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エレベーターピッチをカスタマイズ。「らしさ」をもっと深く描けるように。

エレベーターに乗っているくらいの短い時間でビジネスやサービス、プロダクトの核心を伝える文章をつくる手法のエレベーターピッチ。ターゲットユーザーや、顧客ニーズ、競合との差別化要因などを端的に整理することができるため、私たちは多くのプロジェクトで「自社らしさ」「サービスらしさ」などをまとめる際にワークショップとして取り入れています。

一般的なエレベーターピッチの文章構成は次のようになっています。

顧客ニーズ>を欲している<対象顧客>向けの<製品名/サービス名/企業名>は<市場分野>の製品/サービス/会社で<最大の長所>をもっている。
競争相手>とは違い、この製品には<際立った差別化要因>がある。

ゲームストーミング/Dave Gray, Sunni Brown, James Macanufo 著 P.166-169 

例えば、noteのエレベーターピッチを考えてみます。公開されているミッション・ビジョン・バリューや、noteの特徴・使い方・機能紹介会社説明資料を紐解いて作ってみると、一例として下記のようなエレベーターピッチが考えられます。

創作活動を続けていくこと>を欲している<クリエイティブ活動を手掛ける人>向けの<note>は<CtoC型のメディアプラットフォーム>で<だれもが楽しんで創作活動を続けられるよう、安心できる雰囲気や、多様性を大切にしている>という長所をもっている。
他のブログサービス/SNS>とは違い、noteには<ランキングがない、広告がない、編集部がおすすめ記事を厳選>といった差別化要因がある。

エレベーターに乗っているくらいの短い時間(せいぜい30秒くらいでしょうか)で核心を伝えることがエレベーターピッチの肝要なところです。そのため「アレもコレも伝えたい」という、つい盛り込みたくなる要素を削り、明快な文章を作れるのが良いところですね。

エレベーターピッチは、クライアントや多くのステークホルダーと一緒に行うワークショップでも使い勝手がよく、多様な視点でそれぞれの考える「らしさ」を描けるので、私たちも重宝しているワークの1つです。

しかし当然のことながら、対象となる「製品/サービス/企業」のことを、もっと深く知りたい/伝えたいといったときには物足りなさがあります。

そこでShhh inc.ではエレベーターピッチを、クライアントの手掛ける事業の「らしさ」をもっと深く描けるようにカスタマイズし、特にブランディングのプロジェクトで「使える」ものにすることを目指しました。

私たちは「深さ」を知る/伝えるために必要なのは「過去と未来」きちんと理解することだと考えています。別の言い方をすれば「DNAとビジョン」を既存のエレベーターピッチに追加すること。私たちがカスタマイズした、エレベーターピッチは下記のようになります。

顧客ニーズ>を欲している<対象顧客>向けの<製品名/サービス名/企業名>は<市場分野>の製品/サービス/会社で<最大の長所>をもっている。
この原点には<過去の動機>という課題意識があり、これまで<大切にしてきた価値観>にこだわって事業を営んできた。
競争相手>とは違い、この製品には<際立った差別化要因>がある。
これから先、例えば<メタファー>のような<ブランドイメージ>となることを目指している。

追加したのは2行目の「この原点には〜〜」と、4行目の「これから先〜〜」の2箇所です。もう一度noteを例として、このカスタマイズしたエレベーターピッチを作ってみると下記のようになりました。

創作活動を続けていくこと>を欲している<クリエイティブ活動を手掛ける人>向けの<note>は<CtoC型のメディアプラットフォーム>で<だれもが楽しんで創作活動を続けられるよう、安心できる雰囲気や、多様性を大切にしている>という長所をもっている。
この原点には<ネット上に、既存のメディア産業がもたらしてくれたようなクリエイター・メディア・ファンをつなぐエコシステムがまだ存在しない>という課題意識があり、これまで<あらゆる人、あらゆる組織の、クリエイティブ活動を助け、続けていくための手助けをすること>にこだわって事業を営んできた。
他のブログサービス/SNS>とは違い、noteには<ランキングがない、広告がない、編集部がおすすめ記事を厳選>といった差別化要因がある。
これから先、例えば<ニューヨークの街>のような<あらゆる文化圏のひとたちが、それぞれの価値観や生活スタイルの違いを楽しみ、隣のコミュニティを揶揄することなく共生している場所>となることを目指している。

声に出して読み上げてみると60秒近くかかったので「エレベーターに乗っているくらいの短い時間でビジネスやサービス、プロダクトの核心を伝える」というエレベーターピッチ本来の目的からは、少し遠のいてしまいました。

しかし、このカスタマイズを行うことで元々のエレベーターピッチの明瞭さに加えて「DNAとビジョン」を知る/伝えることができるため、より深く「らしさ」を描けるようになっていると思います。

特にブランディングのプロジェクトでは、どこまで深く「らしさ」を捉えられるかは、とても重要になるため、30秒で伝えることのできる元々の「速いエレベーターピッチ」よりも、60秒かかるカスタマイズした「深いエレベーターピッチ」のほうが有効だと考えています。

私たちはこれまで「新規事業のブランドコンセプトを描く」「Webサイトリニューアルの新たな方向性の指針を作る」「パーパスやMVVをナラティブ化する」などの目的のために、エレベーターピッチを取り入れてきました。

エレベーターピッチの良いところは、文章構造がフォーマットとして決まっているなかで、ワークショップ参加者それぞれの視点から大切にしているもの、目指している姿などが描けることです。1つの型の中で多彩な意見が出てくるので、それを基に、さらに議論を発展させていけるところですね。

ワークショップで使える様々な手法を紹介している名著「ゲームストーミング」では、エレベーターピッチを「探索のためのゲーム」と位置づけています。(ゲームストーミングではワークのことをゲームと呼んでいます。)「探索のためのゲーム」の章のリード文に書かれている内容が、ワークショップの醍醐味を伝えてくれている素晴らしい文章なので、少し長いですが最後に引用します。

6章 探索のためのゲーム

探し求めていたとおりのものが見つかることなど、めったにありません。意外な結末に至ることが多いものです。探索のためのゲームは、新しいものを発見するために、アイディアが飛び交う世界を舵取りするためのものです。アイディアを組み合わせ、さまざまに解釈しながら、新しい発見に結びつけるためのものです。
探索のためのゲームではパターンを作ったり壊したりします。参加者にパターンを作ってもらうゲームもあれば、パターンを壊してもらうゲームもあります。探索のためのゲームはほとんどの場合、活動の中程で行うと最大の効果が得られます。
生煮えのアイディアで開幕し、自分たちのお気に入りの結論をもって閉幕するのでは、新しいものは何も生み出せません。探索のためのゲームは開幕と閉幕の間にあるスペースを舵取りするためのものです。

ゲームストーミング/Dave Gray, Sunni Brown, James Macanufo 著 P.137 

Shhh inc.は「大切となるものをつくる」を理念に掲げ、よく尋ね、よく対話をすることを通して、物事に備わる美質を深く理解することを大事にしています。Webサイト制作のご依頼や、ブランディングのご相談がございましたらお気軽にご連絡ください。様々な事例とともに、私たちの強みや、制作フローについてご案内します。

● Shhh inc.のWebサイト
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