石を食べる

 石を食べたい、と思った。

 鉱物を食べたい。好きな石を食べて、石と一緒になりたい。鉱物の殆どがきっと消化されないはずだから、取り出さない限り、排出されない限り、石と共にあれるわけだよね。炭酸カルシウムが主成分とかだったら、きっとガスを出しながら胃酸に溶けていくだろうけど。コーラルとかじゃなければ大丈夫かな?

 食べたい石を一通り書いてみる。夢色のオパール。鮮やかで芳しいシトリン。爽やかな風が吹きそうなペリドット。星空を閉じ込めたようなラピスラズリ。鋭い熱色のガーネット。スパイスが効いてるルチルも良いかも。うーん、美味しそう。
 でも私が今一番食べたいのは、浅煎りのコーヒーみたいなスモーキークォーツなんだよね。

 クォーツにはファントムクォーツと呼ばれる、別の物質を内包するものもある。透明の石の中に模様が描かれてるのは本当に綺麗だし、何より浪漫を感じる。虫入りの琥珀もそうだけど、何か透明のものに包まれて固定されたものって、なんであんなに魅力的なんだろう。
 
 ファントムクォーツは、外側の石が出来上がる時に、別の物質が入ることで成る。私がもし石だったら、鉱物を食べることで、ファントムクォーツみたいになれるんじゃないかしら、なんて。石は冷たくて綺麗で完璧。素敵。

 私の好きな作家の一人、長野まゆみ氏の作品の中に、『鉱石倶楽部』という本がある。これは私の願望を煮詰めたかのような作品集で、鉱物をモチーフに幻想的なお話が纏められている。石を食べたいと思う人は一度読んでみたらいいと思う。お腹が空くから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?