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『かきごおり』

〇書下ろし詩集『かきごおり』

1.ほとぼり

朝の匂い 嗅いで大人になった 白いシャツの幻が日によく映えて

足跡消す水たまり 信号機の白線つま先 こどもたち

よく遊べと僕に言うように見つめる透ける視線の先に遠く

遠く青く霞むような時間


2.光線

蜘蛛の巣に からまってしまって悩んでた

明日の匂いたどり着けずに 藻掻く 糸の粘着が伸びて

月に かけられたらいいな 上弦の月

ぼくらいつまでだって遠くまで助走つけて走り抜けたいよ


蜘蛛の巣に からまってしまって後悔

この先に光るようなきらめきは糸張り巡らす蜘蛛

掃けない空を見上げてはひとすじきらめく流れ星が

真昼の空

少し眠たかった

誰もいないのに いつも いつも


3.月

だいじょぶ きらめくいつも通りの午後の

木陰に悩んで風の吹く方

確かめても確かめきれずに悟る方がはやくて

どこまでだって いけると思ったとき

どこかはどこかって 考えてしまうような回路が

いつまでたっても螺旋の 月が浮かぶ ボートの波

暗い空の月が それはそれは

水面に映る それはそれは 美しい 美しいけれど


ぼくがぼくのつま先を見たときみえる大地の幅よ

その解釈に眠る 毎夜、毎夜

先端恐怖に悩んで、満月早く来ないかな


4.やみよのみちくさ

幹線道路の端にゆれてた ぼくの道草

夏の夜の星のきらめく 小さな町の すみっこで

夜風がぬるく ぬけてゆく

足場の雑草がゆれてくゆる 煙みたいだ 夜の中で

僕らは怠惰 よくわからないなら サイダー

飲み干して甘さに残す言い訳はいつも

吐き切る ずっと吐き切りたいと思ってる

はっきりしろ って背中の闇はやみやみいつも夏に隠れて

正体明かさず消えていく やになってしまうな


5.網戸

網戸の奥のどこかの明かりの微か

忘れないで タバコくゆるとき だれかが泣いてた

忘れられない ほこりのにおいはどこかの夏に

置いてけぼりなら 戻れないよ


くしゃみのあとの間に 静けさが染み入り

そのままどこかへいってしまいそうになった ああ

あのままいってしまえば きっと

たどり着いたはずなのに 

どこかはしらないけど

うずく掻きむしる心かかえだれもが生きるのなら

みてみたい みてみたいじゃないか 先

網戸の埃の時代を鼻ですう そのまま脳にノイズ行き渡れ

て、いつも思うけれど ぼくは

眠ってしまうよ やすらかな 

夏の夜に


6.風

青波 風の通り道

ぼくのかお もぬけていく

ありがとうと 伝えたいのに

いつも風は

ふりむきゃしない


いつだっけあの遠いそれは遠い夏の日に

その真夏の午後入道雲見上げて

時間さえ止まった気がしたあほみたいに

口明けたまま立ち尽くす 幼き影に

となりにいた気がした 風

あのときだっけ

あのときだけ


7.ずっと幻でいい

汗ばむ静かな日々の隙間

僕らの影を落としてく

一枚一枚それは綺麗に

破れのないようやさしくね

積み重なってく僕らの影

いつか空まで届くだろう

その時見上げてみたならば

巨大な僕らが空掴む

雲をつかむような話なら

僕は宇宙のひとしずくになって

歌いたいな ずっと幻でいい



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