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「良いデザイン」と「悪いデザイン」の見分け方

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。


「良いデザインと悪いデザイン」の見分け方

デザイナーではないひとが、デザインの良し悪しをどう判断すればよいのでしょう。いやデザイナー自身だって、デザインの良し悪しをちゃんと判断できているのでしょうか。

さて、わからないままでも一度考えてみたいと思います。良いデザインとは、どんなデザインでしょうか? これがわかると自ずと悪いデザインもわかるはずです。良いデザインとは、おしゃれでクールなデザインでしょうか。たとえばデスク。

フランスのデザイナー、ピエール・ポラン(Pierre Paulin)がデザインしたデスク、F031
卓上にある照明は、アルネ・ヤコブセンがデザインしたルイスポールセンの照明AJ
合計30万円以上。ちなみに卓上の時計は、ディーター・ラムスがデザインしたブラウンの時計。
画像引用:METROCS

こちらは、フランスのデザイナー、ピエール・ポランが1950年代にデザインしたデスクに卓上の照明は、デンマークのデザイナー、アルネ・ヤコブセンがデザインしたルイスポールセンの照明AJテーブルです。おしゃれ!素敵!デスクが約20万円で、照明は13.5万円ほど。これが「良いデザイン」でしょうか。

こたえは、「場合による」です。場合?場合って何?たとえば、こどもが勉強をするための机としての場合はどうでしょうか?その場合、引き出しはもっと欲しいし、照明は目に優しいが、影があまりできないようなものが良さそう。そして勉強するなら、スタディングデスクのほうが科学的に良いかもです。ならば、このデスクや照明は、この場合、「良いデザイン」ではなさそうです。これが、場合です。

デザインというものの本質は、「機能」です。『“デザイン”と“アート”の違いとは?』という記事でも触れましたが、アートというものが「個人から自分以外の人間に向けた問いかけ」であるのに対して、デザインは「見た目や形が担う機能」です。言い換えると、デザインは、従者なんです。御主人様がいないと存在している理由がないものです。御主人様とは、使う者が持つ「目的」です。先の例で言えば、「子供が勉強や作業、読書をするのに予算の範囲で、できるだけ適したデスクを用意すること」というのが目的です。これが御主人様です。

注意散漫になる(興味があることが非常に多い)子どもたちにとっては、もしかしたら、こんなデスクが良いデザインかもしれません。

スタンディングデスクを使うとADHDの子供も授業に集中できるという説もあります。
Credit: Fluidstance via Standing desk for kids basically rewards squirming

良いデザインとは何か、判断するためには、目的が必要

目的なきところにデザインは存在できません。これは、グラフィックデザイナーがクライアントに「誰に何をさせたいのか?」という質問を頻繁にする理由です。クライアントは「かっこいい、取っておきたくなるようなパンフレットを作って欲しい」だけなのに、デザイナーが「コンセプトは?」とか「狙いは?」とか「どんな人に?何をして欲しい?」と尋ねてきて、じれったく思うことがあるかもしれません。しかし、「かっこいい!」と思われることとデザインの目的はイコールではない場合もあります。クライアント側のしたいことが、デザインの目的であり、存在意義となるため、それを知らずして、デザインできないのが、本質です。また、本質としては、デザインの御主人様は、クライアントではなく、クライアントが持つ目的だったりします。一方で、デザイナーの目的は、より良いデザインよりも継続的な仕事と収入の拡張でもあったりします。本質と実利には、ちょっとしたギャップもあったりします。それを調節するのも必要ですが、ここでは脇においておきます。

例:パンフレットのデザインの良し悪しをどうやって判断するのか?

制作するとき、何のために作るのか?意外なほど忘れてしまうことがある
画像引用:新晃社「【よく分かる】会社案内パンフレットを制作するポイント」

デザイン会社からパンフレットのデザイン案が提案されきたとします。このとき、クライアント側もデザイン会社側も事前に共有してもっている必要があるものがあります。それが、(しつこいですが)「目的」です。目的は、絵に描けるくらい具体的なほうが良いときと、ぼんやりしていても良いときがあります。ぼんやりしていても良いのは、「とりあえず作ってみてから、何が良くないのか見つけてみよう」という姿勢の場合。デザインに正解はなく、それが意味するのは、ちょっとギャンブルが入っているということです。「やってみないとわからない」という部分があるわけです。それでも、何が目的なのかは、時間が許すだけは突き詰めておいたほうが良いです。なぜなら、それがなければデザインできないし、そして検証すらできないから。入社希望者数をふやすというのが目的だとして、どんな人にむけて、どんな気持ちを沸かせたら企業に興味を持ってもらえるのか。そもそもパンフレットで訴求できるのか?

本当は、こんな話をクライアントとデザイナー側やディレクターと何度かすることのほうが重要だったりします。しかし、この話し合う時間にお金を払うって意識はなかなか生まれにくい。もったいない話ではあります。

さて、上がってきたデザイン案の良し悪しをどう判断するのか? 大雑把な要点は3つあります。

(1)現在の王道を知る
(2)受け手側の反応を知る(または予測する)
(3)結果を検証する

(1)現在の王道を知る

ある料理を美味しいかどうか判断するには、いくつかの美味しいを知っている必要がある
By DC - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=20600094

こんなのデザイナー側でやれよ、と思いそうになりますが、是非を判断するのはクライアント側です。喩えるなら、料理。デザイナーが料理人。クライアント側は食べる側です。料理人が出してきた料理を「美味しいかどうか判断する」必要がある、そんな状況と似ています。このとき、精査すべき料理が「ペンネ・アッラ・アラビアータ」だとして、他の評判の良い店で出しているこの料理を食べたことがなければ、判断できません。よしんば、「美味しい!」と思えたとして、わたしたちの「美味しい」は相対的なものです。とても美味しいものを多く食べている人の「美味しい」と、普段コンビニの弁当をメインで食べている人の「美味しい」はイコールではありません。デザイナーと一緒にでも良いし、デザイナーにコンパイルしてもらうでも良いですが、作るもののスタンダードを知る必要はクライアントにもあります。よく考えられたものから、さしてコストも掛けていないのに良い結果を出しているものまで。たっぷり時間を掛けなくても良いけれど、「このあたりが良いデザインだ」というコンセンサスをチームで共有できる状態になる必要はあります。

(2)受け手側の反応を知る(または予測する)

唐突ですが、一部のグラフィックデザイナーは、文字を小さくしたがります。これは、「わかりやすさ」=「バカっぽくなる」というデザインの性質による影響です。名刺の文字を大きくすると、子ども向けのような気配が出てきます。(子ども=バカじゃないですよ。でも子どもより大人は知識があり、判断能力が高い。)これの「逆」が「わかりにくさ」=「頭良さげになる」。名刺の文字を小さくして、バランスをグリッドで取ると、けっこう「ぽく」なるんです。しかし、作る名刺を渡す相手の年齢層が40代後半以上だった場合、これは良いデザインではなくなります。電話番号もメールアドレスも読みにくい。これでは目的とズレてきてしまいます。デザインとは、機能なので、目的という御主人様がいます。しかしデザインには、エステティック(aesthetic)という評価基準を持っています。これが、ときどき目的を上回ることがあります。でも御主人様は、目的です。名刺を渡す相手の年齢層が、細かい文字が見づらい年齢層なら、載せる情報を必要最低限にして、文字を見やすい程度まで大きくする方が「良いデザイン」となります。造り手も送り手も、想定しづらい受け手のことをよく想定してみるとデザインの良し悪しが判断がしやすくなります。

(3)結果を検証する

それでも、デザインには正解がないため、「やってみないとわからない」部分が残ります。やってみてから良かったのか、悪かったのか検証することで、より良いアプローチの発見に近づいていきます。また現代のビジネスシーンはスピードがものすごく早いので、準備を完璧にしようとしている間にシーンが変わっていることが多くなってきています。だから「やりながら調整していく」くらいのほうが良い場合があります。この場合でも、やっぱり目的というものが造り手であるデザイナー側とクライアント側でシェアしている必要があります。なぜならこれがないと検証できないから。一度も失敗しないで良いものを作ろうとする試みは、予算の全額使って1つの銘柄の株を買うようなものなんです。本当は、一緒に何度か失敗することができるクライアントとデザイナーの関係が理想なんです


まとめ

本文では触れていませんでしたが、日本では特にその傾向が強いように思うのですが、クライアント側は、デザインの知識が必要以下であり、デザイナー側も経営戦略の知識が必要以下しかない場合が多い。デザイナー側はときに良い紙、凝った加工、特色を使って、デザインの雑誌で紹介されるようなものを作りたくなったりします。クライアント側は紙なんてなんでも良いし、フォントにお金をかける意味がわからなかったりします。この両者においては、目的の共有とそのための知識が欠落しています。こういった状況を打破してより良い合目的なデザインを作り上げるには、やっぱり、

一緒に何度か失敗することができるクライアントとデザイナーの関係

が理想なんです。そして情報を共有し、話し合う時間にこそお金と時間をかけたいところなです。あれ?話がズレましたか。良いデザインと悪いデザインの見分け方でしたね。それは、端的に言えば、目的と合致しているか、が分水嶺です。でも、「目的と合致しているか」どうかを判断できる環境が、上記の一文なんです。

世に出したあとに、あれが良かった、悪かった、という話ができることはお互いにとても有益です。しかし、その話ができる相手かどうかはまた別の問題になってきます。ということで、次回は「良いデザイナー」と「悪いデザイナー」の見分けた方を解説したいと思います。


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