの内容の一部は、「週刊金曜日」向けに寄稿し、12月3日発売の誌面に掲載されています。電子版でも一部ご紹介しています。

★電子版

http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2021/12/02/news-108-2/

★「週刊金曜日」2021年12月3日発売の1356号の雑誌版=amazon

★「週刊金曜日」2021年12月3日発売の1356号のKindle版=amazon

★舞台「サンタクロースが歌ってくれた」公演情報=公演はすべて終了しています

 舞台「サンタクロースが歌ってくれた」は人気演目で、成井が28歳の時に書いた作品。大正時代が舞台の探偵映画の主人公たちが、逃げた犯人の行方を追って銀幕から飛び出し、映画を見に来た現代の20代の女性たちと奮闘する物語だ。

 1989年に初演し、1992年、1997年、2010年に再演。劇団が上演する戯曲としては劇団史上最多の5回目の上演となった。


 物語の舞台は探偵映画が上映されている映画館と現代の東京の町、そして少し離れた場所など。

 クリスマスイブにゆきみ(森めぐみ)は親友のすずこ(林貴子)を誘い、池袋の映画館で映画を観ることにする。しかしすずこは待ち合わせの時間に現れず、ゆきみは仕方なく一人で映画館の中に入っていく。

 上映されていたのは『ハイカラ探偵物語』。大正5年に、頼まれて探偵のまねごとをしていた芥川龍之介(多田直人)が親友で後に江戸川乱歩として活躍することになる平井太郎(畑中智行)に手伝いを頼んで、あるお屋敷にある宝石を狙う怪盗・黒蜥蜴と戦うお話だ。

 芥川はその明晰な頭脳を駆使して黒蜥蜴を追い詰め、とうとう落とそうという場面で口ごもる。なんと黒蜥蜴だと見当を付けた人物の姿がどこにも見えないのだ。

 どこにも逃げられるところはないはず。なんと銀幕の向こうへと逃げてしまったのである。そう、ゆきみが居る映画館の観客席の方ということになる。

 芥川と太郎、そして警視庁の菊池警部(阿部丈二)は黒蜥蜴を追って、同じように銀幕の外へと向かう。

 客席に座っていたゆきみは現代の東京の道案内を頼まれてしまう。

 遅れてきたすずこは実は先に逃げ出した黒蜥蜴(と思われる人物)と映画館の出入口で出くわしていて、こちらは別ルートで東京の町へ。

 こうして、現代の東京を舞台に、芥川らとゆきみによる黒蜥蜴(と思われる人物)大捜査網が展開するのだ。


 キャラメルでお約束の序盤での物語全体を感じさせる群舞のダンスもあるし、昔懐かしいマシンガントークも炸裂する。

 とにかくみんな声が良く出ていて、久しぶりにこんなにエキサイティングなステージを見た気がする。


 芥川はまだ若いころの設定ということもあって、その後の作家生活で陥ることになる悩みの迷宮で立ち尽くす姿ではなく、とにかく理路整然としていて明晰な判断力を持つヒーローだ。

 多田はぐいぐいとみんなを引っ張っていくリーダーシップを発揮しながらも、それぞれの役柄を活かす演技もできる俳優。現代の町に乗り出してからはその部分も十分に発揮されていた。


 畑中は太郎という発展途上の未熟さと屈折した思いを内包した人物をうまく造型している。芥川に対する親友としての親愛の情と、先に成功した者への嫉妬心も混じり、一筋縄ではいかない役柄だが、複層的な感じがよく出ていた。


 阿部は掛け合いも面白いし、1人でコミカルさを弾けさせることもてきるこの役柄を心から楽しんでいる様子。金田一耕助シリーズではないが、何でも独断で捜査を進めていくこの時代の「警部」ぶりも工夫が利いていて楽しませた。


 森は上演された各時代の観客と最も視点や視線が近いゆきみという役柄をさらに令和っぽくしていて、すずことの性格の違いもよく出していた。

 そのすずこの造型に林はかなり力を入れたはず。どこかさばけたあけすけなように見せていてもあったかいものも持っている。そんなすずこは演じ甲斐があるだろう。


 原田樹里は清楚だが謎があるミツの複雑性をよくとらえている。芥川のフィアンセの文を演じた木村玲衣は謎めいてはいないが、知られざる芥川のもうひとつの一面を他の登場人物や観客に知らせる大切な役柄を担う。メイドのハナを演じている山本沙羅は意外と奥行きのあるハナを巧く作っている。石森美咲が演じるサヨも劇団としては5演目で初めて見るようなオリジナリティーがあった。

 巡査を演じた関根翔太は個性を出せるシーンは多くないが、きちんと観客に印象を残す芝居ができていた。

 ある意味、最もはまっていたのはお屋敷の奥様を演じた岡田さつきと監督を演じた筒井俊作だろう。2人とも古くからのオールドファンにも、2010年以降に新たにファンになった人たちにも人気のある俳優で、まさしくキャラメルそのものと言ってもいい存在。はまっていると感じさせるのは、それだけ役柄をきちんととらえられているからで、岡田は奥様然たる独特の話し方に、筒井はハートウォーミングなコミカルさに俳優としてのキャリアがしっかりと活きている。


 そして「Endless SHOCK」や劇団☆新感線、第三舞台などでも知られた川崎悦子が振付をしている舞台でもあり、再びしっかりと目に焼き付けることができたことも記しておかねばならないだろう。


 成井がインタビューでも話していたが、この28歳の時の発想の豊かさはなんとも素晴らしい。話が次々と展開していくので、普通はついていくのに大変なはずなのに、きちんと観客を物語に寄り添わせてくれる。ここらあたりは若い発想力と熟練した演出力の融合と言えるだろう。

 成井は「この作品を超える代表作を書く」ためにあえて復活演目に選んだことも示唆していたが、劇団にとっても成井にとっても新しい出発になるのだろう。


 パンフレットでインタビューをさせていただいたから言うわけではないが、慎重ながらも着実なキャラメルボックスの再出発をしっかりと応援していきたい。

 そして他の俳優たちの元気な姿も早く観てみたい。


 出演は多田直人、畑中智行、阿部丈二、林貴子、森めぐみ、原田樹里、岡田さつき、筒井俊作、木村玲衣、関根翔太、石森美咲、山本沙羅。


 主なスタッフは以下の通り。

<スタッフ>

🔶作・演出=成井豊

🔶演出補=白坂恵都子 🔶アンダースタディ=生田麻里菜

🔶美術=稲田美智子 🔶照明=勝本英志 🔶音響=早川毅 🔶振付=川崎悦子 🔶衣裳=黒羽あや子 🔶衣裳協力=惡だくみ舎 🔶ヘアメイク=武井優子 🔶舞台監督=村岡晋

 

<PRODUCE STAFF>

🔶宣伝美術=デザイン太陽と雲 🔶宣伝写真=山岸和人 🔶衣裳=黒羽あや子 🔶ヘアメイク=武井優子 🔶webデザイン=ちょっと株式会社 🔶制作=阿部りん、今村圭佑、鈴木ゆか

🔶プロデューサー=仲村和生


 舞台「サンタクロースが歌ってくれた」は12月11~12日に神戸市の「AiiA 2.5 Theater Kobe(旧新神戸オリエンタル劇場)」で、12月22~26日に東京・池袋のサンシャイン劇場で上演された。公演はすべて終了しています。


 上演時間は、約2時間(休憩なし)。



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