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『往復書簡』(仮)30復信

Sさんへ

こんにちは。
何だかSさん、変わったね。もちろんいい意味で。僕も嬉しい。
僕の成績なんて聞いてどうするんだろうとは思うけれど、まあ、上の下あたりじゃないかな。科目にもよるし。
僕の学校は進学校と言われる中に入っていて、上位者を発表する教師もいる。それでテストで100点取るとか、成績表に10を並べる(うちの学校は10段階評価)ことに血道を上げている奴らもいるけれど、70点を90点にするのと90点を95点にする努力は同じくらいだと考えているから、僕はまだ、100点を取るための時間を読書に当てたいと思っているし、そうしている。
偶然だけど、僕も塾ではなく参考書を使っている。というより、教科書は一回しか読まないし、授業中もほぼ復習している感じで、場合によっては他の教科の参考書をやっていることもある。つくづく思うけれど、教科書には肝心なことが抜けている。何と言えばいいか、ストーリーとでも言ったらわかるだろうか。それを教科書を使って語れる教師もいるし、その授業はちゃんと聞くけれど。
僕は推薦で大学へ行こうとは思っていないし、人それぞれ、生き方がある訳だから、みんな好きにしたらいい。ただ、僕のことをとやかく言ってくる奴には説明しても始まらないし、向こうが納得しやすいことを言うことにしている。
僕はとんだ大嘘つきだよ。
少し話はそれるけれど、専門科目に僕は書道を選択していて、その担当教員がとても面白い人でね。墨汁を使わせないんだ。授業の半分は墨をすることに使う。俺が教えるのは習字じゃなくて書道だってね。授業中は私語厳禁。まるで坊主の修行みたいだよ。
その人は講師だから書道部に入っても仕方がないし。何度か授業の後、話してみたんだ。それで、ああ、この人は芸術家だって思った。講師はあくまでアルバイトであって、適当にこなすこともできるのに、僕らに芸術とは何かを伝えようとしているんだってね。 いくつか作品も見せてもらったけれど、墨の色が一色じゃないってことにあらためて気付かされた。紙や墨、その組み合わせまで、こだわりがすごくてね。書道家としては当然のことなんだろうけど。だからといって僕が書道家を目指そうとは思わない。そういうことではないんだ。
久しぶりに化学部の部長だったN先輩のことを思い出したよ。
ではまた。


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