仙道習得への5段階

 これまで仙道を中心に説明してきました。それは仙道が神仙道やヨガに比べると体系立っていて、「老子道徳経」「荘子」という明確な教科書があるからです。ヨガもヴェーダがありますが、難解ですし、日本の神仙道に至っては集大成と言える書はありません。また、仙道の多くが気功法として一般に流布しておりますから、参考にしやすいというのもあります。なので、仙道を中心に解説していき、日本の神仙道やヨガとの比較をする形で進めていきます。
 
 さて、仙道は気を通じて道(dao)を体得する技術です。気は万物に宿り、全ての現象は気の活動と集合離散によって顕現します。道は万物の奥に隠れている為に一般的に見られることはありませんが、その働きは気によって起こされます。
 
 仙道の行法には五つの段階が設定されています。
 第一段階が斎戒養生です。斎戒は身体を浄めることであり、養生は生を養うことです。ここで一つ気を付けていただきたいのは、通常「養生(ようじょう)」というと「健康を保つこと」「怪我や病気から健康を取り戻すこと」を指します。しかし、中国語で「養生(便宜的に日本の気功師ではようせいと読むことが多い)」は読んで字のごとく生を養う。つまり、今より健康になろうという意味になります。身を浄め、生を養うということは、体内の気の巡りを調整して正常な状態に戻すということです。
 その方法には導引(一般的な気功法)、吐納(呼吸法)、服気、食餌、房中といった技法があります。これらは現代で言うと気功法に当たり、気と身体のバランスを整えることで養生する方法です。
 導引とは身体を動かす(動功)によって気血を整える方法です。中国のお年寄りが公園でやっているものをイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
 吐納は呼吸法です。単に深い腹式呼吸をするだけでなく、気を溜める時や循環させる時に様々な呼吸法を用います。ラージャ・ヨガで用いられる呼吸法ほど複雑ではありませんが、仙道、神仙術共に特有の呼吸法があります。
 服気は気を外、特に大気から取り入れる方法です。食餌は文字通り、外からと言っても食べ物から気を取り入れる方法です。房中は性交によって気を二人で循環させる方法です。
 
 第二段階が意識の制御になります。意在先と言われるように、全ての気の流れには意識が作用しています。普段生活をしていて分かるように、人間の意識は外の事象に引っ張られていきます。それを身体の中に固定して気が散るのを防ぐためで、総覚法や内観法などがこれに当たります。
 
 第三段階は意識や呼吸によって体内に蓄積した精気を臍下丹田に集めて、それを体内に循環させることによって、濁気を捨てて、清気を補うもので、行気、練丹、小周天などがこの技法になります。
 
 第四段階は坐忘です。普段生きている時に働いている自我の意識を手放し、全てが気で構成されているという自我と宇宙との一体化を体験します。いわゆる道の体得です。
 
 このように、仙道は身近なところから始めて一歩ずつ段階を経ながら、気を用いてやがてそれを体得していくという手順を踏みます。しかし前述したように体得だけでは信天までで止まってしまい、法天には至らないので、仙道の目的に適ったとは言えません。
 そこでさらに第五段階があります。それはこの体得した道に従い、日常生活も生きていくということです。老子や荘子の教えの実行ということになります。それによって人生は豊かになり、金銭や地位、名誉といった耳目から入ってくる外の世界に左右されない、揺るぎない幸福を得ることができます。そういった状態になることが仙道の最終目的となります。これまでの四段階は第五段階に至る為の土台作りと言えます。
 仙道から派生した現代の気功法は、心身の健康を保つ養生法として注目されておりますが、本来は健康法ではなく、こうした生き方を学ぶための行法の一つでしかありません。道を追い求める過程で、心身の健康や武術的な気や超能力、絶対的な幸福を得られますが、これらは全て副産物に過ぎません。
 
第一段階 斎戒養生門
第二段階 安処制感門
第三段階 存想統覚門
第四段階 坐忘還元門
第五段階 神解自在門
となります。ちなみに日本の神仙道では第二段階の安処制感門がバラエティー豊かなやり方がありますので、説明の際に仙道のやり方に加えて後述したいと思います。また、行法の補助として呪符や呪文も多く引き継がれていますが、これらは割愛したいと思います。

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