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#スキな3曲を熱く語る ~あの日、あのライブ、あの瞬間

ライブに普通に行けなくなってもう2年近い。別に大声を出したり揉みくちゃになりたいわけじゃないのだけど、大声を出したり揉みくちゃになってもいいという前提自体がライブという空間の自由さを象徴しているし、その非日常性と解放感は格別だ。スキな3曲を熱く語る、というテーマで今書くならば、かなり元気を失っているライブエンターテイメントへの想いを高めるべく、個人的に節目となったライブで聴いた楽曲に絞ろうと思った。聴けばいつだってあの日、あの瞬間を思い出せるような3曲をここに書き残したい。


SPECIAL OTHERS「IDOL」

初めて行ったライブのことははっきり覚えている。2006年11月25日にマリンメッセ福岡で開催されたASIAN KUNG-FU GENERATION Tour酔杯 2006-2007 「The start of a new season」だ。でかすぎる会場、多い客席、スモークが焚かれまくった空間に戸惑ったこの日。その状況だけでも印象深いが、初めてライブを観たバンドはアジカンではなかったというのも思い出深い。この日はゲストアクトが2組。POLYSICSと当時はメジャーデビュー前だったSPECIAL OTHERSでスペアザが1組目だった。生涯初めて観たバンドはスペアザ。インストバンドから僕のライブ愛好家としての人生は始まったのだ。

「IDOL」という曲を演っていたということは、このライブから暫く経って知るのだが、この曲のことは鮮明に記憶に焼き付いている。ずっと調子を上げ続け、今にも爆発する寸前の期待感のような、ただひたすらに高揚へと誘っていくそんな楽曲でありながら妙に上品でコントロールの効いたストイックな音楽。まぁ、初めて聴いた時はそれらしき感想は1つも思いつかず、ただただ「音がデカい!!」「腹に低い音がずんずん来る、何だこれは!」というようなアトラクション気分でほくほくしていたように思う。そんな原始的な喜びも、じっくり聴いて知ることができる深みも兼ね備えた1曲だ。

インストゥルメンタルという存在も知らぬうちに、インストバンドの爆音を浴びて開通した道は間違いなくある。観た事もない、聴いたこともない、何の情報も知らなかったスペアザがあの日くれた「なんか良いぞ」とい実感は紛れもなく本物だった。その体験は、知らない音楽を知らないまま面白がることだったり、新しく生まれる音楽に果敢に出会っていくことだったり、今なお自分が良い音楽を求め続けていく原動力の1つであり続けている。新たな音楽を探す時、このジャンルは守備範囲外だなぁ、と思ったらば「IDOL」の鍵盤が脳内でテレレンと鳴り始めて、再生ボタンを押させてくれるのだ。


the pillows「New Animal」

初めてのライブは中1で、それ以降は何本かライブに行き、高校に入ってからZepp Fukuokaという会場でライブハウスデビューも果たしたわけだが、どういうわけかずっと2階席で観ていた。背も低いし、1階からだとどうせステージも見えないだろう。それに、立って観る1階席は野蛮な客の集まりで、前の方なんてとんでもないことになっているに違いない。そんな思い込みとどこかで見た断片を繋ぎ合わせたイメージ上のスタンディングエリアのせいで、なかなか1階席のチケットを取るという勇気は出なかった。ステージ全体を見渡せる、2階席の居心地の良さを感じ始めたライブ愛好家初期の話だ。

2011年3月4日、the pillowsの「HORN AGAIN TOUR」Zepp Fukuoka公演。これが初めてスタンディングエリアに降りた日で、「New Animal」がそのトリガーになった。元から凄まじく大好きな曲で、ツアーの中心となったアルバムには入っていない曲だったからもうイントロでウワっとなってしまい、気付いたら2階からするすると降りて1階席に辿り着いてしまっていた。本当はダメなのだろうけどもどうしても抑えが効かなかったし、初めて降りたスタンディングエリアの光景が僅かにあった罪悪感を抹消した。そこにバンドがいて、音を出してるという臨場感。これがライブか、と全て理解した瞬間。

「New Animal」は歌詞が素晴らしいと思う。《誰かになりたいわけじゃなくて 今より自分を信じたいだけ》という言葉は、高校生には響きすぎた。おかげでとことん唯我独尊タイプの人間に仕上がってしまった。アイデンティティの形成に、山中さわおの歌詞はスパイスになりすぎる。そういえば、ネット上で"音楽好きこそ歌詞なんて聞いてない"みたいな奇論が浮上してきた時の居心地の悪さったらなかった。メロディに乗って届くことで、ぶっ刺さることってあるはず。この曲も、2番のAメロで突然声を張り上げ出すのだけど、そこでグッと胸を掴まれる。ハイになる。鼓舞される。勇気の歌だ。


斉藤和義「歩いて帰ろう」

大学1年の夏。福岡、海の中道海浜公園で開催 の「HIGHER GROUND 2012~final~」が初めての野外夏フェスとなった。例年なら夜からの27時間テレビに備えるだけの7月28日、真昼間の野外はだいぶ灼熱。これがライブ愛好家が嗜むという夏フェスか、、と茹だりながらも、フジファブリック、秦基博、NICO Touches the Walls、くるり、スピッツ、1日でこれだけ楽しめるなんて贅沢すぎるだろう!と夕方に差し掛かる頃にはフェスそのものにすっかり虜になっていた。そして夜になり、この日のヘッドライナーを務めていたのが斉藤和義。「やさしくなりたい」の翌年、文句なしのトリ抜擢だ。

「歩いて帰ろう」はアンコールで演奏された。最後に聴くには相応しすぎる1曲、モータウンのリズムってどうしてこんなに楽しいんだろう!とニコニコ聴いていたら、最後の最後にこの日、昼に出演していたフジファブリックとくるりのメンバー、そして当時2バンドをサポートしていたドラマーBOBOさんがやってきてステージ上はかなり賑やかしい状態になった。今でこそ、フェスのシメにはこういう大団円は稀にあるが、初めてのフェス、疲弊の先に大好きなバンドたちが寄り集まっているショットは最高にインパクトがあった。フェスの持つ祝祭感、多幸感のようなものを洗礼のように頂けた。

夏フェスが急成長を遂げレジャーとして地位を上げた2010年代、その盛り上がり至上主義なノリであったり、やんちゃな客のマナーであったりが目立つようになり、正直眉をひそめてしまうことも多々あった。しかしながらこの2年、失われた夏フェスのそんなちょっとイタい光景までどこか懐かしく思えてくる。様々な人が密になって集まること、そこで生まれる価値観の齟齬や楽しみ方の衝突こそ、フェスの醍醐味だったようにも思えてくる。《たのみもしないのに 同じような朝が来る》、そんな日々から抜け出すためにフェスやライブは様々な人の逃げ場所になってくれていたのだと今なら思える。


これを書いている内もライブを思う気持ちはこんこん高まっていく。記憶を上回るような、驚異的な瞬間を求めてまだまだライブには行かないと、だ。

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