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【短編小説】影と僕

~第3話~


次の日の朝、俺はスッキリ目が冷めた。と言っても起きた時間は今日が学校なら完全に遅刻だった。
久しぶりに洸平と風呂上がりにアイス食べたりゲームをしたりして、心の底から笑えた夜だった。昨日寝た時間は0時を回っていた。遅刻はまずいと、まだ眠っている洸平を叩き起こして今日が祝日だと知った。

朝ご飯も用意してもらい昨日からお世話になりっぱなしで、本当に洸平家族には頭が上がらない。

「今日折角だからどっか回る?父さんが車出していいってさ。」

「え、折角の休みなのに大丈夫なんですか?」

「こうして遊ぶのも4年ぶりだろう?今日くらい甘えなさい。」

「行きたいところあるか?」


テーブルの斜め向かいに座って味噌汁を啜っている洸平のお父さんに顔を向ける。昔から穏やかな人で、遊びも勉強も子どもの自由を尊重してくれる。だから洸平もこんなに明るくのびのびとした性格なのかもしれない。いや、洸平がしっかり自分の思っていることを伝えているからこそ、洸平のお父さんもそんな洸平を尊重してくれているのかもしれない。

「昨日は清水寺とか八坂神社、平安神宮にも行ったかな。他におすすめの場所とかあれば……。」

「駅周辺回ったなら、今日は北側行くか。嵐山とか貴船神社とかその辺。お前神社好きだったよな?」

「うん、ありがとう!そうだね。折角だから何かお土産でも買って帰るよ。」

朝ご飯を食べ終わって、これくらいさせてほしいと皿洗いをさせてもらった。そして出掛ける準備をしたあと、今日は洸平と遊んで帰る旨を親へ連絡した。京都駅を15時1分発の新幹線で家へ帰る予定だ。


出掛けてからは時間があっという間に過ぎた。嵐山の太秦映画村でお化け屋敷やトリックアート等色んなアトラクションを楽しみ、お昼も映画村で済ませた。関西の出汁ベースのうどんは本当にうまいと思った。午後は北野天満宮や下鴨神社を回り、下鴨神社では丁度結婚式を挙げたであろう新郎新婦の写真撮影が行われていた。めでたい日に参拝できたことはとても幸運だった。また、下鴨神社は厄除けで有名な神社であり、少しは嫌な出来事が減るといいな、そんな軽い気持ちで選んだ厄除けの御守りだが、これはご利益がありそうだ。

14時45分に京都駅に到着した。

「突然だったのに、色々と本当にありがとうございました。お世話になりました。」

「やっぱり縁があるんだな、お前とは。学校が嫌になったらいつでもこっちに逃げてもいいんだから、またいつでも来いよ!」

「気をつけてね。颯太君のご両親にも宜しくね。」

「ちゃんとご両親と話をするんだよ。」

「はい!」

改札の脇で洸平とご両親に挨拶をする。
昨日、洸平に合わなかったら今頃どうなっていただろう。本当に運が良かったとしかいいようがなかった。感謝してもしきれない。

「今度はお土産持って遊びに来ます。本当にありがとうございました!」

45度にきっちり頭を下げて改札を通る。駅に来る前にお土産屋さんに寄って両親へのお土産も買った。昨日はあんなに帰りたくなかったのに、不思議だ。
洸平と洸平のご両親に会って、人の暖かさに触れて本音を吐き出すことができた。それが本来の自分を蘇らしてくれたんだ。

エスカレーターを上がる前にもう一度改札を振り返る。洸平と洸平のご両親が手を振ってくれている。こちらも手を振り返し、今度こそ新幹線のホームへ向かった。


家に戻ったのは18時頃だった。

(あっという間に戻ってきたな……。)

昨日の朝あれだけ黒い気持ちを抱えて飛び出した家。今は心が随分軽い。しかし両親と顔を合わせることを考えると心臓が早くなる気がした。手汗をズボンで拭き取ってからドアを引く。

「ただいま。」

玄関に入ってまず、母親に抱きしめられた。一日顔を合わせていないだけなのに酷く窶れていた。母の後ろには眉を寄せた父がこちらを見て立っていた。

「おかえり。」

父は緩く笑って一言投げかけた。母もおかえりと小さく俺の肩口で呟いた。帰ってきたんだ。


その日俺は両親ととことん話した。電話で話せなかったことも事細かに、何が嫌でどうしたいか。ちゃんと伝えた。両親は俺がこんなにも自分のことをはっきり話していることが珍しかったのか、最初こそ目を丸くしていたがちゃんと最後まで俺の話に耳を傾けてくれた。

今後は、俺がやりたいことは積極的に応援してくれると約束してくれた。俺からも、自分の意思をしっかり伝えることを約束した。

その日、長い2日間を終え身体が限界を迎えたのか、ベッドへ身体を沈めた途端眠りへと落ちた。



次の日。学校へ行った。両親とはわだかまりが溶けたが、クラスメイトは相変わらず胸糞悪かった。無断欠席やいきなりいなくなったことを面白おかしく色んなクラスに言いふらしていた。

「お前どこ行ってたんだよ。誰にも言わないでいきなりいなくなるとか、メンヘラかよ。」

「かまってちゃんか?」

「本当は探して欲しかったんだよね?」

言いたい放題だ。

「違うよ。とにかく遠くに行きたかったから。それだけ。」

「ふーん。結構意外性あるんだな、お前。ちょっと雰囲気も変わったみたいだし、まぁ良かったんじゃねぇの?」

クラスメイトの4、5人が俺の席を囲んでいる。面白半分でからかうやつが大半だ。しかしクラスの中で一番仲の良いと思っている男子生徒は人をよく見ているようで、ちょっとはまともなやつもいることに安心した。
そいつのお陰で、まぁそこそこ騒がられるのは仕方ない、と思い直せたので適当に流すことにした。

しかしその日1日中廊下を歩く度に好奇の目に晒され、挙げ句の果てには"メンヘラ野郎"のレッテルを貼られクラスメイトから馬鹿にされた。黒板に書かれた『メンヘラ野郎=そうた君』の文字。我慢にも限界がある。どす黒い感情が腹の底で渦を巻いていた。

下校時間、夕日で長く伸びた影が再び不敵な笑みを浮かべ揺れ動いたことに、俺は気づかなかった。


その日の夜、なかなか眠りにつけずにいた。

(メンヘラか……。)

思った以上に傷付いているらしい。馬鹿馬鹿しいと鼻で笑い飛ばした。しかしそれをきっかけに学校でのことを思い出し、身体の片隅に消えていた熱の渦が腹から脳天まで一気に駆け上がる。

「〜っゔぁあ゛っ……!」

必死で枕に顔を埋めながら怒りに震える。

(やはりクズだ。あいつらなんか消えてしまえばいい。人と違うことをしたやつを叩き潰すクソ野郎共……!)

その時、一瞬意識が遠のき眠りに落ちる感覚が身体中を支配した。自分の身体中を黒い影が覆う。それと同時に視界も沈んでいく。

何とか目を見開いた。
辺りは真っ暗だ。何も見えない。

身体は動かせるようになった。とりあえず手足を動かして藻掻いてみるも、空気を掴んで蹴飛ばしているだけだった。

(……これは夢か?いつの間にか寝たのかな。)

もういっそ眠るか、とその場に横になり目を瞑ろうとした。すると左側に光が差し自分の寝ている身体が見えた。頭が状況を理解する前に目の前の身体が動いてこちらを見る。自分であるはずなのに、何かおかしい。するとそいつは不敵な笑みを浮かべ、喋った。

「やぁ、やっとかわれたね。」


〜最終話へ続く〜

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