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暗い時代にあっても笑いと生命力が息づく時代を描く人情喜劇として成立。市井の人々の暮らしを縦糸に、女形論・女優論を横糸に…★劇評★【舞台=ある八重子物語(2020)】

 水谷八重子の女優としての生きざまを描きながらも、水谷八重子は一度だって登場しない。つまり井上ひさしの「ある八重子物語」は伝記や一代記ではなく、八重子の大ファンである市井の町医者と彼をめぐる人々の日々の営みを活写することで水谷八重子とその時代を鮮やかに浮かび上がらせる作品であり、新派の狂言を劇中の出来事に重ね合わせることでパロディ精神にあふれた物語批評にもなっているという、井上一流の技が活きた作品なのである。市井の人々の暮らしを縦糸に、女形論・女優論を横糸にそれらを描くユニークなその作劇法は、暗い時代にあっても、笑いと生命力が息づいていた時代を描く人情喜劇として成立させることにつながっている。(画像は舞台「ある八重子物語」とは関係ありません。イメージです)
 舞台「ある八重子物語」は12月18~27日に東京・池袋の東京芸術劇場シアターイーストで上演される。

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