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【ショートストーリー】ユアミロワール<鏡の裏側より>

先日夏ピリカさんに応募したお話の続きです。よろしければどうぞ♪

https://note.com/shige0912/n/nae247c90d4ff

私と彼女の付き合い?
そうね。彼女のお嫁入り道具としてだから、もう10年になるわ。

彼女は父方のおばあ様から結婚祝いとして私を受け継いだの。

あの方はそれは愛らしくて、利発でおしゃれだったわ。
日本人が外国に行くのが珍しい時に、新婚旅行で行ったパリの蚤の市で私を見つけて目を輝かせてたのを今でも覚えてる。


だけど、息子を甘やかしすぎたのは失敗だった。
つまらない女と結婚したから、いつ処分されるかと思って冷や冷やしてたの。母親を通さずに彼女に私が手渡されたのは、本当に良かったわ、あの子にとっても。


ところで。
人の亭主をバカ呼ばわりするのは嫌だけど、あれはちょっと無いわ。
自分の妻を着飾らせることも許さずに「男の甲斐性」だけをアピールする男。
相手の女も女よ!あの亭主が着ているワイシャツやプレスのきいたパンツ。あれは彼女が毎日汗だくになってケアしてくれているからこそ。

だいたい中年の清潔感は奥さんあっての賜物よ!
内助の功って案外嘘じゃないと思うわ。
だって見てごらんなさいよ、独身の40代男性のどれくらいが自力で身ぎれいにしているかしら。

――ああもう!言い過ぎたわよ!
ちゃんとご自分でケアされている殿方も居ることくらい知っているわ。
だけど、彼女のバカ亭主は違ったの。それだけよ。
一般論にしたのは悪かったわ。


私はね、毎日鏡を覗き込んではため息をついている彼女に話しかけるチャンスをうかがってた。
彼女、ああ見えてセンスがあるし、手先も器用なの。

ハンドメイドでお友達の娘さんの入園キットを作っていたら評判でね。旦那の見ていない隙に押し入れからミシンを取り出して、一生懸命縫物をしているの。
裁ちばさみも良いのを使ってるのよ。おばあ様の遺伝の美的センスと手先の器用さで誰にも真似できない作品を生み出している。

一生懸命お金をためて、いつか自分のお金であのバカ亭主と旅行に行くのが夢だったのよ。バカにされても一生懸命だったの。


――え?泣いてなんか無いわ、気のせいよ。

ねえ、女の10年って貴重だと思わない?
その貴重な時間を使って尽くした挙句が
「誰のおかげで飯が食えてるんだ」
こんな事って、あるかしら?

誰のおかげ?
あなたの稼ぎと彼女の内助の功のおかげよね。どっちが欠けてもダメよ。
そもそも彼女が支えてくれなきゃ、稼ぐことも出来やしないじゃない。そんな事も10年一緒にいてわからなかった?


悔しかったわ。この子はこんな扱いを受けていい子じゃないもの。
だから入れ知恵したの、ちょっと脅かしてやりましょうよってね。

あの子はおばあ様に似て、首も長いし短い髪が似合うわ。
これからは誰にも邪魔されずに生きていきなさい。



困った時は鏡を覗き込めばいい。
いつだって私が付いているわ。


<FIN>


あとがき>続きを読みたい、と言ってくださった方がいたので(鏡の中の人のモデルです)書いてみました。

鏡の中の人がどんな思いで彼女に声をかけたのか。
それが伝わったら嬉しいです。

ちなみに中の人のモデル(林モニカさん)はこんなに口が悪くないです。

こちらもお楽しみいただけると嬉しいです♪


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