上演時間

一瞬の瞬きのような祝祭的空間の歓びと深い哀しみがない交ぜになった世界観は作品を特別なものにしている…★劇評★【ミュージカル=ダンス オブ ヴァンパイア(山口祐一郎・神田沙也加・東啓介・佐藤洋介出演回)(2019)】

人間の血がなければ生きていけないヴァンパイア(吸血鬼)と、血がなければそもそも生きていけない人間。双方が共生できる世界などこの地上には存在しないが、唯一、このミュージカル「ダンス オブ ヴァンパイア」が演じられている劇場の中だけは別空間だ。ここではまるで双方を隔てる壁あるいは双方の間に広がる溝を称えるかのように、一瞬の瞬きのような祝祭的空間が繰り広げられる。そしてその底辺にどうしようもなく広がるの

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尽きることのない暴力性と純粋な魂がとぐろを巻き合いながら互いを高みへと押しやるような迫力に満ち、現代人の心に鋭い切っ先を向ける…★劇評★【舞台=カリギュラ(2019)】

小説「異邦人」や戯曲「誤解」などを生み出したアルベール・カミュの黄金期と言われる1940年代に発表されたカミュの代表作のひとつ「カリギュラ」。暴虐の限りを尽くして孤立を強める中で破滅の予感を抱きながらも、不可能なことを実現しようとする美学の中に没入していくローマ帝国皇帝カリギュラの姿を、若き演技派として注目される菅田将暉が舞台「カリギュラ」で狂おしいまでに表現している。人間の裏地のようなざらついた

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人生というものの不可思議さと幸福感に満ち満ち、よりその祝祭感を増した作品に成長していた…★劇評★【ミュージカル=ビッグ・フィッシュ(2019)】

親というものは自分の息子や娘になぜこうも本当かどうか分からない話をするのだろうか。自分を大きく見せるため? いやいや子どもの想像力をかきたてるため? いずれにしても、子どもたちがその真実を知った時、互いの真実はふつふつと音を立て始める。そんな世界中のどこにでもある普遍的な物語のようでいて、とびきり特別なミュージカル「ビッグ・フィッシュ」の日本人キャスト版が2017年の日本初演からわずか2年で再演公

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さらに目標を高く掲げ、作品を成長させていくようなチャレンジスピリッツがいくつもの箇所に散りばめられている…★劇評★【ミュージカル=ラ・マンチャの男(2019)】

「ラ・マンチャの男」は今の自分を映す鏡である。その反射の光は時には厳しく、時には優しく私たちを照らし、「日々の現実、つまりあるがままの人生に折り合いをつけていないか」と激しく問うてくるからある。「自分があるべき姿のために戦う」ことが夢を持つということであると説くこの作品は、単に物語を観客に伝えるだけでなく、その観客の心の中にまで、今の自分に人生の真剣度を試してくる作品なのだ。たとえ夢はまだかなって

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夢を追うことの深い意味合いを私たちに感じさせて一段と洗練さを増している…★劇評★【舞台=ジャニーズ伝説2019(2019)】

米国に武者修行に出るなどジャニーズの原点とも言える伝説のボーカルグループ「ジャニーズ」の奮闘を中心に、ジャニーズ事務所で活躍してきたアーティストやグループの歴史を「A.B.C-Z」の5人がお芝居とショウで綴る「ジャニーズ伝説」の2019年版が上演されている。ファンにはおなじみの演目だが、今年は事務所を率いてきた総帥、ジャニー喜多川氏が急逝した年。観客席のファンらは、高い理想を追い求めた草創期のジャ

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子どもたちの感情と関係性がぶつかり合って火花を散らす様はすさまじいリアリティーを持って私たち観客に迫って来る…★劇評★【舞台=渦が森団地の眠れない子たち(2019)】

子どものころの思い出は、良い思い出も悪い思い出もなんだか霧に包まれているようにあやふやだ。それは別に記憶が薄れているからではなく、その思い出ひとつひとつに数え切れないぐらいの感情が取り巻いていて、輪郭をはっきりさせて取り出すことができないからだ。その感情も子どもならではの無邪気さの裏側で、信じられないほどの残酷さが付きまとっていることもある。逆にジェラシーのような地に足のつかない負の感情だと思って

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三者三様の葛藤の中で息詰まる神経戦を繰り広げる様は3人の臨界点をぶつけ合うような凄みのある演技も手伝って、鋭い衝撃を与え続ける…★劇評★【舞台=死と乙女(2019)】

加害者と被害者の果てしない暗闘、そして目まぐるしく交錯する立場…。心理サスペンス劇の最高峰「死と乙女」が、宮沢りえ、段田安則、堤真一という最高の組み合わせで上演されている。民主主義が始まったばかりの国を舞台に、かつての独裁政権時代に拷問を受けた女性と、それに加担したかもしれない医師の男性、そして女性の夫で新政府のもとで独裁政権の罪を調査する弁護士が三者三様の葛藤の中で、息詰まる神経戦を繰り広げる様

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四姉妹の人生の悲喜こもごもが交錯していく様は一種の凄みさえ感じさせる…★劇評★【舞台=Little Women リトル・ウィメン ~若草物語~(2019)】

「かわいい淑女の皆さま」あるいは「小さなご婦人方」という意味がある英語の「Little Women(リトル・ウィメン)」という言葉は本来は成人した複数の女性たちに呼び掛ける言い方を子どもたちに使う場合に使われるが、世界的大ヒット小説としてあまりにも有名な「若草物語」の原題としても広く知られている。これは作者であるルイーザ・メイ・オルコット(Louisa May Alcott)が自分たち姉妹を父親が

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誰しもが陥る可能性のある深い穴と心の闇に人間というどうしようもなく不埒で愛おしい生きものの生命力という光を当て、物語に力強い説得力を与えることに成功している…★劇評★【舞台=アジアの女(2019)】

私たちは2011年3月、確かに「世界の終わりの始まり」を見た。誰もが抱いた絶望。しかし、私たちはその絶望と絶望の先に広がる時間や空間の中でも生き抜いていかなければならない。その先に希望があるのかどうかは誰も分からない。再生という耳心地の良い言葉にもきっとたどり着くべきゴールはないのだろう。その過程こそが生きる意味なのだ。災厄に見舞われた人々のそんな心の中のありようを2006年の時点で「アジアの女」

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単に優しさの表皮を被るボタニカルな物語とは一線を画している。またひとつ宇吹萌は新しい場所を獲得したようだ…★劇評★【舞台=咲く(2019)】

植物にモーツァルトの音楽を聞かせると味が良くなるとか、生育が速くなるとか、色つやが鮮やかになるとか、そんなふうに言われることは決して少なくないが、考えてみれば植物は生きもの。生きものなのだから、たとえ知性や頭脳はなくても細胞という高度な受感体があるわけで、音楽や空気などが植物本体に何らかの影響を与えることは想像にかたくない。人間の行動や環境の変化に何も感じていないはずはないのだ。気鋭の劇作家・演出

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