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ベルンシュタインから考える

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ロシアの運動生理学者・ベルンシュタインの考えをまとめています。
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#21 ベルンシュタインから考える15『巧みさとその特徴』その2

#21 ベルンシュタインから考える15『巧みさとその特徴』その2

巧みさの核心
これまで述べてきたように、巧みさの特徴は「資源を利用すること」です。この資源を利用する際には、「受動的」な側面と「能動的」な側面が存在します。

「受動的な側面」は、動作の着実性あるいは安定性と呼ぶことが出来ます。例えば、外乱の影響を受けながら、動作を遂行したり、運動課題を解決したりする際に役立ちます。

一方、「能動的な側面」は、運動の先見性として理解できます。つまり、環境による外

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#20 ベルンシュタインから考える14『巧みさとその特徴』その1

#20 ベルンシュタインから考える14『巧みさとその特徴』その1

ついに最終章突入です。
今回から、「巧みさ」について考えていきます!

巧みさとは何か?
早速ですが、次のうち、巧みさが現れているのはどちらでしょうか。

短距離走者がトラックを走っている。彼はライバルたちを一気にごぼう抜きして先頭でゴールした。そのフォームはとても美しく、無駄のない動きであった。

兵士は敵より先に目的地にたどり着かなくてはならなかった。森の陰に隠れる敵を察知し、相手の動きを予測

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#19 ベルンシュタインから考える13『練習と運動スキル』その2

#19 ベルンシュタインから考える13『練習と運動スキル』その2

前回は、「背景レベルに委託する段階」までの話でした。今回はさらに掘り下げていきたいと思います!

動作の自動化ベルンシュタインは、「自動化は、背景で働く自動性を新たに精緻化し、動作の調整をひとつずつ低次のレベルに切り替えていくことであり、止むことのないプロセスである」としています。

これは適切な背景レベルでの調整が強化され、その後に背景レベルが先導レベルから独り立ちし、新たな自動性を引き受けるよ

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#18 ベルンシュタインから考える12『練習と運動スキル』その1

#18 ベルンシュタインから考える12『練習と運動スキル』その1

今回からは、練習による可能性と運動スキルについて見ていきたいと思います!

練習可能性について
哺乳類のような生物では、ある活動の経験を長く積めば、その分だけ実施した動作や活動が上達します。このような特徴を練習可能性と呼びます。

つまり、動作や行為の繰り返しは、何度も(より良く)運動課題を解決し、解決に至る最良の方法を発見するために必要とされるのです。

生物(主に哺乳類)は生きていくなかで、突

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#17 ベルンシュタインから考える11『動作構築のレベル』その5

#17 ベルンシュタインから考える11『動作構築のレベル』その5

前回まで各レベルについて見てきました。
今回は、そのまとめになります。

巧みさの種類について
巧みな運動とは、先導レベルと背景レベルの2つの特徴を持ちます。

先導レベルでは、切り換えが可能で、資源を利用し、機動性がある点を指します。また背景レベルでは、調和がとれている、従順で正確に仕事をこなす、という特徴を持ちます。

この関係を『騎手』と『馬』に例えると、巧みさは、想像力を働かせ起点のきく騎

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#16 ベルンシュタインから考える⑩『動作構築のレベル』その4

#16 ベルンシュタインから考える⑩『動作構築のレベル』その4

レベルD:行為のレベル
早速、質問です!

人間よりも速く走れる動物は?

人間よりも高くジャンプ出来る動物は?

人間よりも上手に泳げる動物は?

どの質問にも、いくつもの答えが浮かぶのではないでしょうか。しかし、今回テーマの『レベルD』の観点からすると、状況は一変します。

レベルDは『人間のレベル』と呼ばれます。人間に近い類人猿でさえも、レベルDの動作は多くなるものの、行為の動作はごく僅かな

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#15 ベルンシュタインから考える⑨『動作構築のレベル』その3

#15 ベルンシュタインから考える⑨『動作構築のレベル』その3

今回はレベルCの話です。

これまでのレベルAやレベルBでは、無意識下や半不随意という分かりにくい段階でした(>_<)苦笑

しかし、このレベルCは全てのスポーツや競技動作に必要な背景調整を担っています。

これまでより、大分イメージしやすいと思います!それでは、早速レベルCを見ていきましょう!!

レベルC:空間のレベル
これまで述べてきたように、遠隔受容器の発達により認識できる空間が広がり、ま

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#14 ベルンシュタインから考える⑧『動作構築のレベル』その2

#14 ベルンシュタインから考える⑧『動作構築のレベル』その2

前回はレベルAの話でしたが、今回はレベルBの話です。

レベルB:筋-関節リンクのレベル
このレベルBは、もともと移動運動を行う際に発達したと考えられています。

残酷な例ですが、カエルやニワトリの頭を落とされても、その後少しの間は歩けます。この役割を果たすのがレベルBなのです。

しかし、現在は移動運動のレベルではないとされます。大脳の発達により、その役割を終えることになったのです。

では、今

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#13  ベルンシュタインから考える⑦『動作構築のレベル』その1

#13 ベルンシュタインから考える⑦『動作構築のレベル』その1

動作のレベル分け
今回から『動作』をレベル別で見ていきたいと思います。

ベルンシュタインは、動作を以下のようにレベル分けしています。

『緊張(トーン)のレベル(レベルA)』

『筋-関節リンクのレベル(レベルB)』

『空間のレベル(レベルC)』

『行為のレベル(レベルD)』

それぞれのレベルを単独で捉えるのではなく、階層的また相互的に考えていく必要があります!

今回は、『緊張(トーン)

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#12  ベルンシュタインから考える⑥『動作の構築について』

#12 ベルンシュタインから考える⑥『動作の構築について』

前回まで、動作の起源について(①・②・③ )見てきました。

今回は、人間の発達について考えていきたいと思います。

生物発生の法則
ヘッケルという生物学者は、自然界における生物発生についての法則を挙げています。

祖先のたどってきた進化系統的発達の主要な段階のすべてが、その種の個体的発達の初期に要約されたかたちで繰り返される。

これは、どういう意味でしょうか。

少しイメージしにくいかもしれな

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#11 ベルンシュタインから考える⑤『動作の起源について』その3

#11 ベルンシュタインから考える⑤『動作の起源について』その3

前々回は生命の誕生について、前回は横紋筋の発達についてでした。

今回は、脊椎動物の進化についてみていきたいと思います。

脊椎動物の進化
横紋筋の出現により、①感覚による調整、②体肢の発達、という2つの進化が起こります。

①感覚による調整については、『運動制御について』で説明した通りです。

高度に発達した動物は、感覚が動作に先立つとされます。
逆に、下等な動物では、動作によって感覚が提供され

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#10 ベルンシュタインから考える④『動作の起源について』その2

#10 ベルンシュタインから考える④『動作の起源について』その2

前回は、生命の誕生から原始的な知能が発達するまでの話でした。

今回は、その後の話です。

横紋筋の発達
原始的な知能の発育に続く大きな進歩として、横紋筋の出現が挙げられます!

横紋筋は、それまで古い筋細胞である平滑筋とは大きく異なる特徴を持っていました。

横紋筋は、ハエや蚊などの羽根が毎秒数百回も羽ばたくように、生命に力強い素早いエンジンを与えました。

これにより、のそのそと動くことしかで

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#9 ベルンシュタインから考える③『動作の起源について』その1

#9 ベルンシュタインから考える③『動作の起源について』その1

生命の始まり

今回は、動作を理解するために「生命の始まり」を考えてみたいと思います。

時間的な尺度を考えると、地球上の生命が誕生してからの長い歴史の中で、人類が誕生したのは「つい最近」の出来事です。

※著書には具体的な年月が記されていますが、現在は異なっているとの見解のため、ここでは割愛してます。

このため、人類の動作について議論するには、生命の発生について考えるのが妥当であると考えられま

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#8 ベルンシュタインから考える②『運動制御について』

#8 ベルンシュタインから考える②『運動制御について』

今回は、

運動の組織化はなぜこんなにも複雑なのか?

この問いからスタートします。

ベルンシュタインは、この問いに3つの答えを挙げています。

1. 運動器

人間は極めて細かな動きをします。

特に、人間は他の動物と比べ、肘より先が有利とされます。
具体的には、前腕回内外(肘を固定したまま、手のひらを上下に向ける動作)や対立動作(親指と小指をくっつける動作)が出来るのは人間とサルだけです。

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