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見えたのは、互いの限界や可能性をすべて知った上で、さらに演技のレベルを上げ、さらにはみ出せないかを虎視眈々と狙っている野心的な顔…★劇評★【舞台=ジャージー・ボーイズ チームWHITE(2018)】

 いわゆる「ジュークボックス・ミュージカル」というのは、その作品のために書き下ろされた曲ではなく既成の曲を使ったミュージカルやミュージカル映画のことを意味するが、「マンマ・ミーア!」の大成功以降、安易に曲を羅列しただけのものや、雰囲気だけをあてはめて楽曲を散りばめただけの作品も乱発され、ジャンルとしては評価が大きく分かれ、玉石混交であることは否めない。そんな中でも、「マンマ・ミーア!」が楽曲群にオリジナルの物語を付与したタイプとして高い評価を受けているのに対して、その楽曲を持つアーティストの伝記に代表的なヒット曲を散りばめた作品として最も優れているのが、ミュージカル「ジヤージー・ボーイズ」だ。クリント・イーストウッド監督によって映画化されたことでも知られるこの作品は、当該のアーティストの光だけでない影の部分が容赦なく描き込まれ、作品全体が豊かな陰影を持っていることが高評価のポイントだ。そして、それぞれのナンバーがその時々の彼らの心情を痛いほど表していること。また決して単一の視点ではなく、複数の視点で彼らの置かれた状況に迫ろうとしていることで、唯一無二の力をこの作品に与えているのだ。しかも2016年に日本人キャストで初演され数々の演劇賞を席巻、2年後の今年2018年に早くも再演されているミュージカル「ジャージー・ボーイズ」日本版は、それぞれの人物像がさらに深く物語に刻み付けられ、人生の悲哀がより色濃く、ブロードウェイ版をもしのぐ仕上がり。若手クリエイターのトップを走る俊鋭、藤田俊太郎の演出が冴えわたる作品となっている。特に初演でも同じ名のチームを担ったメンバーが再演でもすべてそろった「チームWHITE(中河内雅貴・海宝直人・福井晶一)」は互いの限界や可能性をすべて知った上で、さらに演技のレベルを上げることができないか、さらにはみ出すことができないかを虎視眈々と狙っているような高レベルなメンバーシップが育っていて秀逸。両チームを通じてメインボーカル、フランキー・ヴァリを演じる中川晃教が繰り出す超絶技巧の歌声と合わせ、「ザ・フォー・シーズンズ」というグループがなぜこんなにも人々に愛されたのか、その理由をすべてえぐり出そうとしているような野心的なチームの顔が見えた。

 チームBLUE(中川晃教・伊礼彼方・矢崎広・spi)についての劇評も既に掲載済みです。一部重複部分はありますが、ぜひともあわせてお読みいただき、今回の再演舞台の臨場感を味わってください。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」舞台「ジャージー・ボーイズ チームBLUE(2018)」劇評=2018.09.15投稿

 ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」は9月7日~10月3日に東京・日比谷のシアタークリエで、10月8日に秋田県大館市の大館市民会館大ホールで、10月11~12日に岩手県盛岡市の岩手県民会館大ホールで、10月17~18日に名古屋市の日本特殊陶業市民会館ビレッジホールで、10月24~28日に大阪市の新歌舞伎座で、11月3~4日に福岡県久留米市の久留米シティプラザ ザ・グランドホールで、11月10~11日に横浜市の神奈川県民ホールで上演される。大館公演ではチームWHITEのみの公演、他会場ではチームBLUE、チームWHITEの公演が少なくとも1回は上演される。

★ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」公式サイト
https://www.tohostage.com/jersey/

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