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スウェーデンの”寅さん”

 以前、別の記事で「北欧映画に関心がある」ことを書いた。
 その後もいろいろ観ている。

 先日、2010年にスウェーデンで公開された映画である『シンプル・シモン』(日本公開:2014年)のDVDを、妹から借りて観てみた。

 初見の感想で言うと、この映画はとにかく主人公、シモンのキャラクターが強烈で、まるで近々にAmazon primeで観た『男はつらいよ』の主人公、寅さんのようだと思った。

 いつものように、『シンプル・シモン』のあらすじを簡単に解説すると、

 アスペルガーの主人公、シモンはこだわりが強く、嫌なことがあるとドラム缶の中へ閉じこもってしまう。兄であるサムとその彼女が住むアパートで一緒に住むことになるが、あまりのシモンの変人ぶりにサムの彼女は愛想をつかし、出ていってしまう。失恋の悲しみに暮れるサムのため、新しい恋人を探すべく奔走するが…。

と言ったようなストーリーである。

 本編全体を通じ、主人公のこだわりの強さや、変人ぶりが随所に強調されている。
 例えば、とにかく時間に正確で、分刻みで動いていたり、触られるのが極端に苦手だったり、毎日決めた料理しか食べなかったりするなど、アスペルガーの主人公と言うことになっているが、実際には自閉症も少し入っているのではないだろうか。実際にアスペルガー(現在は自閉スペクトラム症に統合されているが)とか、自閉症は混ざり合っている面もあり、一筋縄ではいかないものである。

「スウェーデンの”寅さん”」とタイトルに謳っているが、後述するようにそれぞれ作品の方向性やディティールもかなり異なっている。

 だからといって、両作品の共通点がないわけではない。

 共通点を述べるとまず、両作品とも喜劇であることは間違いない。ストーリーより人物重視で見せている。よって、個々の登場人物の醸し出す雰囲気やらおかしみやらが強調されている。
 そして、それぞれ主人公を支える家族が登場する。メインとなる人物をとってみても、兄弟、あるいは兄妹という図式は同じである。これにマドンナとなる人物が現れる、といった恋愛要素が追加されている。
 さらに、シモンと寅さんの正確も大まかなところで共通するのではないかと思う。すなわち、主人公がいずれも変人奇人かつトラブルメーカーで、おせっかいであるところは両作ともに同じといって良いだろう。

 しかしながら、主人公のキャラクター面はさることながら、物語全体の方向性も大きく異なっている。

 まず、キャラクター面の違いであるが、『シンプル・シモン』のシモンは、本編の最初の方では、表情に乏しく、他者に関心がないので、より自閉傾向が強調されている形になっている。
 これに対し、『男はつらいよ』の寅さんは、表情が実に豊かで、かつべらんめえ口調の超饒舌である。また、寅さんは、他者への関心はあるようであるが、ここ肝心なところで本性が出てしまい、結果として空回りしている様子なので、ここからしても、シモンの性格づけとはかなり異なっていることがわかる。

 ついで、物語全体の方向性の違いについて。『男はつらいよ』の場合は、「人情」をテーマとしているため、良くも悪くも人との繋がりを感じさせる作品である。そして『シンプル・シモン』よりも登場人物ははるかに多い。
 対して、『シンプル・シモン』は、割と、主人公であるシモンのキャラクターを軸に動いているような感じである。こちらは物語の流れとしては、自身の平穏な生活を取り戻すところに主眼が置かれているが、最後になって、シモン側にちょっとした変化が起こりうる。この辺りは、「風の向くまま、気の向くまま」に動く寅さんとは、だいぶ趣が異なる。

 また、『シンプルシモン』は、兄の新しい恋人探しに奔走した結果、シモンにちょっとした変化が起こる予感を残して終わるのだが、『男はつらいよ』はシリーズを通じ、寅さんの恋が実ることはない。いつも振られてしまって最初と同じく放浪の旅に出てしまう。
 すなわち、寅さんは物語の始まりと終わりで、変化していないのである。もちろん、周囲の人物は少しづつ変化しているのだが。

 このあたりを比較してみると、両者は全く物語の構造が違うと言うことがわかり、私がいわゆる「記憶違い」をしていたかがバレてしまうのである。

 ただ、洋の東西問わず、「ちょっと変わった人」は存在しているし、そういう人物たちへの向き合い方、翻弄のされ方が違いのポイントになるのかな、と思った。
 そしてこの違いを、それぞれの地域で深めていくと、『シンプル・シモン』になったり、『男はつらいよ』になったりするのであろう。

 そして、両作品は上映時間が短い。『シンプル・シモン』は86分、『男はつらいよ』は概ね90分で、コンパクトにまとめられているのが特徴。日本の『男はつらいよ』の場合、プログラムピクチャーで併映作品なのだが、本作がその種のものなのかは不明である。
 また、『男はつらいよ』はいうまでもなく、『シンプル・シモン』でも、主人公を取り巻く周りの人物、特に端役のような人物までもがユルくて、ほのぼのとしている。
 特に主人公の上司が自由人っぽく、事務所でダーツしているところは、思わず爆笑してしまった。

『シンプル・シモン』と『男はつらいよ』。

 それぞれ、物語の進むところは、かなり異なっているものの、いずれにせよ、人物重視の、心温まる映画であることには間違いない。

 そう思った。

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