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変わる価値観の中で今もまだ手探りで生きている私たちは主人公ヴァイオレットの姿に何かたくさんのものをもらっている…★劇評★【ミュージカル=VIOLET(唯月ふうか・稲田ほのか出演回)(2020)】

 ひとり旅は人を成長させるというが、それは何も観光地の知識を増やしたり乗り物の乗り方を覚えたりするからではない。交わらざるを得ない人々との幾重にも織り込まれた会話によって、世の中には自分の知らない価値観があることを知り、自分という存在を客観視することができるようになるからである。しかも、旅の主役が若い娘で、その旅が障がいへの偏見と人種差別がまだ色濃く残っていた時代の米国の長距離バス「グレイハウンド」での旅ともなると、出会う人々の多様性は半端なものではない。もちろん、若い娘に対して親切な人もいれば、はじめから下心丸出しの人もいる。そんな場所に身を置くことを決意させた自身の覚悟は心強いが、玉石混交の人々とのおびただしい会話によってその覚悟は幾度も揺り動かされる。それを目撃し続けるうち、いつのまにか私たち観客は彼女と共に同じバスに乗る乗客の一人になっているのだ。「ジャージー・ボーイズ」日本人キャスト版を大成功に導いた新進気鋭の若手演出家、藤田俊太郎が、そんなミュージカル「VIOLET」の「英国キャスト版」を英国で、「日本人キャスト版」を日本で演出・上演するという一大プロジェクトは昨年1~4月のロンドン公演に続いて予定されていた今年4月の日本公演が新型コロナウイルス感染拡大のために中止の憂き目に。しかし、大幅に期間を縮小、内容も一部変更して9月4~6日のわずか3日間だが、東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで奇跡の再出発を果たした。混沌とした時代にいろんなところにぶつかり、道に迷いながらも前に進んでいく主人公ヴァイオレットの姿に、変わる価値観の中で今もまだ手探りで生きている私たちは何かたくさんのものをもらっているような気がする。彼女はひとつかふたつ重い荷物を下ろしただけかもしれない。しかし彼女はその分だけ軽くなった体で少し先まで進むことができるのだろう。私たちは排他主義や不寛容が横行する世の中でどんな未来を築けるのだろう。思考を止めず、考え続けなければ。(巻頭の写真はミュージカル「VIOLET」とは関係ありません。イメージです)
 ミュージカル「VIOLET」は9月4~6日に東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演された。公演はすべて終了しています。

 なお、本作は主役のヴァイオレット役が唯月ふうかさんと優河さんのダブルキャスト、ヤング・ヴァイオレットも稲田ほのかさんとモリス・ソフィアさんのダブルキャストですが、取材機会の関係で劇評を掲載するのは、ミュージカル「VIOLET」(唯月ふうか・稲田ほのか出演回)」のみとなります。ご了承ください。
 この劇評だけではカバーできない優河さんとモリス・ソフィアさんのファンの皆さま方には大変心苦しく感じております。大注目作品である上、わずか3日間だけの上演となりましたため取材機会も限られます。なにとぞご容赦ください。
 ただし写真に関しては、優河さん出演回の舞台写真をこのブログで公開していますので、ご覧になってください。

舞台写真はこの「note」ではなく、阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でのみ掲載しています。舞台写真をご覧になりたい方は下記のリンクでブログに飛んでください。
★「SEVEN HEARTS」のミュージカル「VIOLET」劇評ページ

【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無料でお読みいただけるサービスは2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。

★ミュージカル「VIOLET」日本人キャスト版の公式サイト

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